かつては「聖職」とまで言われた学校教員の「ブラック化」が問題となっています。健康社会学者の河合薫さんは、自身のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』の中で、教師を取り巻くあまりに時代錯誤で劣悪な環境を紹介すると共に、その改善を強く訴えています。
※本記事は有料メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』2018年7月18日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
学校の部活とずさんな時間管理
またもや「働く」という、本来であれば人生を豊かにする行為で大切な命が奪われてしまいました。
富山県内の公立中学校に勤務し、2016年夏にくも膜下出血で死亡した40代の男性教諭が、今年4月、過労死認定されたことが毎日新聞の取材でわかりました。
先生は運動部の顧問で、週末は練習や練習試合でつぶれ、くも膜下出血発症2か月前の時間外労働は128時間超。このうち部活動に当てていた時間は79時間~100時間に達していました。
関係者によると先生は、「休みたい」と心身の負担を訴えることもあったそうで、この中学校を所管する市町村教育委員会は「コメントすることはない」と取材を拒否していると記されています(毎日新聞7月17日朝刊より)。
なぜ、一人の大切な命が失われたのにコメント一つできないのか? 私には理解できません。
でも、これが「組織」という化け物なんですよね。教育委員会の方たちの中には、ご家族にお悔やみの気持ちを言いたかったり、今後の対策などに関する意見を持っている人もいると思うんです。
でも、「個人の意見」なので口を閉ざす。
だからこそ、組織のトップが組織を代表してコメントすべきなのに、それをする人は極めて稀です。
トップの保身。そう。保身。下手なこと言って何がしかの責任を追求されでもしたら困るから「コメントすることはない」といった冷たい対応になってしまうのです。悲しいかな。組織という化け物は、ときに人の死よりも「保身」を優先するのです。
そもそも先生の残業は青天井です。時間外勤務のほとんどを自主的な労働とみなす「教職員給与特別措置法(給特法)」があるため、基本給の4%を「教職調整額」として給料に上乗せして支払い、時間外勤務手当は支給されていません。
給特法は1972年に施行された法律です。「4%」の根拠とされているのは、当時の先生の1か月の平均残業時間が約8時間だったからです(1966年度調査)。
「月8時間」とは驚きですね。今や、その10倍の80時間の残業をする先生が中学校では6割超。しかも、1970年代まで、先生の社会的地位は高く、子供の親たちは先生たちに敬意を払っていました。
校内暴力が社会問題化した1980年代も「あの頃は、親たちは先生の味方だったんです。でも、今は非難されることはあっても感謝されることはない」と、数年前にインタビューした先生がぼやいていました。
先生を取り巻く環境は、この20年で180度変わってしまったのです。
そんな中での過労死。なんとも言葉がありません。
おまけにこれだけ長時間労働が問題になっているのに、タイムレコーダーで勤務時間を管理している学校は小学校で10%、中学校で13%しかない(2016年時点)。
残念なことに、未来の大人を育てる場所で、リアル大人たちの命が軽んじられているのが現状なのです。
国も地方もそして、学校も、そして「私」たちも、先生の「生」にもっと向きあう必要があるのではないでしょうか。
そのためにはまずは、
- タイムレコーダーを義務化し、つけていない学校に教育委員会は罰則を科す
- 給特法は改定し、時代に沿ったものにする
そして、部活動については学校と切り離す議論もすべきだと、個人的には考えています。
地域によっては部活を教えるコーチを雇っている学校もありますが、
「結局、部活が学校の活動である以上、先生が解放されることない。部活動専属のコーチがいても『なにか起きたとき』そこに先生がいないとダメだと。ええ、そうです。親たちに非難されてしまうんですよ」
こう先生方から聞かされました(ある県の教師たちとの会合にて)。
そういえば今年3月、スポーツ庁が「学校の部活動については休養日を週2日以上、平日の活動時間を2時間程度とする指針」をまとめ、全国の自治体や中高に通知したが、このような通知やガイドラインなどには強制力はありません。
結局、あれこれ問題なるけど、誰が「責任」を追うかが明確でない。
結果として、最も弱い立場の「現場の先生」にしわ寄せがいく。
冒頭の過労死した先生は部活動にやる気があり、子供たち思いだったそうです。その先生が「休みたい」とこぼした。この事実をもっともっと真剣に受けめて欲しいと思います。
image by: shutterstock
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※『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』(2018年7月18日号)より一部抜粋