マスコミが報じる「米中覇権争い」や「新冷戦」は存在するのか?

 

第2に、仮に中国が勘違いして覇権国に成り上がろうと思っても、世界の7つの海を支配するだけの外洋艦隊を持っていないし、将来持ったとしてもそれを使って攻めて奪うべきフロンティアが存在しないから、そんなものを持とうとすること自体が丸っきり無駄である。軍事力にモノ言わせる時代は終わっている

第3に、確かに地球上では地理的なフロンティアはなくなったけれども、電子空間、第5世代(5G)移動通信システム、AIとその応用システム、GPS、宇宙開発など非地理的な領域で競い合いが激しくなっているではないかと言う人があるかもしれない。それはその通りで、地上で貪るものがなくなった資本主義はあくまで強欲に、電子空間や宇宙にまで仮想フロンティアを求めて舞い上がっている。しかしこれらの問題は、地球温暖化問題などと同様、どこか力の強い国が全体を支配すれば解決されるという筋合いのものではなく、国際公共の価値を皆でどうやって形成しルールを編み出していくかというアプローチに馴染む。

その意味では、これらこそ、ポスト覇権時代の「多国間主義」による国際共同管理体制への練習問題として取り組まなければならないはずだが、それを米国が一番理解せず、電子空間管理の問題を直ちに「サイバー・ウォー」の問題へと置き換えて、そこに国際法、とりわけ武力紛争に関する国際的なルールを適用するよう主張している。それに対してその米国のサイバー・ウォーの仮想敵とされている中国とロシアは、「国連サイバー政府専門家グループ」による国連ベースでの多国間協力によるルールづくりと紛争解決を主張していて、これに関しては米国が20世紀的で中露が21世紀的である。

こうして、米国の一部にもたぶん中国の一部にも、20世紀的発想の延長上で事態を覇権争いと捉える時代遅れの人々がいて、攪乱的な役割を果たしているのだけれども、本質的に考えて米中間に覇権争いはない

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