7月16日に米ロ首脳会談が開催されましたが、ロシアゲート疑惑やクリミア併合問題で緊張が続く中、いったいどんな交渉がなされたのでしょうか。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、米中覇権争奪戦渦中の世界情勢の観点からみれば「具体的合意事項がなかった」点にメリットが多いとし、その根拠について解説しています。
トランプープーチン会談の結果は???
トランプさんとプーチンさんは7月16日、フィンランドの首都ヘルシンキで会談しました。どうだったのでしょうか? 毎日新聞7月17日付を見てみましょう。
<米露首脳会談>核軍縮延長協議へ 具体的な合意事項なく
毎日新聞 7/17(火)1:32配信
【ヘルシンキ高本耕太、モスクワ大前仁】トランプ米大統領とプーチン露大統領は16日、フィンランドの首都ヘルシンキの大統領公邸で会談した。会談後の共同記者会見で、プーチン氏は2021年に期限を迎える米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の延長のために協議する必要性を強調した。首脳同士の直接対話が冷戦後最悪とされる両国関係の改善の契機となるか注目されたが、具体的な合意事項はなく、トランプ氏は「(関係改善に向けた)長いプロセスの始まりだ」と語った。
「具体的な合意事項はなく」だそうです。
トランプ氏はロシアによる16年米大統領選への介入疑惑について、「長い時間をかけて協議した」と述べた。だが、ロシア政府とトランプ陣営との共謀疑惑については「一切ないことが分かっている。(疑惑捜査が)核保有大国同士の外交に悪影響を与えている」と主張。プーチン氏も介入を改めて否定した。
(同上)
これは、「ロシアゲート」の話。「ロシアゲート」とは?
- ロシアが2016年のアメリカ大統領選挙に介入した?
- トランプとロシアは、共謀した?
- トランプがコミーFBI長官を解任したのは捜査妨害???
です。1.について、FBIは「間違いない」としています。しかし、プーチンは一貫して否定し、今回も否定しました。2.の共謀疑惑については、捜査がつづいています。トランプさんも、プーチンも改めて否定しました。
プーチン氏によると、内戦が続くシリア問題、米国が離脱を表明したイラン核合意についても協議。トランプ氏は「多くの重大な課題を協議した。大変建設的で有意義な会談だった」と強調した。
(同上)
アメリカとロシアは、シリア問題、イラン問題で対立しています。アメリカは、反アサド派を支援し、ロシアは、ずっとアサドを支援している。そして、シリアでは、ロシアが圧倒的に勝っている。アサドがサバイバルし、シリアのほとんどの支配権を回復しているのがその証拠。
イランについては、トランプさん、「核合意」からの離脱を宣言しました。なぜかというと、トランプの親友ネタニヤフ・イスラエル首相に頼まれたからです(イランは、イスラエル最大の敵である)。オバマさんは、中東に関心がなく、イスラエル、サウジとの関係をぼろぼろにした。しかし、トランプさんは、両国との関係を改善させました。
「イラン核合意離脱」については、正直アメリカは孤立しています。ロシアだけでなく、イギリス、フランス、ドイツ、中国、もちろんイランが「合意維持」を宣言している。最近トランプさんは、「イランから原油を輸入する国には制裁を科す」と宣言していますが。メチャクチャですね。
とにかく、米ロは「シリア問題」「イラン問題」で立場が違う。ヘルシンキで会った後も、二人の立場は変わらなかったと。
ロシアによるクリミア半島編入を米欧諸国が違法と批判するウクライナ情勢では双方に譲歩の余地がなかったようだ。
(同上)
米ロ最大の問題は、これでしょう。アメリカが、ロシアのクリミア併合を認めないまでも黙認し、制裁緩和に動けば大事件です。
結局、米ロ首脳会談の結果をまとめると、「核軍縮問題、選挙介入問題、ウクライナ問題、シリア問題、イラン問題などいろいろ話したが、具体的な成果はなかった」となるでしょう。
それでも会談は成功
米ロ関係は、2014年3月のクリミア併合以降、ほぼ一貫して悪化しつづけている。トランプとプーチンが会っても、いきなり具体的成果がでるはずありません。
では、米ロ首脳会談は失敗だったのでしょうか? そうともいえないでしょう。成果は、トランプもプーチンも、「米ロ関係を改善させる!」という意志を示したこと。アメリカから見ると、ロシアとの関係改善は、「戦略的」に意味があります。
結局、世界に大国は三つしかありません。すなわちアメリカ、中国、ロシアです。アメリカは、経済力でも軍事力でもナンバー1。中国は、経済力、軍事費、共にナンバー2。ロシアは、アメリカに匹敵する核超大国である。しかし、経済力(GDP)に関しては、世界12位で韓国の下。軍事費は世界3位につけています。
こう見ると、世界で起こっているのは、「米中覇権争奪戦」であることがわかる。そしてどっちが勝つかは、「ロシアの動向に大きく左右される」ことがわかるでしょう。米ロが一体化すれば、中国に勝ち目はありません。逆に、中ロの一体化がますます進めば、アメリカの覇権はあやうくなります。
ロシアにとってのメリットは?
トランプといい関係を築けば、少なくとも「追加制裁」の可能性は減るでしょう。アメリカは、今年になってからも、制裁を強化しつづけている(たとえば、スクリパリ暗殺未遂事件の後、アメリカは、ロシア外交官60人を追放した)。今回の会談は、制裁のさらなる強化を止める効果があるでしょう。
そして、米ロ関係がよくなると、「制裁破り」もしやすくなります。例えば米朝首脳会談の後、「中朝貿易が活発になっている」という話を聞きますね。これは、「制裁破りをしても、アメリカは、黙認するだろう」と考えているからそうなる。米ロ関係についても、同じことがいえます。
米ロ関係改善は、日本にとっても朗報
これ、すでに100万回書きました。中国は、アメリカ、ロシア、韓国と共に「反日統一共同戦線」をつくろうとしている。
※ 必読、完全証拠はこちら→反日統一共同戦線を呼びかける中国
中国の戦略は、
- 日米関係を破壊する
- 日ロ関係を破壊する
- 日韓関係を破壊する
です。
ですから日本の戦略は、
- 日米関係を、ますます強固にする
- 日ロ関係を、ますます強固にする
- 日韓関係を、ますます強固する
である。これ感情的に「イヤだ!」と思っても、「また孤立して敗戦」したくなければ、やるしかないのです。
そして安倍総理は、アメリカ、ロシア、韓国と仲良くしている。しかし、アメリカとロシアの仲は悪い。だから、日本、アメリカ、ロシアで、「中国包囲網を形成」という話にならない。アメリカとロシアが和解すれば、日米ロの仲は良好となり、それだけで、中国は動きにくくなります。
中国が尖閣を奪おうと思えば、
- アメリカは、日本防衛に動くよね
- ロシアは、中立だよね
こういう「見通し」であれば、中国はうかつに行動できないのです。逆に、ドゥテルテさんのように、感情に任せてアメリカとの関係を破壊すれば、中国は、遠慮なく侵略してきます。哀れフィリピン。いまではドゥテルテさん、「フィリンピンは中国の省になってもいい」などと宣言しています。日本もよほど気をつける必要があります。
というわけで、「具体的成果がなかった」米ロ首脳会談。しかし、大局的に見れば、日本にとってもアメリカにとってもロシアにとっても、「良い結果」だったといえるでしょう。
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