私が聞き取ったおばあさんの本当の主訴はこうだった。
「点滴を打たれているので、腕をまくりあげられて、布団の上に置かれた腕が冷えて痛い。さらに動かせないので痛い。布団が腕に当たって痛い。点滴の針を抜けないのであれば仕方ないので、布団の中に腕を入れて寒くないようにしたい。なんとかして」
というものだ。
ほんの少し、相手の立場にたって、
「痛かったですね。よく我慢しましたね。たいへん立派です」
と言って思いやりを示してあげたり、腕が冷えないようにカイロをそばにおいたり、腕を布団の中に入れて、布団が痛い腕に当たらないように、ガードしてあげたり、やわらかいクッションをあてたり、何かしてあげることもできたはず。温かさは痛みを緩和することができる。物理的にも、心理的にも…だ。
「明日の午前〇時に担当医が巡回に来るので、あと少しお待ちください」
と具体的にわかるように時間を区切ったり、さらには、
「今、先生に聞いてきますね」
と確認してあげたら、もっと良いだろう。しかし、
「私の指示および指導に従いなさい、きまりです」
というお達しで、お婆さんの心は凍ってしまった。おそらく看護師さんの言うことは正しいのだろう。しかし、人間は感情で動くものだ。感情が納得できなければ、どんな指導も人には入っていかないのだ。人は、「理解された」、「優しくされた」と納得しなければ、動いたりしない。