日本は米国の尻を追うばかりなのか
さて、このようなポスト冷戦状況で、日本は米国の戦争政策の誤りに追随して日米安保条約の域外化を進め、中東やアフガンで戦う米軍の後方支援に自衛隊を派遣し、また東アジアでは中国や北朝鮮を仮想敵と見做してこれと米軍と共に戦う態勢を作ってきました。
- 91年4月:湾岸戦争停戦後に海上自衛隊掃海部隊をペルシャ湾に派遣
- 92年6月:PKO 法成立、9月に陸自中心に部隊をカンボシアに派遣
- 96年4月:橋本・クリントン会談で「日米安保再定義」(域外化)
- 99年5月:周辺事態法成立
- 01年11月:アフガニスタン戦争で海自インド洋派遣
- 04年1月:イラク戦争で陸自・空自派遣
- 12年12月:安倍首相が米日豪印で中国を封じ込める「インド太平洋」構想
- 15年9月:安保首相法制成立(集団的自衛権行使を部分的に解禁)
- 16年5月:安倍首相9条改憲案を提示
このような、日本を「戦争のできる国」にしようとする安倍政権の冷戦型の安保政策に対するオルタネティブが「東アジア共同体」の構想です。東アジア共同体は経済の面から語られることが多いですが、安全保障の面があって両者は表裏一体の関係にあります。
東アジアに多角的な地域安全保障体制を作るべきだとの提唱は、昔から数多く為されてきましたが、それを政党として中心政策の1つに取り上げたのは、鳩山由紀夫氏を中心に1996年に結成された民主党が初めてでした。それについて彼は、その直後に発売された月刊誌「文藝春秋」11月号に寄せた論文「民主党/私の政権構想」で、より突っ込んだ次のような議論を展開しました。
日米関係は今後とも日本の外交の基軸ではあるけれども、そのことは冷戦時代の過剰な対米依存をそのまま続けて行くこととは別問題である。
アジア・太平洋の全体を、日本が生きていく基本的な生活空間と捉えて、国連、APEC、東アジア、ASEANおよび北東アジアすなわち環日本海という重層的な多国間地域外交をこれまで以上に重視し…ASEAN拡大外相会議や安全保障に関するASEAN地域フォーラム(ARF)に積極的に参加するだけでなく、北東アジアでもそれと同様の多国間の信頼醸成と紛争予防、そして非核地帯化のための地域的安保対話システムを作り上げる。
これについての鳩山氏の立場は実に一貫したもので、近著『脱・大日本主義』(平凡社新書、17年6月刊)でも、日本は「大日本主義への幻想を捨て、自らの力の限界を自覚し、中規模国家としての日本の国益は何かを見極めること」を提案し、そのための構想が「私が唱えた『東アジア共同体』」であって「今こそ日本が率先して東アジア共同体構想を推進し、アジア太平洋地域の信頼醸成に努力し、この地域に新たな多国間安全保障と経済協力の枠組みを作る先頭に立つ決意を固めなければならない」と訴えています。
北東アジアは、新旧2つの安保原理の闘いの主戦場の1つであり、ここから歴史の転換が始まることを期待します。
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※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2019年4月15日号の一部抜粋です。初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分税込864円)。
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