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中国を喜ばせるな。北方領土問題解決は後回しにすべき理由

3月14日、プーチン大統領が非公開の会合で「日ロの北方領土交渉は失速した」との発言をしたことが明らかになりました。これを受け、無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』の著者で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんは、日ロ関係に再び生じ始めた亀裂が、米中など周辺諸国と我が国の関係に悪影響を与える理由を詳しく解説し、今後日本がとるべき戦略について記しています。

プーチン「4島返還には【日米安保解消】が必要」!!!!!!!

今回は、北方領土の話。北方領土問題、昨年11月、安倍総理は大きな転換をされました。なんと、「1956年の日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる」と宣言した。

これがなぜ大きな転換」?日ソ共同宣言の骨子は、「平和条約締結後、歯舞、色丹を返還する」。これを基礎にするということは、日本政府は、これまでの「4島一括返還から、「2島返還かわった」ことを意味している。

一昔前、「2島返還論者」は、冗談でなく「国賊扱い」されていました。鈴木宗男さんや佐藤優さんが逮捕されたのも、これを主張したことと関係があるのでしょうか?

しかし、今度は、総理大臣が2島返還をいいだした。だから、「大転換」なのです。

2島も難しいという現実

ところが…。前々から書いていますが、ロシアにとっては、「戦争で強奪した土地を返す」のは、「4島でも大損」「2島でも大損」なのです。日本は、「ロシアは奪った土地を返すのが当然だ!」と思っています。しかし、ロシア側の意識は、「戦争で勝ったら土地を奪うのが当然だ」というもの。

「日本がポツダム宣言を受け入れた後に侵攻した」とか「ソ連が日ソ中立条約破棄を通告したのは45年4月。失効は46年4月のはずではないか!」とか、自国に都合の悪い事実は、全部スルーします。ロシア国民は、これらの事実を知らされていない。そして、「ロシア善の戦勝国というレジェンドを74年間聞かされて育った。だから、「日本から返すのが当然」といわれても、困ってしまう。

彼らは、たとえばこんな風にいいます。「ロシアと日本は、1875年の樺太・千島交換条約で、樺太はロシア領、千島列島は日本領と定めた。にもかかわらず、日ロ戦争の結果、日本は、南樺太を奪った。日本が戦争で勝ったときは、ロシアの領土を奪う。しかし、ロシアが勝ったときは、『固有の領土だから奪うのはダメだ!』という。変な論理じゃないか?」とか、「ケーニヒスベルグは、ドイツ領だった。第2次大戦後はソ連領になり、今はカリーニングラードという。そのことに文句をいうドイツ人はいない」とか。

まあ、いずれにしてもロシアは、「悪いことをしたとは1ミリも考えていないので、「固有の領土だから返してくれ」といわれても、「意味わかんない」という感じなのです。28年モスクワに住んで、「返すべきだというロシア人は全然いませんでした。たまにいたと思ったら、中央アジアとか、コーカサス系の人だったり。あるいは子供が、「ロシアは世界一大きな国。だから小さな日本に島をプレゼントしてもいいじゃない?」と無邪気に語ったり…。

米軍ファクター

もっと現実的な話。ロシアは、「歯舞色丹を返したらそこに米軍がくるんじゃないか?」と恐れています。安倍総理は、「いやこないと説明している。

<日露首脳会談>北方領土を非軍事化 安倍首相が提案

毎日新聞 2018年11/17(土)2:00配信

 

北方領土問題を巡る日露交渉で、安倍晋三首相が北方領土を非軍事化することをロシアのプーチン大統領に提案していたことが判明した1956年の日ソ共同宣言に沿って歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)両島が返還された場合、日米安全保障条約に基づく米軍基地や自衛隊の基地を置かないと伝えることで、ロシア側の懸念を払拭(ふっしょく)する狙いがある。

安倍総理の時代は、ホントに米軍基地は置かれないかもしれません。トランプさんも、親ロシアですし。しかし、アメリカの大統領は、4年か8年で代わります。次の大統領がめちゃくちゃ反ロシアだったら?そして、日本の首相が、アメリカの「イエスマン」だったら?

世界中の人が知っているように、残念ながら日本は普通の独立国家ではありません。私は05年から、「日本はアメリカ幕府の天領だ」と書いていますが、誰からも否定されたことがない。つまり、日本側が抵抗してもアメリカから色丹に基地を置くと決定した」といわれたら、そうなってしまう可能性が高い。だから、ロシアの懸念はもっともなのです。

プーチンは、「ドイツ統一時アメリカにだまされた」ことを今も恨んでいます。なんでしょうか?1990年、西ドイツが東ドイツを吸収した。その時、アメリカは、ソ連に確約しました。「NATOをドイツより東に拡大することは、決してない!」と。ところがアメリカは、あっさり約束を破った。NATOはどんどん拡大をつづけ、04年には、旧ソ連のバルト3国も加盟国になった。ロシアから西を見るとなんと29か国の巨大反ロシア軍事ブロックが存在している。

それで、ロシア政府高官3つのモットーは、

  1. アメリカを決して信用するな
  2. アメリカを決して信用するな
  3. 1と2を決して忘れるな

なのです。そんなわけで、プーチンが、最近こんなことをいいました。

コメルサントによると、プーチン大統領は14日、モスクワのホテルであった経営者らの会合に出席。その中で約1時間、経営者らと非公開で対話に臨んだ。各国との外交や経済関係に話が及ぶ中、プーチン氏は経営者団体の代表者から「日本との平和条約交渉が袋小路に入っていないか」と問われた。これに対し、プーチン氏は「交渉は失速している」と述べたという。報道によると、プーチン氏はこれまでの交渉の経緯を振り返った。その上で、日本がまず、アメリカが日本のどこにでも軍事基地を置くことができるという安全保障条約を破棄しなければならないと指摘した。

「まず、日米安保条約を破棄しなければならない」(!!)そうです。頭がくらくらしますね。

それでも、日ロ関係は大事

ここで、ネトウヨだったら、「プーチンふざけるな!断交だ!」って話になるんです。韓国と断交し、次はロシアと断交?それで、誰が一番喜ぶ?そう、習近平ですね。まさに、2012年に中国が計画したとおりに事は動いている。日本は、そもそも(領土問題で無茶をいうロシアと和解する必要があるのでしょうか

「戦略的」にどうなのでしょうか?「戦略」は、「戦争に勝つ方法」という意味です。「戦術」は、「具体的な戦闘に勝つ方法」という意味です。皆さんご存知のように、日本軍は、個別の戦闘では連戦連勝だった。ところが、大戦略がなかったので、結局敗れました。「大戦略がない」とはどういうこと?海軍は、「アメリカが日本の敵だ!」と主張。陸軍は、「ソ連が日本の敵だ!」と主張。これ、どっちかにしないとダメでしょう?両方敵にまわしたら勝てるはずがありません

その点賢明なアメリカ。この国には、主要な敵が2国ありました。ナチスドイツとソ連です。アメリカは、まずソ連と組んでドイツをつぶした。その後、かつての敵だったドイツ、日本、さらに中国と組んでソ連をつぶしたのです。

私は自虐史観の持ち主ではありませんが、「事実としてアメリカは戦略面で日本よりすぐれています日本には戦略が必要です。戦争に勝つ方法。

ところで、日本は、どこかの国と戦争をしているのでしょうか(もちろん、「戦闘」という意味ではありません)?しています。日本は、2012年11月から中国と戦争状態なのです。なぜ?

皆さん覚えておられることでしょう。2012年9月、日本は尖閣を国有化した。これで、日中関係は、「戦後最悪」になってしまいます。2012年11月、中国は、ロシア、韓国に「反日統一共同戦線戦略」を提案します。その骨子は、

全国民必読、完全証拠は

反日統一共同戦線を呼びかける中国

中国の戦略を簡単にいえば、

です。1937年に日中戦争がはじまった。中国は、アメリカ、イギリス、ソ連から支援を受けていた。つまりこの戦争は、事実上

の戦いだった。こんなもん勝てるわけがないでしょう?中国は今回

日本を破滅させようとしているのです。これが、2012年以降日本が置かれている状況です。この重大事を99.9%の日本人は知らず、モリカケ問題などで騒ぎながら、時を過ごしてきた。しかし、幸い安倍総理と側近の皆さんは、中国の戦略を知っているようです。中国の戦略がわかれば日本は戦略をたてることができます

中国は、

が戦略ですね。ですから日本の戦略の基本

となります。そして、安倍総理はそうされてきた。2015年4月の「希望の同盟演説」で日米関係は、とても良くなった。トランプさんともいい関係を維持している。2015年12月の「慰安婦合意」で日韓関係はよくなった。2016年12月のプーチン訪問で、日ロ関係は劇的に改善された。安倍総理は中国の戦略をいったん無力化することに成功しました。しかし、戦いはまだつづいているのです。

これは、大戦略の基本であって、中国の体制が変わるまでブレるべきではありません

世界には、3つの大国があります。アメリカ、中国、ロシアです。この中で中国は、「アメリカロシアを味方につけて日本を破滅させよう!」としている。そこで日本も、「アメリカとロシアを味方につけて中国に対抗しよう」というのが、基本的な戦略になる。それで、ロシアとの関係改善が不可欠なのです。

ところが日ロ関係はとても悪かった。まず、日本は、クリミア問題でロシアに制裁している。経済の話ができなくなった。それで、日本政府高官は、訪ロするたび、「島返せ!」としかいわなくなった。ロシア側は非常に立腹していました。しかし安倍総理は、「経済協力を進めることで関係を改善していこう」という路線に転換した(制裁で、簡単ではないにしろ)。それで、日ロ関係は急速に改善されていきました。日本は、アメリカ、ロシアと仲がいい。中国の立場が軟化してきたのは、これが理由です。

2018年、米中貿易戦争がはじまり、中国の態度はさらに融和的になりました。これは、日本の戦略勝ちですが、中国に関しては、「戦は詭道(ウソ)なり」なので、一瞬も油断できないのです。

プーチンは、「2島返して欲しければ、日米安保を解消しろ!」と無茶をいう。それで、激怒する人もきっと多いことでしょう。しかし、ロシアとの良好な関係は対中国で必須です。「北野さんは、28年モスクワに住んでいたからこんなことをいうのではないですか???」と疑問をもつ人もいるかもしれません。そうではありません。日米ロで組んで中国に対抗するという戦略は、リアリズム神ミアシャイマーさんも、世界最強の戦略家ルトワックさんも主張しています。

証拠に、ルトワックさんの言葉を引用しておきましょう。ルトワックは、その著書『自滅する中国』の中で、日本がサバイバルできるかどうかはロシアとの関係にかかっていると断言しています。

もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、むしろそれが決定的なものになる可能性がある。
『自滅する中国』p188

金儲けの話をしよう

今回のプーチン発言。日本でまた、「反ロシアの機運が高まる可能性があります。しかし、「リアリスト」の皆さまは、是非冷静であってください。私たちは、「感情的」ではなく、「戦略的」に物事を考えるのです。

では、無茶をいうプーチン・ロシアと、これからどうつきあっていけばいいのでしょうか?簡単です。「領土問題」(=平和条約)の話は、減らして、「金儲け」の話をたくさんすればいい。

日ロ関係を見ると、はっきりした法則性がみえてきます。

1.平和条約=島返せ交渉していると、日ロ関係は悪化する

これは、「4島返還でも2島返還でも、いずれにしてもロシアにとって『大損』」だからです。皆さんも、自分が損する話、聞きたくないでしょう?できることなら、「確実に儲かる話」を聞きたいですね?それで、

2.金儲けの話をしている時、日ロ関係は改善される

安倍総理が、最近平和条約(島返せ)の話しかしなくなった。それで、日ロ関係は、また悪くなってきました。習近平の顔がニコニコしているでしょう?日ロ関係が悪化すると彼はとてもうれしいのです。だから、再び日ロ関係を改善しなければなりません。どうすればいいかというと、「金儲けの話」をメインにすればいい(北方領土の話もいいですが、割合を逆転するべきです)。

北方領土返還は、確かに日本国民の悲願です。しかし、中国は、「日本には尖閣だけでなく、沖縄の領有権もない!」と宣言している。

北方4島返還沖縄防衛」。この2つで優先順位をつければ、いうまでもなく「沖縄防衛が最優先課題でしょう。だから、日本は、ロシアとの関係を改善させるべきです。

繰り返しますが、これをいっているのは私だけではありません。リアリスト神ミアシャイマーさんも、世界一の戦略家ルトワックさんも、同じことをいっています。

image by: Instagram(首相官邸)

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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