MAG2 NEWS MENU

世界中が呆れ顔。米英という旧覇権国が撒き散らす老害の大迷惑

かつて世界を圧倒的な力でその覇権下に置いたイギリスとアメリカですが、そんな「元覇権国」が2019年、国際社会に大迷惑を及ぼすとするのはジャーナリストの高野孟さん。高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で英米各々が抱える深刻な問題を解説しつつ、両国が世界に迷惑を撒き散らすだけの存在になると判断した理由を記しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年1月7日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

米国と英国:2つの元覇権国が撒き散らす老害の大迷惑

2019年には、米国と英国という2つの老いた元覇権国が、世界環境の中での自分の位置付けと使命についての認知能力を著しく鈍らせながら、意味不明の破壊行動に打って出て国際社会に大迷惑を及ぼしていく姿を目撃し続けなければならないだろう。

両国は共にアングロサクソン国家であり、英国が18~19世紀に米国がその後を継いで20世紀に世界資本主義システムの中心を担った。その3世紀余りを通じて、公法による支配、多数決民主主義による議会政治と2大政党制、市場優先型資本主義、英語の共通語化等々、それなりの政治的・経済的・文化的なインフラストラクチャーを世界に普及するのに貢献したのは事実である。しかし、その期間を通じて英米が世界にもたらした遥かに危険な贈り物は、戦争文化である。巨大な軍事力を持つ者はやりたい放題に侵略し破壊し強奪しても有無を言わせないという覇権システムの論理の下で、Wikipediaの「戦争一覧」で見ただけでも、1701年から2000年までに主なものだけで300回近い壮絶な戦争が繰り返されてきた。そのすべてがアングロサクソンのせいだとは言わないけれども、彼らの野蛮と粗野がこの国家間戦争の数世紀の基調を形作ってきたことは間違いない。

冷戦は覇権抗争の最後の形態であり、それが終わったということは国家間戦争の時代が終わったことを意味していた。そのことを世界はおおむね理解しているけれども、肝心の英国と米国だけは未だに覇権国時代へのノスタルジアに浸っていて、自分らがどんな勝手な振る舞いをしても世界は渋々ながらもそれに付き従ってくるに違いないという幻覚の中で余生を生きている。彼らが老人性徘徊症に陥っても何とか介護して世界を破滅させないようにすることが、それ以外の諸国にとっての今年の中心課題である。

坂道を転がり始めるトランプ

今年1月にトランプ米大統領は就任2年目を迎え、来年11月の再選を目指して全力疾走しようとするだろう。しかし、遅くとも2月にはロシア疑惑についてのモラー特別検察官の捜査報告書が出てたぶんクロという結果となる。それをきっかけに、昨秋の中間選挙で下院の主導権を取り戻した野党=民主党は、疑惑関係者を喚問したり、過去のパワハラ・セクハラ当事者を次々に議会証言の場に呼び出したり、トランプの確定申告書の公表を迫ったり、ありとあらゆる手段を動員して大統領弾劾への道筋をつけようとするだろう。

政権がしっかりしていれば、これを跳ね返すことも出来なくはないだろうが、ジョン・ケリーに代わるホワイトハウスの首席補佐官になり手がおらず、その状態でも辛うじて政権の精神安定剤の役目を果たしてきたマティス国防長官が辞表を叩きつけるようにして辞めてしまい、今ではトランプの側にいるのはボルトン安保担当補佐官やナバロ(対中国通商担当?)補佐官などゴロツキ連中のみ。ホワイトハウスはほとんど崩壊状態である。マティスが「最後の大人」と言われてきたことを想えば、残ったのは「子どもばかり」ということになる。

与党=共和党も何としてもトランプ政権を支えようとはしておらず、トランプの最大の公約であるメキシコとの国境に「壁」を建設するための政府予算が民主党の反対で通らない状況であるにもかかわらず、それを打開しようと熱心に動いてはいない。理由は簡単で、共和党の大勢もこのバカげた政策には余り賛成でないからである。

それで追い込まれたトランプは、壁の予算を認めなければ予算そのものに署名せず、結果として連邦政府機関の一部が閉鎖されることになるがそれでもいいのかという議会への「恫喝」に打って出た。これは、ニューズウィーク1月1日号ペリスコープ欄の表現を借りれば「自分自身を人質に取る以外になくなった……トランプ政権の弱体ぶりを浮き彫りにして」いて、実際彼は、このどうしようもない事態を抱えて年末から年始までをホワイトハウスで1人で過ごし、家族が皆フロリダに行ってしまって「寂しかった」と呟いているような有様である。

「アメリカ・ファースト」の罪と罰

しかしトランプが本当に寂しいのは、家族やスタッフ・閣僚の不在ばかりではなく、世界との関係である。

少し歴史を振り返ると、今から29年と1カ月前にマルタ島でのゴルバチョフ大統領との会談で冷戦を終結させたのはブッシュ父大統領の偉大な功績ではあるが、彼の罪は、それを冷戦という第3次世界大戦に勝利したのは米国で、これから米国はもはや敵のいない唯一超大国”として世界で自由に振る舞うことができるという、完全に誤った時代認識を抱き、その具体化の1つとして、91年に湾岸戦争を仕掛けたことにある。冷戦が終われば覇権も終わり、最後は戦争で決着をつけようという野蛮な軍事力信仰も終わるというのが時代の意味であったというのに、米国自身がそのことを理解し切れずに、逆に軍事力行使に暴走したのである。

次のクリントン政権は、ある程度その誤りに気づいていて、当時言われた言葉では「軍民転換」、つまり過去の軍事開発で培われた世界最先端の技術、例えばインターネットやデジタル衛星通信・放送などを思い切って民間に開放し、それによって米国がハイテク・IT分野とそれを駆使した電子的金融空間の構築でイニシアティブを発揮するという戦略を採った。もし2000年の大統領選で、クリントン政権下で情報スーパーハイウェイ構想を推進したゴア副大統領が次期大統領に選ばれていたら、その後の米国の進路はだいぶ違ったかもしれないが、勝ったのはブッシュ子で、しかも間の悪いことに、就任半年後余りで9・11同時多発テロが襲い、ブッシュの「これは戦争だ!」の一言で米国が軍国化に突き進むことになった。

そのため米国は、覇権国であることを止め、それでも依然として最大の経済大国ではあるけれども他に命令を発するような資格は持たない「普通の大国」の1つであるという適正なポジションに自分を軟着陸させるチャンスを失ってしまった。元英首相のゴードン・プラウンが「『アメリカ・ファースト』は過去にしがみつく旧覇権国の自傷衝動のようなものだ」と言っているのは、その通りである(ニューズウィーク1月1日号)。

ブレグジットのめちゃくちゃ状態

ブラウン元英首相はそう言うけれども、私に言わせれば、英国のブレグジット騒動も、全く同質の、旧覇権国の自傷衝動の結果である。

ブレグジット問題はすでに穏健な決着を見出すには程遠い「めちゃくちゃ状態」に陥ってしまい、どう転んでも英国自身とEUの双方に無用のダメージを与える結果にならざるをえない。

そもそも英国のEU加盟は、旧覇権国が偉そうな態度を続けるのを止め、また戦後も英米アングロサクソン同盟を「特殊関係」と称して米国の威光を背に大陸欧州とNATOに対して代理人のように振る舞うのも止め、大陸諸国と対等な一員として欧州の多国間意思決定システムの中で生きていくということの表明であった。が、さすがに通貨ポンドを放棄してユーロを受け入れるというところまでは割り切れず、その辺りの覚悟の中途半端に今日のブレグジットに繋がる未練がましさが残っていたのかもしれない。そこが蟻の一穴となって馬鹿馬鹿しい道に転がり込んだ。

ブレグジットの直接のきっかけは移民への反感で、その点ではトランプの「壁」と同じ問題である。しかし、そもそも英米帝国主義が数世紀にもわたって世界を蹂躙し、行った先々を植民地化して強奪を繰り返し奴隷を売買してきたことがこの問題の背景であり、今頃になってその地の人々が米国や英国に移住したいと行進してきたとしてもそれを断る理由があるはずがない。移民問題とは、数世紀にわたる英米帝国主義の野蛮に対するブローバックすなわち報復──「英辞郎」の面白い説明では「アメリカのCIAの用語で、外交政策が原因となって自国にもたらされる予期できない負の結末」にほかならない。

3月末までの期限に英国がEUとの合意に達して、少しでも有利な条件を確保しつつ離脱するという可能性はすでに消えた。むしろ逆で、EU側はこうなったら出来るだけ過酷な条件を押しつけて懲らしめてやろうとするに違いない。そうかといって、再投票を行って引き返すという道も、もはや閉ざされている。メイ首相自身を含めて多くの人々は「しまった!」と思っているので、再投票すればEU残留が多数を占めるに違いないが、それに対して貧困層を中心とする離脱派は激しく反発して過激化し、収拾のつかない国内分裂に突き進むだろう。

米英の行動は、ポスト覇権時代を迎えてますます重要性を増しつつある「多国間協議」の仕組みを、自分の都合だけでブチ壊そうとしている点でも共通している。老大国はこんな風にして周りも先行きも見えなくなって世界に迷惑を撒き散らすだけの存在になり果てていくのである。

image by: Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年1月7日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。

こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー

初月無料の定期購読手続きを完了後、各月バックナンバーをお求めください。

2018年12月分

※ 1ヶ月分864円(税込)で購入できます。

高野孟この著者の記事一覧

早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 高野孟のTHE JOURNAL 』

【著者】 高野孟 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週月曜日

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け