被害者感情への理解を求める声の高まりや、犯罪抑止の考えのもと、さまざまな犯罪において厳罰化の傾向にある日本。しかし、抑止という観点では、厳罰化だけが方策ではないのかもしれません。健康社会学者の河合薫さんは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』で、福岡県で昨年5月から始まったという薬物関連の初犯者に対する回復プログラムを紹介。さらに薬物犯罪だけでなく、凶悪犯罪に対しても「非厳罰化」へと進む世界の流れについても紹介しています。
罰することの意義
さまざまな犯罪の中でも薬物依存や性犯罪に関しては、ここ数年、「厳罰か?治療か?」の議論が広がってきました。そんな中、全国でいち早く「治療」に舵をきったのが福岡県であることはあまり知られていません。
福岡県では、長年、覚せい剤取締法違反の再犯者率が全国平均より高い状態が続いていました。そこで「やめられないのは、意志や性格の問題ではない」との共通認識のもと、社会復帰を支え、再犯の一歩目を防ぐ目的で、初犯者に回復プログラムを実施しているのです。
プログラムでは、まず最初に福岡地検が扱った事件のうち、本人の同意を得た初犯者の基本情報を県に提供します。その後、県警OBや看護師などの県のコーディネーターが勾留先で面談。釈放後は、県内に3カ所ある精神保健福祉センターでの回復プログラムなどにつなげ、NPOの力も借りながら社会復帰のサポートをします。
昨年5月に始まったばかりなので、プログラム受講者はまだ数人です。しかしながら、月2~4回プログラムに通い、薬物使用経験者らが集い、互いに薬物の危険性や体験談などを語り合うことで、精神的安寧を取り戻している人も増えてきました。
上司からの暴力を伴うパワハラで、過剰なストレスから逃れるために大麻に手を出した30代の男性は、「使いたくなる時もあるが、ここで学んだことで気持ちを抑えられている」と語り、新たな職場で働く意欲を示していたそうです。(毎日新聞より)
私は福岡県のチャレンジが全国に広がってほしいと、切に願います。薬物犯罪の大きな特徴は「再犯率」の高さです。やめたくてもやめられない依存症は「心の病」です。専門家の手ほどきが必要不可欠です。
2011年に行われた薬物政策国際委員会(世界の元首脳や知識人による)では、「薬物を使った人を刑務所に収容するのではなく、治療や福祉的なサービスにつなげることが必要」と宣言。2014年には、WHOも「薬物犯罪は非犯罪化し、治療すべき」と訴えています。つまり、世界は既に厳罰化はおろか「非犯罪化」へと進んでいるのです。
何でも世界=正しい、とは限らないし、日本とあまりにかけ離れていてリアリティが持てないかもしれません。しかしながら、世界が脱厳罰化、非犯罪化に、向かっている背景には薬物犯罪を取り締まれば取り締まるほど、闇ルートのマフィアが跋扈するようになり、薬物依存者が増加し、過剰摂取で死ぬ人が増えた経験に基づいています。
さらに、薬物犯罪に限らず、殺人などの凶悪犯罪でも「厳罰より治療」「管理より自由」「作業より教育」にプライオリティをおいた政策が再犯を低下させるエビデンスが蓄積されているのです。
とりわけ北欧では受刑者たちに、刑務所内で勉強する自由、料理する自由、塀の外に発信する自由などを与えることで、再犯率を低下させてきました。塀がないことで知られるノルウェーの刑務所の再犯率は世界最低の20%です。
「夜と霧」の著者で医師のV.E.フランクルは、「ごく一部の人間を除いて、どんなに暴君でも一筋の優しさと温もりをもっている人だった」と、ナチスの収容所での経験を語りました。
贖罪の気持ちが芽生えるのは、厳しさか温もりか?
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