先日掲載の「驚く10月。なぜ年金の支払額や振込額がこの時期に変わるのか?」で、標準報酬月額は4〜6月の3ヶ月平均で変わる、とレクチャーしてくださった無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者・hirokiさん。しかし、この標準報酬月額が途中で変わるケースもあるそうです。その場合、受け取る年金額にどう影響してくるのか、hirokiさんが今回の記事でわかりやすく解説しています。
年の途中で固定的な賃金が変動すると徴収される保険料や年金額が変更される事もある
この間は、4月、5月、6月の給与(報酬という)に基づいて、その3ヶ月平均を取って新しい標準報酬月額を9月から用いる事によりその新しい標準報酬月額が翌年8月まで続く事をお話ししました。
● 驚く10月。なぜ年金の支払額や振込額がこの時期に変わるのか?
これをよく、「定時決定」とか「算定」と呼びます。この4月からの3ヶ月間の給与(報酬)の平均値によっては、9月からの標準報酬月額が上がったり、もしくは下がる事によって月々の天引きされる保険料額が変わってしまいます。標準報酬月額が上がれば、天引きされる保険料が上がってしまうし、標準報酬月額が下がれば天引きされる保険料が下がる。
ちなみに給与(報酬)という表現にしてますが、実際は報酬と呼びます。単に基本給みたいな給与だけでなく、報酬というのは賃金、給料、俸給、手当、その他労働に対する対価として受けるもの全てを含みます。なお現金だけでなく現物として支給されたものも含んだりします。だから支給された給与だけを見ると、こんなに標準報酬月額は上がらないはずんだけどなあ…と思って総務あたりに聞いてみると、様々な諸手当とか定期券、食費とか社宅の家賃の会社負担とか入ってたりですね。
さて、9月に新しい標準報酬月額が決まってしまうと翌年8月まで同じ標準報酬月額が適用される事になり、例えば標準報酬月額が上がっちゃった人は翌年8月まで(9月支給給与までの天引き)それが適用される事になります。
例えば4月は528,169円、5月は605,420円、6月は564,230円だったら、その合計額は1,697,818円となります。3ヶ月平均にすると565,939円になり、その金額を標準報酬月額表に当てはめると9月からの標準報酬月額は29等級目に当てはまり56万円になります。等級って何?という方は下記のリンクを見てみていただくと、等級別に分かれてる事がお分かりいただけると思います。
● 標準報酬月額表及び厚生年金保険料額(日本年金機構)
月々の厚生年金保険料は56万円×9.15%=51,240円。
なお、その3ヶ月平均が業務の性質上例年他の月に比べて著しく変動してしまう場合があります。そういう時は9月からの標準報酬月額が不当に高くなってしまうので、直近1年間(前年7月から今年6月)に受けた報酬の平均よりも2等級以上差が生じてしまう場合は、直近1年間の平均の標準報酬月額を用います。
例えば1年の平均で出した標準報酬月額が50万円だったなら、その50万円を9月から標準報酬月額として用いる事で50万円×9.15%=45,750円で抑えられます。ただ、1年平均を用いてしまうとその時の標準報酬月額の急激な増額による保険料負担増をしないで済みます。しかし、標準報酬月額が低くなった事により厚生年金を貰う時はその分低い年金額になってしまうのでその1年平均を用いる時はその1年平均を用いる事の申立書や、労働者の同意書が必要になる。
さて、基本的には4月から6月までの平均を取って9月から適用してそれが翌年8月までは続くわけですがその間に標準報酬月額が変更になる事は無いのか? その後に賃金が結構上がっちゃってしまった、または下がった場合は標準報酬月額を変更する事はあります。ただし、基本給みたいな「固定的賃金」が上がったりもしくは下がったり、その状態が3ヶ月継続した場合は4ヶ月目に標準報酬月額が変わります。これを「随時改定」とか「月変」といいます。
たとえば、標準報酬月額が56万円(月々の厚生年金保険料51,240円)の人の固定的賃金が降給により平成31年2月から報酬が50万円に下がった場合。2月からそれが4月まで3ヶ月続くと、平成31年5月から標準報酬月額は50万円となり、天引きされる厚生年金保険料も5月から45,750円に下がる。
なお、この人の場合は平成31年8月までその50万円の標準報酬月額が適用される。もし随時改定が平成31(新年号元)年7月~12月の間で行われたら、平成32(新年号2)年8月まで標準報酬月額50万円を適用する。
このように、年の途中で固定的賃金が昇給または降給により変動した場合は「随時」で、標準報酬月額を変更するわけですね。そしてすでに年金を受給している人が、随時で標準報酬月額が変更された場合は現在受給してる年金額にも影響してきます。
というわけで年金額はどう変更するかを見ていきましょう。年金の話が本来のメインのメルマガなのに、標準報酬月額の変更の話だけで終わるわけがない(笑)。
1.昭和30年7月19日生まれの男性(今は63歳)
● 何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)
62歳(平成29年7月に62歳になって年金受給権発生)の年金支給開始年齢を迎え、現在支給されてる年金は老齢厚生年金144万円(月額12万円)。62歳前月の平成29年6月までの年金記録で年金の支給を請求により開始する。60歳定年後も継続雇用により厚生年金加入中だった。
※注意
60歳到達時賃金よりその後の給与が75%未満に下がった場合の最大65歳到達月まで支給される場合がある、雇用保険からの高年齢雇用継続給付金についての年金額調整に関しては今回は省いてます。高年齢雇用継続給付金については最近のこちらの記事を参照ください。
● もらえて嬉しい。年金の「高年齢雇用継続給付金」とは何か?
標準報酬月額は20万円だった。直近1年間に貰った賞与は無し。厚生年金に加入しながら、老齢厚生年金を受給すると年金額が停止される場合がある。停止額がかかっているかどうかを算出。
- 年金停止額→{(標準報酬月額20万円+年金月額12万円)-28万円}÷2=2万円
よって月々2万円の年金停止がかかっていたため、支給されていた老齢厚生年金額は12万円-2万円=10万円だった。ところが労働条件の見直しにより、固定的賃金が今年7月から185,000円(標準報酬月額に当てはめると19万円)に下がっていた。という事は、7月から4ヶ月目にあたる今月10月からは標準報酬月額は20万円から19万円に下がるのか?
これは…変わらないですね^^;
20万円から19万円へ1等級しか下がってないから、そのまま標準報酬月額20万円が用いられ続ける。随時改定をする場合は、2等級以上の変動が無いといけない。
じゃあ更に、今月10月から毎月一定の家族手当が無くなって固定的賃金が155,000円に下がった。この大幅な報酬の引き下げが10月、11月、12月と続いた。となると平成31年1月から新しい標準報酬月額16万円に変更される(平成31年8月まで標準報酬月額16万円)。標準報酬月額が変わっちゃったから、平成31年1月からの年金支給額も変わってくる。
- 平成31年1月からの年金停止額→標準報酬月額16万円+年金月額12万円-28万円=0円
つまり、平成31年1月からは年金には停止はかからなくなり、今まで2万円の停止額がかかっていて10万円の年金振り込みだったけど月額12万円の年金に変更されて振り込まれる。
なお、年金は偶数月に前2ヶ月分が振り込まれるので、2月15日振込は12月分10万円、1月分12万円の22万円となる。4月15日には2月分12万円、3月分12万円の計24万円が振り込み。
ついでですが、この男性が65歳まで働いた場合の年金額の変更を示すといくらになるか。平成29年7月から平成30年12月までの18ヶ月は標準報酬月額20万円で働いた。平成31年1月から65歳誕生月の前月である平成32(新年号2)年6月までの18ヶ月は標準報酬月額16万円で働いたとします。そうすると、65歳到達時改定という年金額の再計算を行う。
- 老齢厚生年金(報酬比例部分)→20万円×0.945(平成30年度再評価率)÷1,000×5.481×18ヶ月+16万円×0.945÷1,000×5.481×18ヶ月=18,646円+14,917円=33,563円増える
- 老齢厚生年金(差額加算)→1,625円(平成30年度価額)×60ヶ月(60歳から65歳まで働いた分)=97,500円
この差額加算というのは65歳から支払われるもの。
よって、65歳からの老齢厚生年金額は144万円+33,563円+差額加算97,500円=1,571,063円となって終身支払われる。
また、65歳になると国民年金から老齢基礎年金も支払われ始め、もし65歳到達時に65歳未満の生計維持している配偶者が居たら老齢厚生年金に配偶者加給年金389,800円も加算される場合がある。
※追記
差額加算(経過的加算ともいう)は65歳から支払われるものです。なお、60歳から65歳まで働いた分で単純に算出してますが、20歳から60歳までに既に480ヶ月の厚生年金期間がある人はほとんど差額加算は付かない。もし、20歳から60歳までに480ヶ月の厚生年金期間がある場合はこういう事になるから。
- 1,625円×480ヶ月(←上限月数)-779,300円÷480ヶ月×480ヶ月(昭和36年4月以降の20歳から60歳までの厚生年金期間)=780,000円-779,300円=700円(年額)
● 経過的加算(差額加算)とは一体何なのか?(参考記事)
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