米中貿易戦争は経済戦ですが、世界史80年周期説の観点から「2018年は第2次世界大戦勃発から約80年後」に該当するため、第3次世界大戦としても間違いはないとも言われます。国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、過去の大戦を紐解き日本が孤立し大敗した4つの過ちを示し、現在の「米中覇権争奪大戦」でとるべき同盟のあり方などについて詳しく解説しています。
日本の岐路~日本が犯した4つの間違い
時々、この話しますが、「歴史は80年周期で繰り返される」という説があります。この件、細かく解説しているのが、こちらの本。『フォース・ターニング 第四の節目』。これ、トランプさんの最側近だったバノンさんのバイブルだそうです。
そして、著者のストラウスさんとハウさんは、この理論を基に、これまで数々の予測をあててきた。それで、「ホントにそうなのかもしれん」と考えている人が多い。バノンさんを起用していたトランプさんは、もちろん、この話を知っているはず。どの程度信じているかは不明ですが。
どうなんでしょうか?私には、わかりません。しかし、08年に「100年に一度の大不況」が起こった時、確かに「1929年の世界恐慌」を思いだしました。正確にいうと80年ではなく、79年ですが。
しかし、その後の歴史は、異なってみえました。前回の大恐慌時、アメリカ大統領は、「古典派」のフーバーさんだった。それで、何も対策を打たないまま時間が流れ、状況が悪化しつづけていった。
ところが、80年後に大統領になったオバマさんは、過去の教訓から学んでいました。即座に大規模な金融緩和を実施した。そして、数年間200兆円単位の財政赤字を出しながら、企業を救済していった。結果、アメリカも世界経済も救われました。それで、オバマさんの人気は、いまだに民主党ナンバーワンなのです。
孤立に進んだ日本
日本は、どうなのでしょうか?明治維新以降、驚異の成長をつづけていた日本。
1905年、日ロ戦争に勝ち、世界を仰天させました。しかし、その後、日本は破滅に向かっていきます。まず05年当時、日本は、アメリカ、イギリスと非常にいい関係にあった。当時、「アジアの平和は、日本、イギリス、アメリカの事実上の同盟が守る」などといわれていた。日ロ戦争も、私たちのご先祖様が死力を尽くして戦ったこともそうですが、同盟国イギリスの支援、アメリカの財政支援が、大きな助けになって勝てたのです。
しかし、日本はこの戦争後、非常に大きな戦略ミスを犯します。アメリカの鉄道王ハリマンが日本に、「満鉄を共同経営したい」と提案。日本は、これを断った。(1つ目の間違い)。これが、なぜ「戦略ミス」だったのか?
日本最大の仮想敵は、ロシア、後ソ連の南下政策でしょう?もしアメリカを満州に入れておけば?ロシアが南下してきたら、アメリカも対応しなければならなくなる。日本は、相当楽になったはず。ところが、日本は、このオファーを断った。アメリカは、「日ロ戦争に大金を出したが、見返りは何もなかった」と激怒。これで、日米関係が悪化した。
次に、第1次大戦時。日本の同盟国イギリスは、非常に苦しく、日本に陸軍の派兵を要請します。日本は海軍を出し、こちらは大活躍した。しかし、陸軍は一兵も出さなかった(2つ目の間違い)。これで、イギリスは、「日本と同盟している意味はない!」と激怒。日英同盟は、破棄されることになった(1923年)。これで、日本はアメリカ、イギリス二大国との関係が悪くなった。
そして、1932年。日本は、満州国を建国。中国とソ連は、もちろんこれに不満でした。この時点で日本は、アメリカ、イギリス、ソ連、中国を敵にまわしています。1933年、日本は、国際連盟を脱退(3つ目の間違い)。ますます孤立していきます。そして1937年、日中戦争がはじまった。中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受け、日本と戦っている。こんなもん、勝てるはずがありません。はっきりいえば、この時点で日本の負けは決まっていたのです。
何が問題だったのか?国際的に孤立したこと。
日本には、「もっと強気がガンガン国益を主張しろよ、こら!」と、勇ましい人たちがいます。日本は、戦前、見事に国益を主張していたのです。
アメリカが、「満鉄を共同経営したい!」
日本、「わが国の国益にあわないから、お断りだ!」
イギリス、「ドイツの猛攻で苦しい。陸軍を送ってくれ!」
日本、「それはわが国の国益にあわないから、お断りだ!」
国際連盟「日本国の経済的利益は尊重するから、満州国ではなく中国領内の自治政府ということにならないか?」
日本、「それはわが国の国益にあわない。国際連盟は脱退させていただく!」
日本は、当時常に、「ジャパン・ファースト」でやっていました。その結果が孤立であり、破滅です。
80年後の日本は
1931年、満州事変が起こりました。それから79年後の2010年、「尖閣中国漁船衝突事件」が起こり、日中関係は、ひどく悪化した。「なんとなく似ているかな?」と思いますが、30年代の日本と2010年代の日本は、別の道をいきます。
日本は30年代、孤立の道を驀進していた。アメリカ、イギリス、ソ連、中国を敵にまわしていた。しかし2010年代の日本は、アメリカ、欧州、ロシアと良好な関係を保っている。
もちろん、これは「勝手にそうなった」のではありません。民主党時代は、
- トラストミー鳩山さんが、日米関係をボロボロにした
- 野田さんの尖閣国有化で、日中関係は戦後最悪に
- メドの北方領土訪問で、日ロ関係は最悪に
ボロボロだった外国との関係を、安倍総理が丁寧に修復していった。おかげさまで、日本は今、孤立していません。孤立していないおかげで、日本人は、ゆっくり眠ることができる。
来るべき最後の試練
さて、30年代の指導者たちとは異なり、孤立を避け、非常にうまく進んでいる安倍総理。しかし、まだ試練はつづきます。
今年は2018年。79年前は、1939年になります。そう、「第2次世界大戦」がはじまった年。今年、「第3次大戦」ははじまっていませんが、「米中貿易戦争」は、はじまりました。アメリカは、「中国は100万人のウイグル人を拘束している!」と人権がらみの「情報戦」も開始した。さらに、台湾支援も強めている。米中共に、「敵国を破壊しつくせるだけの核兵器」をもっている。米中が大戦争(大戦闘)に突入することは難しい。それで、「経済戦争」がメインになっているのですね。
さて、1940年、日本は決定的なミスを犯しました。それが、「日独伊三国同盟」の締結。日本は第2次大戦がはじまった後、「負ける側」についてしまった。これは、本当に大きなミスでした(4つ目の間違い)。
現代にあてはめてみると?第2次大戦勃発から79年目にあたる2018年、事実上の第3次大戦といえる(?)米中貿易戦争がはじまった。安倍総理は、習近平に説得され、日中関係が劇的に改善されてしまった。
安倍総理と習近平は、「共同で、保護主義と戦っていくこと」(つまり、アメリカと戦っていくこと)を宣言した。こういうことがあると、総理、いままでの努力は、すべて水の泡です。
今の世界情勢を見て、1930年代と比べると、現在のアメリカは、落ち目の覇権国家イギリスの役割でしょう。中国は、ドイツの役割です。中国は、負けるのが確定ですので、安倍総理はくれぐれも中国側につかないよう、お気をつけください。
「アメリカにつくの?中国につくの?」
これ、1930年代でいえば、「イギリスにつくの?ドイツにつくの?」という質問と同じ。まさに、日本は今、「歴史的岐路に立っている」といえます(1930年代、すでに日本と対立していたイギリスにつくという選択肢はなかったかもしれません。しかし、ドイツと同盟を組まないことはできました。ABCD包囲網で石油を輸入できなくなった。その時も、真珠湾を攻めず、欧州のアジア植民地だけを攻め、石油をゲットし、そこでストップすることもできた。「ルーズベルトは、「戦争不参加」を公約に当選したので、日本がアメリカ領を攻めなければ、日米戦争をはじめることはできなかっただろう」と、倉山満先生は、しばしば指摘しています)。
総理は、中国に行き、「民主党政権の時代、日中関係は戦後最悪になりました。しかし、最近は、徐々に両国関係が好転しつつあり、大変うれしく思います。では、さようなら!」といって、戻ってこればいいでしょう。くれぐれもトランプさん、アメリカを批判なさらないよう、お気をつけください。
image by: 首相官邸