ボーっとする時間を人から奪う、スマホ。脳に悪影響はあるのか?

 

だが、スマホだけは事情が異なる。物理的にはポケットに収まるほど小さく、時間的には数秒で何かができるほど利便性が高い。つまり、この機器だけが細切れの時間をこまごまと奪って行くのである。その威力は、形小なりと雖も絶大である。それこそ塵も積もれば山的に膨大な時間がそういった意識もないままに奪われて行く。空きの5分、10分で、を4回やればもうそれで1時間なのである。

「どうせ空き時間なんだから、寧ろ有効利用ではないか」という意見もあろう。勿論、それを否定するものではない。ただ、ここで強調しておきたいのは、その副作用の方である。

本来人間は手を抜く生き物である。これは怠け者ということではない。一例を挙げれば、我々が雑踏の中で特定の音声だけを聴き取ることができるのは、この手抜き能力のおかげなのである。自分を取り巻く全ての音声をいちいち脳が解析していたのでは、とてものこと弁別できるものではない。耳には入っていながらそのほとんどの音声を無意識的に無視し、大切な音声のみを抽出して聴き取っているからこその芸当なのである。

このような手抜き、間引きをすることで、脳の機能が飽和することを回避しているのである。脳にとって細切れの空き時間は手抜きをするのに最も適した数分間なのである。最新の脳科学においては、ヒトが記憶や思考を整理するためにはボーっとしている時間が重要な意味を持つ、という考えが主流である。

この考えを積極的に取り入れ、従業員の業務効率向上のために瞑想(meditation)や座禅の時間を既に設けている会社も海外には(特にIT業界に)多いと聞く。しかしながら、細切れの時間を奪うことに容赦のないIT業界から逆にこういった動きが出て来るということ自体、何とも皮肉なことに思えるのだがどうだろうか。

我々はスマホという、実に便利で実に厄介なガジェットを手にした。ほんの少しの空き時間でもできれば(下手をすると空き時間でなくても)、最早反射的にスマホを手に取るといったライフスタイルである。そうしているうちにも、じりじりと貴重な「ボーっとするための時間」は切り取られ、今までは存在しなかったような新しいストレスに知らぬまま曝され続けるのである。

そして、いずれ遠からぬうちに、この問題が堰を切ったように一気に顕在化し、精神面・身体面を問わず、様々な不調・失調を訴える人が続出する、といった不幸な状況が起こるのではないか、そんなことを懸念するのである。

image by: metamorworks, shutterstock.com

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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