人材不足が嘆かれる昨今、厚労省と法務省が「刑務所出所者等就労支援事業」という制度を実施しているそうです。いったいどのようなものなのでしょうか。今回の無料メルマガ『新米社労士ドタバタ日記 奮闘編』では、そんな疑問に会話形式でわかりやすく答えています。
刑務所出所者等就労支援事業
人材不足がますますひどくなっている。5月時点の「有効求人倍率」は、全国で1.60倍、京都府は1.55倍という。そんななか、人材不足対策で、「こんなの使ってみようかと思うのですが、どうでしょう?」とお客さまから相談があった案件が「刑務所出所者等就労支援事業」だ。これって一体どんな事業?
新米 「『刑務所出所者等就労支援事業』ってわかります? さっき、お客さまから『どんな事業?助成金もあるそうだけど…』って質問の電話があったんですけど、答えられなくって…」
大塚 「『刑務所出所者等就労支援事業』? 私は、知らないわぁ。E子先輩、わかります?」
E子 「『刑務所出所者等就労支援事業』ね。少し前に調べたことあったわ。厚労省と法務省が実施している取組みね」
大塚 「厚労省もやっているんですか。では、知っておかないといけませんね…。だけど、『雇用の安定のために』っていう助成金の冊子には載ってなかったですよね」
E子 「そうね。主な対象者は、『受刑者、保護観察対象者等から要件を満たす者』、実施内容は、『刑務所出所者等への職業相談・紹介』『刑務所出所者等を雇用する事業所の求人開拓等』よ」
新米 「そうなんですねー」
E子 「日本では、出所者でも無職となると再犯率が高いんだって。そういうことから、出所者の生活の基盤づくりを進めるために就労の支援をして、安心して暮らせる社会の実現に取り組んでいるんだけど、5月にその事業の報告がまとまって発表されたってわけ」
新米 「無職の再犯率か~。やはり仕事がないとまた犯罪を起こしてしまう率が多いってことですね」
大塚 「家もない人もあるだろうし、そうすると刑務所の方が住む場所もあるし、ご飯も食べられるし、そっちの方が良いって思ってもおかしくないですもんね」
E子 「平成28年の数字だけど、再犯者のうち刑務所入所時の無職者は72.9%だって。仕事がある人の3倍ね」
新米 「そう考えると、やっぱり高い数字ですね」
大塚 「だから、再犯に至る要因の1つになっているって考えられているんですね」
新米 「その発表を受けて、C社さんがそれを知ったのかなぁ…」
E子 「国の動きも今までは、
- 平成28年に『再犯の防止等の推進に関する法律』が全会一致で成立
- 平成29年に『再犯防止推進計画』が閣議決定、
⇒重点分野に『出所者の就労・住居の確保』を明記する
ということをしているわ」
大塚 「国をあげての事業ってことですね」
E子 「今回、この事業を実施するハローワークのうち4ヵ所と雇用に協力する事業所5社から、就労支援の工夫や雇用事例について 聞き取り調査をしたそうよ。厚生労働省は、報告書を通じ、『刑務所出所者等就労支援事業』の取組について広く国民に周知し、刑務所出所者等の就労に関する理解の促進を図っていくのが狙いのようね」
新米 「ハローワークは、僕らの仕事に直結してるけど、どんな取組をしているのかなぁ?」
E子 「たとえば、出所直後から就労と住居を確保できるよう刑務所内で職業相談・職業紹介をしているんだって」
大塚 「へぇ~、刑務所内でも動いているんですね」
E子 「そうね。寮のある事業所を紹介したり、ハローワーク長野では、刑務所内で就職面接会の実施、ハローワーク明石では、内定通知書を出所の前に発行して、出所へのモチベーションを向上したり、そういうことを出所前にしているようね」
新米 「そういえば、うちの区にも刑務所ありますね」
E子 「ハローワークでの出所後の就労支援は当然、ナビゲーター、保護司、保護観察官等が協力して保護観察対象者を支援したり、ハローワーク福岡中央では、公共職業訓練や農林漁業就職支援を活用したり、事業所との面接時にスーツを貸与したりして、就職を実現していっているそうよ」
新米 「スーツの貸し出しですか。これだったら、福岡だけでなく、どこでもできそうですね」
大塚 「そういえば、刑務所を出所するとき用の洋服を寄付している人もあるってきいたことあるわ」
所長 「なになに…。私も昔、中小企業家同友会でそういうボランティアをしている人から洋服の寄付依頼があって協力したことがあったなぁ…」
大塚 「そんなことがあったんですね」
所長 「そうだね。先日の豪雨災害で古着の寄付は受け入れてもらえなかったんだ。受入れてくれる刑務所へはまた寄付してもいいなぁ…って考えていたところだよ」
E子 「他にハローワーク堺では、刑務所の入所歴を開示し、更生の意欲を伝えることで対象者と事業所の信頼関係を構築したり、ハローワークごとにもそんな取組みをしているようね」
大塚 「この事業では、犯罪や非行をした人を雇用し、立ち直りを助ける『協力雇用主』を募集しているそうですね」
新米 「『協力雇用主』の募集ですか、ふーん」
大塚 「いま、全国に2万の協力雇用主がいらっしゃるそうだけど、実際に雇用に結びついたのは、そのうち900ほどに留まっているらしいわ」
所長 「建設業が半数以上、サービス業、製造業を入れると3業種で8割、従業員100人未満の会社が7割を占めているそうだね」
新米 「そんな協力雇用主の不安を軽くする国の制度が助成金ってわけですね。どんなものがあるんですか?」
E子 「刑務所出所者等就労奨励金制度って名前がそうよ。生活習慣や技能習得のアドバイスをしたことを条件に出所者を雇用した事業主に『就労職場定着奨励金』という制度があって、これは6ヵ月間、月毎に最大8万円の受給、その後、6ヵ月経過後3ヵ月毎に最大12万円、合計最大24万円が受給できる『就労継続奨励金』もあるわ」
新米 「C社さんはこれをおっしゃっていたのかなぁ…」
E子 「身元保証人を確保できない場合に1年間を限度に『身元保証制度』最大200万円という仕組みもあるわ」
所長 「身元保証は大きな問題だね」
大塚 「実際の職場体験や実務経験をしてもらった場合は、講習委託費として最大2万4,000円が支給される『職場体験講習』というのもありますね」
E子 「これは、以前にうちでも一般的な職場体験をしていただいたことがありましたが、あれとそんなに変わらないように思いますね…」
所長 「職場体験は、そうだろうね…」
新米 「そういえば、トライアル雇用もあがっていますが、これは、一般的なものと一緒ですよね」
大塚 「うん、それは同じだと思うわ」
E子 「あと、事業所における雇用の取組も紹介されていますね」
所長 「そうだね。お客さまへのアドバイスのためにも事業所での取組みもしっかり知っておこう。事例としてご案内できることもあると思うよ」
全員 「は~い」
● 協力雇用主とは…?(法務省)
● 刑務所出所者等の社会復帰支援対策に関する行政評価・監視 結果報告書
犯罪や非行をした人の多くは、事件への反省を踏まえて生活を立て直し、社会の健全な一員として暮らしていきます。けれども中には、再び犯罪や非行をしてしまう人もいます。こうした再犯者を減らすことが、犯罪のない安全な社会を築くためには重要です。ここでは、犯罪や非行をした人の立ち直りを支える再犯防止に関する取組などを紹介します。
- 今、再犯防止が重要な理由
- 再犯を防ぐために必要なこと
- 刑務所などで行われている取組
- 社会復帰に向けた出所・出院後の指導や支援
- 再犯防止のため、あなたにできること