マスコミが報じる「米中覇権争い」や「新冷戦」は存在するのか?

 

「新冷戦」とは何か

では「新冷戦」とは何か。これが言われたのは初めてではなく、米国がレーガン大統領の時代の初期に旧ソ連を「悪の帝国」と呼び「スター・ウォーズ計画」などを打ち上げて軍事的優位の確保を宣言した際に盛んに用いられた。今度は中国が相手の「新新冷戦」という訳である。

さて冷戦とは、上述の覇権システム変遷史の最後の1ページを飾った特殊な事象である。第2次大戦を通じて英国から奪って覇権を確立した米国は、1950年の名目GDPで見ると世界ダントツ1位の27%で、全部まとめても26%の西欧や3%の日本などを従えて、まさに盟主となったのだが、それはあくまで「西側世界」の盟主にすぎなかった。欧州正面の東側には旧ソ連(10%)というもう1つの盟主があって、東欧(計3%)、中国(4%)などを率いていた。

両陣営はそれぞれ自由主義、共産主義というイデオロギーの旗を掲げ、NATO、WTOという強固な集団的軍事同盟を作り上げ、いざとなれば全面戦争も辞さない構えで、万年、一触即発の緊張状態の中で対峙してきた。しかし実際には、本当に戦争になればそれぞれの盟主同士の核兵器の撃ち合いにエスカレートするのが分かり切っていたため、熱戦は抑止され、それ以外のあらゆる分野で抗争を続けた。だからそれは冷戦と呼ばれたのである。

そこで米中関係を見れば、そこには特にイデオロギーの対立は存在しない。時代遅れの反中国派は「共産党の一党支配が続いているではないか」と言うけれども、世界の多くの人々は、それが開発独裁の便法にすぎず、実際に中国が進めているのは社会主義市場経済という名の、政治に強くコントロールされた形の資本主義の別モデルの実験であることをよく理解している。従ってまた中国も米国も、陣営を形成することがないし、陣営がなければ盟主にもなれない。今どき、まだ米国を盟主だと思っているのは日本の自民党政権くらいしかないのではないか。

そもそも軍事力にモノ言わせる時代が終わっているし、米中間に戦争によって解決することができるような問題が存在しないので、両国間に全面戦争が起きる可能性はゼロである。南シナ海問題は少し深刻で(どう深刻かはいずれ分析する予定である)駆け引きが続くので、偶発的な衝突が起きる危険はあるが、双方ともそれを充分に認識しているので大事に至ることはない。戦争がないのであれば、双方とも陣営を形成して身構える必要もない。

さらに、かつて旧ソ連と米国との間に経済の相互依存は皆無だったが、米国にいる外国人留学生の3割が中国人で、GMが作る車の4割が中国市場で売れているという状況で、生死を賭けた抗争など出来るはずがない。

従って、いま米中間で交わされているのは、単なる2国間関係の駆け引きの激化であって、新冷戦ではない。

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