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年金支給開始70歳なら42%も増える。待てるなら待つ方がお得な訳

先日、安倍首相は企業の継続雇用年齢を70歳に引き上げる方針を表明しましたが、それに伴い年金の支給開始年齢に対する不安の声も各所から上がっています。今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、「支給開始年齢が70歳になるというのは誤解」とする一方、自らの意思で70歳から貰う選択をした場合、支給額がどう変化するのかについて詳しく解説しています。

年金支給開始年齢が70歳になるとかいう紛らわしい誤解と実際70歳から貰おうとする事の仕組み

最近は70歳まで雇用の話が結構話題になってますよね。それと共に年金も70歳から貰う事になるというような事もまことしやかに囁かれています。

年金支給開始年齢自体は70歳どころか、今現在も65歳に向けて引き上がってる最中であります。男子は2025年、女子は2030年でやっと55歳支給開始年齢を迎えます。まあ、昭和36年4月2日以降生まれの男子、昭和41年4月2日以降生まれの女子からもう65歳年金支給開始年齢になっていきます。

そもそも高齢化率がナンバーワンの日本(今は高齢化率27.7%ですが2060年からは40%になる見通し。その後40%で続く)がまだ65歳支給開始年齢にすら到達してないという事が問題なんですけどね^^;

何とものんびりした話ですが、こんなにのんびりなのは年金支給開始年齢60歳から65歳までに引き上げるって話を20年間棚上げしてきたからです。昭和55年から当時の厚生省が厚生年金支給開始年齢を引き上げるべきだという事で改正を求めましたが、当時の時代は会社の定年が55歳という所がほとんどだったため、労働組合や野党が猛烈に反発し、更に与党だった自民党も選挙に響くから事実上反対しました。それから、昭和60年改正、平成元年改正の時も見送られてしまいました。

平成6年になった時に高齢者の雇用を高齢者雇用安定法により60歳未満の定年を禁止したために、そして65歳までの雇用をとりあえず努力義務としたのでやっと厚生年金の支給開始年齢の65歳までの引き上げスケジュールが決まりました。国民年金はできた当初の昭和36年4月から元々65歳からの支給ですよ。しかしその実施も平成13年からというものであり、昭和55年から実に20年棚上げされてきたのであります。

もちろんそのツケは将来世代の負担へと引き延ばされただけでありました。何事もそうですが、その時にやらなければならない事を先送りしても結局課題は付きまとってきますよね。

今の年金制度というのは、今の現役世代が支払っている保険料をそのままその時の受給者に仕送るという賦課方式というやり方を取っています。世代間扶養ともいわれますね。元々は年金制度は積立方式から始まりましたが、数々のインフレや年金の大幅な引き上げにより積立では追い付かなくなり、その時の現役世代がその時の受給者を支えるという賦課方式に転換していきました。

自分のお金保険料が受給者のものになってるというのが気に入らないという声は多いですよね^^;でも老後になった時はその時の現役世代に支えてもらうという事です。少子高齢化が進む社会では現役世代が減って、高齢者は増え続けるという中では賦課方式では現役世代の負担が過大なものとなるため適切ではないとも言われますが賦課方式に転換していくしかなかった。

過去の高度経済成長期(1955年~1973年くらいまで平均10%以上程の賃金の伸びだった)と、1973年の第四次中東戦争によるオイルショックで景気が一気に悪くなりますが、その後も経済安定成長期として平成始まってすぐのバブル崩壊までは現役世代の賃金、そして物価は毎年伸びていきました。

こうなってくると賃金と年金額との乖離が大きくなっていきますよね。だから何度も年金額を大幅に引き上げたりした。現役時代の賃金と年金額の幅が大きくなりすぎると、年金の生活保障の機能が役に立たなくなってしまうから年金額を引き上げないといけなかった。

そしてちょうどオイルショックがあった1973年に導入された物価の変動に対応するための物価スライドを採用したので、これは事前に積み立てる事が出来ないため、ますます賦課方式で対応するしかなかった。この1973年から、厚生年金は現役男子の平均給与のおおむね60%程を目指すというものに大幅に改善されてきた。

また、賦課方式は少子高齢化に弱いなら、「じゃあ自分で年金を積み立てたほうがいい!!」っていう声も現代では多かったりします。積立だったら自分の自由だし、少子高齢化も関係ない!って言われますが、年金積立方式であれ少子高齢化の影響を受けます

積み立ては少子高齢化の影響を受けないというのは誤りです。なぜなら、年金を貰う時に年金積立金を取り崩す時に、債券や株式などの資産を売却する事になりますが、その資産の買い手は少子高齢化で規模が縮小した現役世代なので、供給過剰となった資産は価値の下落を招いて結局年金額が下がってしまうからです。

まあ…公的年金で積立というのは複数の大きな問題があるから適切ではないんですけどね。例えばインフレしたらすぐパーになるし^^;実際、戦後すぐのハイパーインフレで実際にパーになったんですけどね。積立方式から始まった年金制度は昭和20年代初期は崩壊寸前だった。昭和29年大改正で形を変えて蘇りました。

でも、少子高齢化は今後も進むから賦課方式はヤバイんじゃない!?って思われたかもしれませんが、平成16年の大きな改正で保険料負担の上限を決めてその中で年金給付を行うという形に変わったから、今現在はそれがうまく機能していく事が大事ですね。この辺の話はめちゃくちゃ長くなるし、過去にも何度かやったんでこの記事では割愛します。その辺を知りたい方は下記の有料メルマガバックナンバーを購入していただくとわかると思います。

マクロ経済スライドによる年金額抑制と年金額変更ルールなど(2月の有料メルマガバックナンバー)

で、ちょっと話が逸れましたが、今回は70歳までの年金の増やし方である年金の繰下げについての基本を押さえましょう。今ニュースになってる年金の支給が70歳になるというのは年金の繰下げの話とごっちゃに理解されてる所があるからですね。

なお、65歳以降1ヶ月年金を貰うのを遅らせる毎に0.7%も年金が増えていき、もし最大70歳まで遅らせると0.7%×60ヶ月=42%の年金が増えます。つまり、65歳時点の年金が100万円なら5年後には142万円になってるという事です。今時こんな金融商品あるかッ!!? めちゃくちゃ増えますが、この年金の繰下げは利用者が全受給者の2%にも満たないのが現状です。

その辺の切実な制度の理由は来週の有料メルマガで詳細にお話ししますので、今回の無料メルマガではあくまで基本を見ていきましょう。では事例。

1.昭和26年6月24日生まれの男性(今は67歳)

何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!(参考記事)

65歳時点の老齢厚生年金額は120万円。65歳時点の国民年金からの老齢基礎年金は70万円とします。なお、現在は昭和36年10月30日生まれの生計維持してる妻(今は57歳)が居るため、配偶者加給年金389,800円も加算中。年金総額は2,289,800円(月額190,816円)。

しかし、この男性は退職金で生活に余裕があった為、年金はしばらく貰わずに頑張って70歳まで貰わないという「年金の繰下げ」を希望した。老齢厚生年金と老齢基礎年金両方貰うのを遅らせるか一方だけを繰り下げるという事もできる。この男性は両方繰下げを希望した。

さて、70歳まで繰り下げると60ヶ月間貰うのを遅らせる事になるので、0.7%×60ヶ月=42%最大増える事になる。ところが、気が変わって平成31年3月に繰下げの申し込みをする事にした。そうすると、65歳誕生月の平成28年6月から申し込みの前月である、平成31年2月までの33ヶ月間貰うのを遅らせた事になる。年金増額率は0.7%×33ヶ月=23.1%になる。年金繰下げ申し込み月の翌月分(平成31年4月分だから初回支払いは6月15日)からの支給になる。

そして配偶者加給年金は増額せず、そのまま389,800円。配偶者加給年金は特別何もなければ、妻が65歳になるまで支給される。つまり、

まあ、65歳時点の年金総額2,289,800円よりも、33ヶ月間貰うのを遅らせただけで438,900円も増えましたね^^

年金の繰下げはやはり凄い!!でも記事の冒頭で申し上げましたように、利用者は年金受給権者の2%もいかないんですよね…^^;その理由は次回の有料メルマガで事例を用いて説明します。

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で、結構年金は増えましたが、前も何度か書いてきましたけど公的年金にも税金がかかるんですね(遺族年金や障害年金は非課税)。65歳以上の人は年金総額が158万円以上だと税金がかかってくる。そういう人には毎年10月(今年と去年は違いましたが)になると扶養親族等申告書というものが送られてくるんですね。その扶養親族等申告書を出してもらい、翌年以降の年金からの所得税の源泉徴収税額を決める。その申告書を出さないとかなり高額の所得税が源泉徴収されてしまうので注意しましょう^^;

ちゃんとその申告書を期限までに提出したとします。いくら源泉徴収税額が年金から引かれるのか。まず公的年金の「基礎控除」を算出します。

注意

以下の計算は2ヶ月分の年金額と所得控除で用いてます。年金は前2ヶ月分を偶数月に支払うから、2ヵ月分に直したほうが分かりやすい^^;実務上は基本的に2ヶ月分で計算します。

ただし、65歳以上の人の基礎控除は月額135,000円の最低控除があるので、それを2ヶ月分に直してみると27万円になります。さっきの25%何とかと、その最低保障の控除を比べて多いほうを基礎控除として使うから、27万円を基礎控除として使う。

次に70歳未満の控除対象配偶者が居るので(とりあえず配偶者所得見込み38万円以下とする)、配偶者控除月額32,500円×2ヶ月=65,000円が使える。

つまり、2ヶ月分の年金額は454,783円だけど、源泉徴収税額が6,114円引かれるから、偶数月に振り込まれる年金額は454,783円-6,114円=448,669円となる。

なお、65歳以上の人は介護保険料や、国民健康保険料、75歳以上になると後期高齢者医療保険料が原則として年金から天引き(年金からの特別徴収)になるので、それらの社会保険料があれば社会保険料控除として源泉徴収税額はさらに低くなる。個人住民税も年金からの天引きにはなりますが、これは税金だから控除には使えないです(笑)。よって、所得控除に使えなかった控除があるなら、源泉徴収された年の翌年1月1日以降5年以内に還付申告をして税金を還付してもらう事になる。

ちなみに年金受給者は年金収入(国の年金、共済からの年金、基金からの年金、確定拠出年金等の総額)が400万円以下、かつ、年金の雑所得以外の所得が20万円以下なら確定申告する必要は無い。ただし、住民税の申告は必要な場合があるので確定申告時期になったら市役所に確認が必要。

さっきの源泉徴収された後の年金額は448,669円になりましたが、65歳以上の人は原則として社会保険料が年金天引きになるので更に振込額は下がると見込んでください。それに所得が上がると社会保険料や個人住民税も上がるからその分、年金の繰下げ効果は下がってくるのでその辺は頭に入れてたほうがいいですね。

追記

年金を貰うのを遅らせたら、年金の繰下げの申し込み月の翌月分から増額された年金の支給になりますが、繰下げを途中で辞退する事もできる。つまり、65歳時点に遡って本来の増額しない年金を貰うという事。33ヶ月遡って本来の増額しない年金を一時金で貰う事になる。65歳時点の月額が190,816円だったので、190,816円×33ヶ月=6,296,928円の年金が遡って振り込まれる。なお、一時金で支払われてますが、一時所得にはならずにその年その年に支払うはずだった年金の雑所得になるため、源泉徴収票も遡って年分送られてくる。確定申告のやり直しなどが発生したりするので、そこは税務署に確認をお願いします。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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【著者】 年金アドバイザーhiroki 【発行周期】 不定期配信

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