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西日本豪雨、東京のメディアによる現実味のない災害報道に違和感

西日本地方に平成最悪の豪雨被害をもたらした「平成30年7月豪雨」。今なお懸命な捜索・救助活動が続いていますが、なぜここまでの事態となってしまったのでしょうか。被害の大きかった岡山県にかつて住まわれていたという在米作家の冷泉彰彦さんは、自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で、同じ過ちを繰り返さないため「今後の対策へ向けての議論」の材料8つをあげ問題を提起しています。

西日本豪雨、反省点はどこか?

今回の中四国、九州、近畿における豪雨で被害に遭われた皆さまに、お見舞いを申し上げます。

私事に渡りますが、私は80年代から90年代にかけて岡山市と倉敷市の境界あたりに暮らしていたことがあり、今回の水害は全く他人ごとではありませんでした。清音村(きよねそん)とか真備町(まびちょう)といった、当時の同僚も住んでいた懐かしい地名が、大変な苦難に遭っていることには、心からの痛みを覚えます。

ちなみに、真備町(併合により倉敷市真備町)の災害については、地元の山陽新聞の記者さんが、ご自身の経験に基づいて書かれたレポート、「真備で豪雨災害直面した本紙記者 2階まで浸水『家族絶対守る』」が迫真の内容で、参考になります。本当に大変な災害であったことが良くわかります。

事態は現在進行形であるわけですが、今のうちに「今後の対策へ向けての議論」の材料は、皆さまと共有しておきたいと思います。是非、積極的な議論をお待ちしております。以下はそのための問題提起です。

1.全国的に避難が遅過ぎると思います。梅雨末期の集中豪雨というのは、日本列島にとっては巨大な災害リスクだということは、先祖代々身にしみているわけです。また、近年は「線状降雨帯」のメカニズムも解明され、その恐ろしさも改めて認識されています。にも関わらず、実際に雨が降り、水位が上がらないと避難命令が出せないというのはどういうことなのでしょう? 空振りになっても良いから、雨雲接近の前に余裕を持って避難するというのは、高齢化が進む中で必要と思います。

2.その避難先ですがこれが不明瞭です。全国放送のTVが「大雨特別警報」だとか「命を守る行動を」と絶叫していても、そしてその地域に「避難指示」が出たとしても、それはあくまで「抽象的な指示」であって「どこへ逃げろという具体的なものではないわけです。ですから「夜間なので、戸外は危険」だとして「裏山の反対側の部屋へ避難」などという絶望的なメッセージが出たりするわけです。危険で避難できないのであれば、そうならないように安全に避難できるうちに避難命令を出す、その上でどこへ行けば良いか具体的に指示を出さなくてはダメでしょう。

3.避難先ということでは、避難所が設けられているわけです。そこで「梅雨が明けて猛暑なので、熱中症に注意を」という呼びかけになり、一部の全国放送では「水が足りないかもしれないが、それでも水分を摂るように」というこれまた絶望的なメッセージを流していました。ですが、大抵の避難所というのは、学校の体育館であるわけです。そして、現在の小中高等学校というのは北海道などを除けば冷房設備はあるはずです。だったら、どうして冷房のない体育館に閉じ込めておくのでしょうか。少なくとも、体力の低下している高齢者などは、冷房の効く部屋に移動させても良いのではと思います。余りにも杓子定規な対応には直視できないものがあります。

4.倉敷市が現状把握に苦しんでいるようです。不明者犠牲者の数的な把握が不可能というのは一体どういうことなのでしょうか? 官僚がセクショナリズムに陥っているのか、首長のリーダーシップの問題なのか、大合併をやった後の新自治体としての統制が取れていないのか、それとも旧真備町の「真備支所」が被災したことで資料も人員もアクセスできなくなっているのか、とにかく、これではダメという印象です。

5.報道が十分でありません。冒頭掲げた山陽新聞さんのようなリアリティのある報道が何としても必要です。その際に、東京から「顔の見えるキャラ」を送り込むのではなく、NHKなら現地の支局が、民放なら系列局といった具合に、土地勘があり、地元事情に詳しい戦力がきめ細かく状況を伝え、それを全国放送がピックアップするようにしないとダメだと思います。東京から「馴染みのリポーターを送り込んで、断片的に印象論を伝えるだけという低レベルの報道からは、改善策への道筋はハッキリと出ては来ないと思います。

6.四国の愛媛県西予市で、ダムの放水による急速な水位上昇の結果死者も出ているようです。この問題は、日本の治水の歴史においては、長い間先人が苦闘してきた分野です。ダムの放流の際には、下流にどのような情報伝達をすれば良いのかという点で、ほとんどマニュアル化された手順があるはずなのですが、それが継承されていないのか、検証が必要です。同時に、放流が遅れて越流が発生し、最終的にダムの決壊という事態になれば、破滅的な水量の塊が下流に押し寄せるわけで、それを避けるためには放流は止むを得ないということも、この種の事件の報道に当たってはキチンと説明が必要と思います。

7.いつもこうした事態に際して思うのですが、どうして各地の首長特に都道府県知事が率先したリーダーシップを発揮できないのか不思議です。総理のリーダーシップも、周囲がキチンとブリーフィングしていないのか、どうもシャープさに欠ける感じですし、一体どうなっているのでしょうか?

8.JR西日本さんが早め早めに運休を決断したのは賢明で、ここ数年そのような判断が社会的に認知されてきているのも良いことだと思います。次は、他の交通機関との連携、そして官庁や地域の経済界との連携をスムーズにして、帰路の危ぶまれる出勤を止める、あるいは早い時間の帰宅を促すなどの動きに高めていくことが必要と思います。

image by: 首相官邸 - Home | Facebook

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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