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ゴーン氏逮捕は官邸案件か?各紙の伝え方に警戒心を持つべき理由

日本国内のみならず、海外でも大きく報道されているゴーン氏の逮捕劇。日を追うごとにさまざまな新情報が明らかになり、「政治的な案件」との見方が強くなってきました。そして22日午後8時過ぎ、日産はゴーン氏ら2人を解任すると発表。19年にも及ぶゴーン体制が幕を閉じました。このような状況を新聞各紙はどう伝えたのでしょうか。ジャーナリストの内田誠さんが自身のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』で詳細に分析しています。

カルロス・ゴーン氏逮捕を巡る最新情報を新聞各紙はどう伝えたか

はじめに~政治的な案件

日産のゴーン会長らが逮捕された事件、一言で言えば、剛腕経営者のウラの顔は強欲の塊だったという「超・私的な印象でスタートしましたが、背景に、フランスの事実上の国営企業でもあるルノーと日本の基幹産業である自動車会社の一角を占める日産の経営陣との暗闘”という、ナショナルな規模の衝突という相貌が明らかになってきました。

何ヶ月も前から日産経営陣と検察当局が気脈を通じて情報をやり取りし、ルノーと日産の合併の直前にこれを阻止する動きとして、地検特捜部がゴーン会長らを逮捕するという流れには、容疑内容を越えた意味がありそうです。

ということは、この件に関するどんな些細な情報も、最初から徹頭徹尾、政治的にバイアスが掛かった情報だった可能性があり、メディアは政府の思い通りにコントロールされていた可能性もありますから、今後も十分警戒しなければならないということです。新聞もテレビも、その他のメディアも皆、情報の扱いには細心の注意を払わなければならないことになりますし、受け取る側もいつも以上に警戒心を持たなければならない、そういうことだと思います。

さて、きょうはどんな情報が飛び交っているのか…。

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。

《朝日》…「ゴーン会長が虚偽記載指示」
《読売》…「ゴーン容疑者姉へ資金」
《毎日》…「日産社長から任意聴取」
《東京》…「失踪者 時給500円最多」

◆解説面の見出しから……。

《朝日》…「財団解散 成算なき文政権」
《読売》…「文氏 支持層に迎合」
《毎日》…「総括会社が権力基盤」
《東京》…「慰安婦財団 解散」

ハドル

3日連続となりますが、日産関係で出てきている情報を整理してお
きましょう。

クーデターではなく「我慢の限界」

【朝日】は1面トップに9面と35面の関連記事。見出しから。

1面

9面

35面

uttiiの眼

1面トップ。ゴーン容疑者がケリー容疑者に虚偽記載を指示していたとの内容は、今朝の《東京》も報じている。しかし《朝日》は、ゴーン容疑者からケリーへ容疑者に指示したメールを捜査当局が押収したとの点が独自の内容。本当であれば、2人の容疑者の「共謀犯意を立証する物証」が出たことになり、捜査側としては極めて重要な事実となる。「関係者への取材で分かった」というときの“関係者”は、捜査当局かもしくは日産社内の協力者のどちらかだろう。

9面経済面の記事「高額役員報酬 米欧流の波」は、日本でも増えている「1億円プレーヤー」が2018年3月期決算で538人おり、トップ10の半数は外国出身者という状況であること。しかし、トップはソニーの平井会長で27億1,000万円だったという。重要なのは、ゴーン会長が少なくとも5年間、約20億円を受け取っていたといっても、米大企業の役員と同水準かやや少ない程度だということだ。アメリカの場合、一般的な働き手との格差は特に大きく、米主要350社のCEOの平均報酬は21億3,000万円で、平均的な働き手の312倍。日本の場合、高額報酬の役員がいる国内100社で見たところ、従業員の平均給与との格差は30倍だったという。

35面は日産とルノーの「暗闘」の部分についての記事。ゴーン会長は、ルノーのCEOとして、統括会社「ルノー・日産B・V」のトップになり、3社に対する支配権を今も握っている。 そのゴーン氏に対して日産との経営統合に進むよう促しているのが仏政府でありマクロン大統領という構図のようだ。日産側は、もともと経営危機を救ってくれたルノーとゴーン氏に頭が上がらないが、経営統合を避け、むしろルノーとは対等の関係に持ち込みたい。そのような軋轢の中で、今回の会長逮捕劇が起こったという見立て。

国際的に見れば、年20億円もらっていても不思議はないのだとしたら、ゴーン会長による「年10億円の報酬隠し」は、“不要な工作”だったのだろうか。ともあれ、内部告発者と地検特捜部の側から見れば、「報酬隠しはゴーン会長の弱みであり、その弱みを突いて彼を追い落とし、その復活も阻止できれば、日産がルノーとフランス政府に飲み込まれる事態を防ぐことができる、そのように意味づけられていることだろう。

ルノーの議決権停止が狙い

【読売】は1面トップに2面、6面、37面に関連記事。見出しから。

1面

2面

6面

37面

uttiiの眼

《読売》1面は独占的な内容。ゴーン会長の姉とのアドバイザー業務契約の存在が明らかになったようだ。姉が弟に集った結果なのか、それとも、弟から姉への「プレゼント」だったのか。年1,120万円という金額は小さくないものの、ゴーン氏の公称10億円、実質20億円の報酬から比べれば、1%あるいは0.5%。いくらでも自分の収入から案配できるはずのところを、わざわざ「アドバイザー契約」とは驚いた。こういうものこそ、「強欲と非難されて然るべきだろう。

2面は「暗闘」に関する記事。《朝日》と違い、非常に分かりやすい

ゴーン会長は3社を全体として支配できるルノーCEOの地位を確保する代わりにフランス政府から日産との経営統合を進めるよう仕向けられていたようだ。現在43.4%の日産株を買い増して50%超にすれば日産をルノーの子会社にすることができる。 それに抵抗しようとした日産生え抜きの幹部たちは、逆に現在15%しか持っていないルノー株を25%まで買い増し、株式を持ち合う場合に適用される法律の規定によって、ルノーの議決権を停止しようと考えた。ところが、取締役会は9人中5人が「ゴーン派」。そこで、会長とケリー容疑者を逮捕させ、解任することで勢力図を逆転させようとしたということだ。

「暗闘」が何を巡って行われたかがハッキリ分かる記事になっている。

不平等の解消を

【毎日】は1面トップに3面の特集「墜ちたカリスマ」、7面と27面社会面にも関連記事。見出しから。

1面

3面

7面

27面

uttiiの眼

法人としての日産も両罰規定によって立件するという情報は、昨日の《朝日》一面が報じていたもの。ただし、《毎日》は、西川(さいかわ)社長と志賀俊之取締役(前最高執行責任者)への任意での事情聴取が既に行われたという記事になっている。昨日の《朝日》も、5年という期間の長さと年10億円という額の大きさを、法人立件の理由としていたが、今朝の《毎日》は「記載義務がある額(1億円)に比べてもゴーン氏の不正額は極めて大きい」という検察幹部の話を伝えている。これは正常な感覚に思える。

1面にはもう1本記事があり、《朝日》《読売》が書いている「暗闘」についての記事になっている。株を持ち合っているのに日産側にはルノーに対する議決権がない点を、日産とルノーの関係の不平等」とし、今回の事件をきっかけにして、日産側はその解消を目指すという。

3面の特集は、《朝日》も特集で取り上げたオランダの統括会社についての取材記事。 《朝日》は「玄関まで行ってみた」程度の中身だったが、《毎日》の方はかなり詳しい内容になっている。2002年に設立された「ルノー・日産B・V」は日産とルノーの折半出資で、互いに持ち株比率が過半に満たないので、緩い連合をつなぎとめる役割が期待された事実上の「持ち株会社」と位置づけられている。ここに両社の幹部が集まるのは年に1、2回だそうだが、それでも部品共通化など、成果を誇る記載がホームページ上に上がっていたという。

ただ、この統括会社も事実上牛耳っていたゴーン会長の振る舞いには、日産側の不満が溜まっていたようで、日産取締役会の議決が統括会社によって覆されたことがあり、あるいは「日産の経営資源がルノーに流れている」ということもあったようだ。記事はさらに、その背景に、ゴーン会長に圧力を掛け、ルノーへの発言力を強化してきたフランス政府の存在を指摘している。

官邸案件か?

【東京】は1面左肩に、2面の関連記事2本、26面と27面は見開きで「こちら特報部」、28面社会面も。見出しから。

1面

2面

26面・27面

28面

uttiiの眼

《東京》は1面トップに、入管法改正の問題を持ってきている。外国人技能実習生の失踪者に関して、失踪者の8割が最低賃金以下で働いていたとの試算をもとに、野党が政府を追及した国会審議について取り上げた。日産関係は1面左肩から。

《朝日》のところで書いたように、1面記事は、有価証券報告書の虚偽記載は、ゴーン会長自身がケリー容疑者に指示して行われたという内容の記事。さらに、ケリー容疑者から指示を受けたのは、法務担当の外国人執行役員と日本人の幹部社員で、2人とも「ゴーン容疑者に近い間柄だった」というが、この2人が司法取引によって刑事処分を軽くしてもらう代わりに捜査に協力しているのだという。2人はケリー容疑者から細工しろとか分からないようにしろなどと命じられ、虚偽記載に手を染めていたという。

26面と27面は、「暗闘」についての「こちら特報部」。だが、ここでのテーマは日産とルノーの「暗闘」だけではない。見開きの左半分は、司法取引を国民にアピールすることで森友・加計学園問題で失った信頼を取り戻したい検察の思惑と、特捜部によるゴーン逮捕には、フランスと犬猿のなかにあるトランプ米政権へのプレゼントという側面があるのではないかという推測が書かれている。今度のことが、フランス政府が筆頭株主であるルノーの弱体化につながるのであれば、そうした可能性も考えられる。さらに、ゴーン逮捕後、早速、日産の川口均専務執行役員が官邸に赴いて菅官房長官に事件の経過説明と謝罪をしたことも、「アメリカへのプレゼント説と符合するかもしれない。

新聞がここまで示唆するのはかなり難しいことだが、《東京》の「こちら特報部」欄は読者の「週刊誌的興味」にも応えようとしている。様々な可能性を示唆することにおいて、全国紙各紙は臆病すぎるようにも思う。

image by: Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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