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アメリカ、終わりの始まり。それでも中国とは距離を置くべき理由

激化の一途を辿る米中貿易戦争ですが、我が国の工作機械受注が大幅減となるなど、日本にとっても対岸の火事ではありません。今後この「戦争」はどのような展開を見せ、世界にどのような影響を与えるのでしょうか。そして米中両国と日本はどのような関係を持つべきなのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』で著者の津田慶治さんがこれらについて分析し、日本の進むべき道を提示しています。

米国株の暴落局面に

10月第3週も、世界的な株の暴落になったが、ここで終わりではない。今後の見通しを見よう。

米国株の大幅調整

NY株は、10月3日に2万6,651ドルと過去最高値を付けて、10月11日に2万4,899ドルまで下落し、その後上下を繰り返して、10月26日に、2万4,688ドルまで下がったが、企業の決算内容は良いのに株価を下げている。アマゾンも同様で決算内容は良いのに、利益が予想に届かず株価を下げた。FANG株などのハイテク株の値下がりが出て米国株の地合いは非常に悪い。

しかし、企業決算内容はそれほど悪くない。まだ米GDP成長率も3.5%と良い。まだ本格的な景気後退局面ではない。もう少し、企業業績が悪くなるともう一段の下げが出てきてもおかしくない。

そして、アマゾンの株価急落で、株式時価総額がマイクロソフトに抜かれて3位になった。トップのアップルの決算発表が今週にあるので、もし、アップルも崩れるとFANG株全体が下落となる。

この下げを主導しているのは、米ハイテク株の実株を売っている中国政府ファンドであり、ハイテク株から順に売ると述べている。中国のベンチャーへの投資を制限すると米国は述べているので、今のうちに整理しようとしているようだ。

その持ち株高3兆円もあり、規模もでかい。この売りを手掛かりに、ヘッジファンドや株アプリが空売りを仕掛けている。

このため、米中貿易戦争の一時休戦などの政治的な取り組みがないと、米国の株価は当分下落基調になる。このため、弱気の相場に入ったようである。1987年ブラックマンデーのパターンと似ていると言ったが、徐々に2008年リーマンショックのような様相に近づいている。

しかし、株価を上昇させた大量のインデックス投信の投げがまだ出ていない。この投げが出てきた時点が底であるが、まだ、底になっていない。買いはまだ早い。当分、市場を静観していた方が良い。

日本と中国株は

日本も10月2日に2万4,448.07円と6年ぶりの高値を付けたが、10月12日に2万2,323円まで下げて、10月26日2万0,971円になり、2万1,000円割れになってしまったが、2万円割れになる可能性も出てきた。そして空売り比率が50%を超えて、こちらもインデックス売買が中心であり、NY株が落ちつかないと反転しないが、空売りなのでいつかは買い戻さないといけない。その時点は大幅上昇ということになる。NY株の動向を見て、底で買うことである。

日銀のETF買いが日経平均やトピックスを買い支える状況であり、海外勢の大幅な空売りは無謀である。累積で26兆円も日銀が買い、売らないので、株を支える効果は大きい。その上に年間6兆円も買っているので効果大。

上海総合指数は9月28日2,821ポイントで、10月19日2,449ポイントまで下げたが、その後、国家投資部隊が買い支えて、10月26日2,598ポイントまで戻している。暴落局面が終了した。上昇はないが大きな下落もない。下げれば、国家投資部隊が買い支えるようだ。

外で売り、内で買いと中国の行動はわかりやすい。この行為はドル売り人民元買いになるので、人民元安を止めていることにもなる。

しかし、NY株価下落でも円高にもならない。ドルが還流して、10年国債の金利も上がらないために、ドルが強くて円高にもならない。今、1ドル=112円前半~111円後半で推移している。

中国は人民元安に振って、米国の関税上昇を相殺する手段に出て、1ドル=7元の方向に誘導していると米国は言うが、実情は資金流出が起きてそれを必死に政府は買い支えているように見える。

このように新興国の通貨が下落しているので、世界に投資していたドル資金が還流するので、ドル安にもならない

米国の終わり

米国の内情は、ホームレスの数が増えていて、かつ、ローン残高も異常に増え、そして、信用格付けが甘くなり、個人のローン残高が限界を越えても貸し込んでいる状態である。そして、学生ローン残高の増加があり、若年層の消費が減っている。現在、債務残高は、2008年リーマンショク時より2倍も大きな規模になっている。いつか、その限界に達することになる。

国民の50%以上が貧困になり、中間層の没落が問題で、米国の力は確実に落ちている。米国は企業業績を上げるために、企業の減税などの恩恵を与えて、政治的に利益を積み上げているが、輸入物価の高騰で、それも尽きようとしている。

富裕層に続き、中間層の減税をトランプ大統領は言っているが、来年予算は、全省庁の予算を5%カットであり、軍事費も5%の削減と趣旨替えのようである。減税のために赤字幅が大きくなり、米国債の発行量が増加したことで、ドル資金の還流が終わると、長期金利が6%程度に上昇しかねないために、赤字を減らすために、予算規模を縮小せざるを得ないことによる。もし、金利上昇が起きると、スタブフレーションで不景気化のインフレとなり、収拾がつかなくなる。そろそろ意識し始めたようだ。

その米国では、INF条約破棄、トランスジェンダーの排除、トランプ支持者による民主党や反対者への爆弾送付など、話題に事欠かない。しかし、分断を進めて暴力主義を全面に出して、反対者を排除する方向に走り、徐々に米国で政府に反対する自由な発言もできなくなる危機が来ているようだ。

米国の価値観の崩壊という事態になっている。特にバノン氏は、暴力的なクーデターもあり得ると述べていて、不気味である。民主的な資本主義の崩壊になる可能性も感じる。

ピケティによると、企業の利益優先という矛盾を隠すために、中国という敵を作り、その敵に国民の目を逸らすようにしているというが、それにも一理あると見る。

米軍の撤退

軍事費も削減になり、世界から米国は撤退するしかない。最初にアフガンからの撤退は決まりで、次はシリアであろう。ということで中東からの撤退になる。世界全体の覇権を放棄することになるが、中国の台頭も許さないということで、アジアシフトになる。

しかし、韓国は米国の衰退を見て、北朝鮮との友好な関係を後戻りできない状態にまで持ってきている。非武装地域全体から監視所を撤去するという。何があっても、韓国は北朝鮮との戦争を想定しないことになる。

日本や米国の警告を無視して、韓国が北朝鮮と関係を緊密化するのも、米国後の時代を見据えて、対中国の関係を朝鮮半島を一枚にしておく必要があるからであろう。東アジアで米国を最後まで見捨てないのは、日本しかないようであるが、形成不利になれば米国もアジアからも撤退を想定する必要になっている。

このように、次の時代を見据えて、韓国、中国はもとより欧州もロシアサウジトルコなど各国も動き始めている。このため、世界情勢は複雑化してきた。敵と味方がわからない動きになっている。

特にサウジの反政府記者ジャマル・カショギ氏を殺害し、欧米から批判されているサウジは、ロシアや中国との関係を強化するようである。トランプ大統領はあいまいな態度であるが、「砂漠のダボス会議」に欧米日の企業と政府関係者が欠席したことで、中国やロシア企業と政府関係者のみの出席となったことで、中露に傾斜した。

日中関係

安倍首相も中国を訪問して、日中友好化を進めるようであるが、米国の出方にかかっている。米国のアジア撤退も想定しておくことが必要で、トランプ大統領がやりたいことは国連でも述べた通り、米国の孤立化である。それを共和党がまだ国際主義を捨てきれていないから、過渡期の状態になっているだけである。

米国は11月末のG20で、習近平主席とトランプ大統領の会談を行うが、貿易関係の交渉はしないと言っている。そうすると、米国の株価は当分下落基調のままになる。しかし、中間選挙へ向け、現時点では中国敵視政策を下ろせないから言っている可能性もある。

日本が米国と中国の中間に入り調整ができれば一番良いが、反対に米国から裏切り者と呼ばれると、今後が難しくなる。あくまでも、現時点では日中友好は、近隣友好の範囲で行っているとすることだ。

もう1つ、中国と日本の関係が逆転したような印象を受ける。各所で中国が上の演出をしている。経済大国中国を国民に向けて演出したいのであろう。これは仕方がない。

中国の理由

日本企業は、米国への関税UPでサプライチェーンも変更するしかない。中国工場での生産から日本に戻すか米国での生産に転換するしかない。

このため、中国の工場も徐々に減り、習近平が進める「中国製造2025」にも影響が出始めている。

そして、この影響は、日本の工作機械受注が9月22%も減少したことにも表れている。日本の中核である製造業のお得意先は、完全に欧米から中国に代わっている。中国の景気後退貿易不振は即日本に影響してくる。

中国は、日本と一緒に製造業の先端化を進めたいし、日本は中国への部品と機械の輸出を維持したいという両国の思惑が一致している。

当分、米中の対立から日本は影響を受けるが、日本企業も利他精神を出して、米国とも中国ともうまくいくようにするしかない。それができるのは、利他精神を持つ日本しかない。日本は、安倍首相が国連で述べた自由主義社会と貿易自由化を主導することである。

利他の精神があれば、最後にはみんながわかってくれる。

さあ、どうなりますか?

image by: Samrit Pholjan / Shutterstock.com

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【著者】 津田慶治 【月額】 初月無料!月額660円(税込) 【発行周期】 毎月 第1〜4月曜日 発行予定

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