連投の球児を「美しい」と称える、スポーツ後進国ニッポンの実態

 

悲劇は防げるはずなのに

千葉は、そのような心情になるのは「甲子園が魅力的すぎる」からだと説明している。小学生の時から肩の痛みに苦しみ、高校では痛み止めの注射を打ちながら連投した。その時には「将来」の二文字は消えていて、仮にプロ野球のスター選手として活躍する人生を棒に振ることになろうとも「今、目の前の仲間たちと甲子園で戦いたいと思いました。怪我をしたから自分だけが出場を放棄するという選択はなかったです」とも(同上)。

となると、これは、玉砕覚悟で特攻に出撃した戦時中の若者たちと同じことにならないか。ここで自分だけが抜ける訳にいかない、花と散ろうという切羽詰まった心境に17~18歳の若者がのめり込んでいくのを、本人が止められるはずもなく、止められるとすれば大人の指導者しかいないが、その大人が逆に若者を自殺行為に追い込んだのである。

昔から言われていることだが、このようにして高校野球は多くの優れた人材を使い潰してきた。幸運にも途中で潰れずに好成績を収めた若者がヒーロー扱いされてプロでもてはやされ、その中からは米メジャーで活躍する者も出ているけれども、投手の場合は肘の靱帯損傷などの怪我で悩む場合が多い。松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平など皆そうで、その原因として「ジュニア期の登板過多が問題視されている。黒田博樹は高校時代に三番手投手で、練習試合にしか登板しなかったので、メジャーに行っても壊れないで帰って来たと言われている。

このことが日米にまたがって議論になってからの米国の対応は機敏かつ徹底していて、メージャーリーグ機構と米国野球連盟が2014年に18歳以下のアマチュア投手を対象にしたガイドラインピッチ・スマートを作成した。これは、

  1. 1日の投球数は17~18歳で最多105球
  2. 31~45球を投げた場合は中1日、76球を超えると最低でも中4日の休養
  3. 試合に登板しない期間を年間4カ月以上設け、そのうち2~3カ月は投球練習もしない

──など、まことに厳しいもので、小学生でも毎日300 球の投げ込み練習をやらされる場合がある日本の現実からは、かけ離れたものである。

米国ほど厳格でなくとも、例えば単純に「2試合連続登板禁止」としただけでも、各チームは最低限2人のエース級投手を育てなければならない訳で、吉田や千葉のような目には遭わなくて済む。苦痛に耐えて連投する高校生投手を「美しい」と称えるような甲子園のありようを見た米メジャーリーグのスカウトが「児童虐待だ」と言ったのは有名な話だが、それがスポーツ後進国=日本の赤裸々な実態である。

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