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スタンプラリー外交を止めろ。日本のため安倍首相が今すべきこと

外交に熱心な安倍首相。第二次政権発足後だけでも延べ150回に及ぶ海外訪問を数えますが、最も多く訪れているのはやはりアメリカでした。ジャーナリストの嶌信彦さんは自身の無料メルマガ『ジャーナリスト嶌信彦「時代を読む」』の中で、総理はアメリカ偏重を改め、今こそ外交面においてなすべきことがあると記しています。

スタンプラリー外交からの脱却、近隣外交にパイプ役を─中国、北朝鮮、韓国、アジアなど─

安倍首相はいつから外交を得意と感ずるようになったのだろうか。首相が外国を訪問することになると、関係する役所や民間団体の首脳、それと新聞・テレビなどのメディア陣も随行するので、一行はたちまち数十人に膨れ上がる。しかもメディアは首脳外交を大きく取り上げるので、首相の海外訪問は派手に報道されがちだ。

かつての首脳は必ずしも海外訪問を得意としなかったし、語学の問題もありせいぜい年に2~3回あるかどうかという程度だった。したがって日本は経済大国といわれながら、首脳個人の世界における存在感はそれほど目立たなかった。外交で目立った総理といえば、田中角栄氏、中曽根康弘氏ぐらいだったのではなかろうか。

世界巡りのスタンプラリー?

ところが安倍首相は、とにかく外交に熱心だ。暇さえあれば海外に出かけている。といえば多少大げさになるが、首相に就任してから年に10回前後は出掛けているのだ。特に第二次政権(2012年12月26日発足・2013年以降)になってから目立ち延べ訪問国・地域数は約150回に及んでいる。

毎年開かれる先進国首脳会議(サミット)、APEC首脳会議、国連総会などのほか、ロシア、中東、インド、モンゴル、トルコ、ケニア、ブラジル、バングラデシュ、欧州東欧各国、バルト3国、東南アジア各国、ニュージーランド、オーストラリア、オマーン、エチオピア、中央アジア各国等々、ほぼ全世界の主要地域に足を伸ばしている。首相在任期間が長いこともあるが、これほど世界に足跡を残した首相は珍しい。まるで世界巡りのスタンプラリーを行っているような訪問数だ。

アメリカ以外の近隣外交も

最も多い訪問国はいうまでもなくアメリカである。アメリカ大統領の来日も含めれば在任中に一番力を入れ、寄り添うように付き合ってきたのはアメリカである。歴代首相は日米関係の絆を強めることに力を入れてきたが、安倍首相は際立っている。ゴルフをセットしたり別荘に招いたり異常ともいえるほどの親密ぶりを演出してきた。

その背景には北朝鮮の脅威が日に日に増し日本海や日本の上空をミサイルが飛び交って日本が騒然とした事態が大きく影響していたのだろう。この北朝鮮の脅威に対抗するには、アメリカのニラミが必要と考え、アメリカと一緒に北朝鮮制裁で手を組んで“安心・安全”を日本国民にもたらそうと目論んでいるのではないか。

ところがこの思惑は、韓国の文在寅大統領がアメリカと北朝鮮のあっと驚く首脳会談を演出したことで違ったものになってしまったようだ。むろんトランプ大統領は北朝鮮が核開発の放棄を実現しない限りは今後も“圧力”をかけ続けると主張しているが、首脳会談後は金正恩・党委員長の人物を評価し、北は核開発を止めるだろうと吹聴していた。もしその通りに事が進んでいくなら圧力路線一辺倒を主張し続けてきた安倍首相はハシゴをはずされた格好になってしまう。

北朝鮮にパイプはあるか

はたして金正恩・党委員長はトランプ会談をどう受け止め、どういう姿勢で臨むのだろうか。一部には早くも“具体的な内容は何も詰まっていないし、日程もはっきりしていない。初の米朝首脳会談が行われた”というパフォーマンスだけで、結局は尻切れトンボになるだろうという観測が強まっている。

しかし金正恩・党委員長も米朝首脳会談の話合いの中身を全部蹴っ飛ばしトランプ大統領に恥をかかせては後が恐いと思っているはずだ。また、南北朝鮮の戦争状態を終わらせることで、アメリカから経済支援を受けたい思惑もあるはずだ。今後は南北朝鮮の首脳会談や外相、事務レベルなどで具体的な日程と両国の取引内容を詰めてゆくとみるのが妥当なのではないか。

米国と総花外交からアジアへシフトを

そんな米朝の接触が始まった時、安倍首相は外交をどうするつもりなのか。最近、北朝鮮と話し合いたいとも言い、打診しているようだがトランプ大統領が次に何か事を仕掛ける前に日本も北朝鮮外交に何らかの手を打っておくべきだろう。安倍外交は華やかだが、近隣の北朝鮮、韓国、中国、あえていえば東南アジア諸国との密なパイプ、話合いの準備が出来ているとは言い難い。

そろそろ安倍外交は、総花的な世界外交だけでなく近隣の国々との話合いの密なパイプづくりにもっと力を入れておく時ではなかろうか。近隣の国々とは首脳外交だけでなく、閣僚クラスや経済界、外にはあまり知られていないがいざという時に物をいうパイプ役を同時に築いておくべきだろう。

かつての日中外交が難しかった時期には、政治だけでなく経済界知識階級芸術界スポーツ界などの分野でもいくつかの大きな太いパイプがあり、それらが日中国交回復の時にどれだけ大きな役割を果たしたかを思い起こしてみることも大事だろう。いま中国、北朝鮮、韓国、台湾、東南アジア諸国などと公式以外のパイプ役を担える人々が在野にどの位いるか、などについても調べておいたほうがよいのではなかろうか。

間もなく行われる自民党の首相候補者選挙でも内政や抽象的な外交政策だけでなく、どれだけ海外に個人的パイプを持っているかについてもぜひ討論して欲しいものだ。

(TSR情報 2018年8月23日)

image by: Drop of Light / Shutterstock.com

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ジャーナリスト。1942年生。慶応大学経済学部卒業後、毎日新聞社入社。大蔵省、日銀、財界、ワシントン特派員等を経て1987年からフリー。TBSテレビ「ブロードキャスター」「NEWS23」「朝ズバッ!」等のコメンテーター、BS-TBS「グローバル・ナビフロント」のキャスターを約15年務め、TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」に27年間出演。現在は、TBSラジオ「嶌信彦 人生百景『志の人たち』」出演。近著にウズベキスタン抑留者のナボイ劇場建設秘話を描いたノンフィクション「伝説となった日本兵捕虜-ソ連四大劇場を建てた男たち-」を角川書店より発売。著書多数。NPO「日本ニュース時事能力検定協会」理事、NPO「日本ウズベキスタン協会」 会長。先進国サミットの取材は約30回に及ぶ。

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【著者】 嶌信彦 【発行周期】 ほぼ 平日刊

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