米中覇権戦争が継続中であることは世界の共通認識となっていますが、「その深刻度が当事国では実感しにくい」という意外なご意見が、米国在住読者から国際ジャーナリストの北野幸伯さんのもとに届きました。北野さんは今回、自身の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で、識者による記事を引用しつつ、政党を問わず反中の勢いが増し続けている米国の実態を紹介しています。
米中覇権戦争は、なぜ起こったのか?
アメリカの読者さんから、「米中覇権戦争ってホントに始まったのでしょうか?私はアメリカ在住で、毎日現地のテレビニュースを見ていますが、反中が強化された気がしないのです。一般庶民とエリート層では、情報が違うのでしょうか?」といったメールをいただきました。
これに関連して、今日は産経新聞ワシントン駐在特派員古森義久先生の記事をご紹介させていただきます。タイトルは、「挙国一致で中国と対決、何が米国を本気にさせたのか?」。JBPRESS4月20日付です。
米国の首都ワシントンで取材していて、外交について最も頻繁に接するテーマはやはり対中国である。政府機関の記者会見でも、議会の審議や公聴会でも、民間のシンクタンクの討論会でも、「中国」が連日のように語られる。
しかも「中国の不正」や「中国の脅威」が繰り返し指摘される。ほとんどが中国への非難なのだ。
そうした非難を述べるのはトランプ政権や与党の共和党だけではない。他の課題ではトランプ政権を厳しく糾弾する民主党系の勢力も、こと相手が中国となると、トランプ政権に輪をかけて、激しい非難を浴びせる。ときにはトランプ政権の中国への対応が甘すぎる、と圧力をかける。
私はワシントンを拠点として米中関係の変遷を長年追ってきたが、米側からみるいまの米中関係は歴史的な変化を迎えたと言える(その実態を3月中旬、『米中対決の真実』という単行本にまとめた。本稿とあわせてお読みいただきたい)。
ポイントは、
- 共和党も民主党も、中国を非難している
- 米中関係は、歴史的な変化を迎えた
どんな「歴史的変化」かというと、「米中覇権争奪戦争が勃発した」。
ちなみにRPEでは、「米中覇権戦争は2015年に勃発した」と考えています。繰り返し、そう書いてきました。理由は、「AIIB事件」です。つまり、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国など親米諸国群が、「アメリカの制止」を無視して中国主導「AIIB」への参加を表明した。つまり、「アメリカのいうこと」より「中国のいうこと」を聞いた。これは、「アメリカの覇権喪失を象徴する」大事件だった。これでアメリカは「中国打倒」を決意し、変わったというのがRPEの見解です。
しかし、一般的には、「2018年に米中覇権戦争が起こった」といわれています。なぜ???
古森先生は、中国研究の権威ロバート・サター教授に、その理由を尋ねました。
「ロバート・サターさんて誰ですか?」
古森先生は、こう書いています。
サター氏は米国歴代政権の国務省や中央情報局(CIA)、国家情報会議などで中国政策を30年以上、担当してきた。10年ほど前に民間に移ってからも、ジョージタウン大学やジョージ・ワシントン大学の教授として中国を分析してきた。
サター氏の認識に私が重きをおくのは、彼が政治党派性に影響されていないという理由もある。政府機関で働いた時期はもちろん官僚としての中立性を保ってきた。個人的には民主党支持に近い立場のようだが、民間での研究を続けてからも、時の民主党政権をも辛辣に批判し、共和党政権からも距離をおくという感じだった。
一言でいえば「偏りのない権威」なのですね。サターさんは、何を語ったのでしょうか?なぜ、アメリカは中国に強硬になったのでしょうか?
ロバート・サター氏(以下、敬称略)
変化を招いた直接の原因は米国側での危機感でしょう。中国をこのまま放置すれば米国が非常に危険な状況へと追い込まれるという危機感が、政府でも議会でも一気に強くなったのです。
なぜ危機感が一気に強くなったのでしょうか?
米国側の危機感、切迫感を生んだ第1の要因は、中国がハイテクの世界で世界の覇権を目指し、ものすごい勢いで攻勢をかけてきたことです。
なるほど~。いわゆる「中国製造2025」ですね。しかも、「5Gの技術力トップはファーウェイ」という事実が示すように、「中国がハイテク世界覇権」といわれて「ありえるよな」という状態になってきた。それで、アメリカもマジになってきた。
第2には、中国側が不法な手段を使って米国の国家や国民に対して体制を覆そうとする浸透工作、影響力行使作戦を仕掛けてきたことです。
中国は「不法な手段を使って、国家体制を覆そうとしている」そうです。別の言葉で「革命工作をしている」ということでしょう。アメリカでこういう認識が出てきたこと、日本にとっては喜ばしいことです。
ところで、日本人も、同じ危機感を共有する必要があるでしょう。こういう危機感は共和党トランプ政権だけがもっているのではないでしょうか?次の選挙で民主党が勝てば、また「親中」になってしまうのでは???
共和党議員だけではなく民主党議員も、共和党議員と歩調を合わせて対中強硬策を提唱しています。たとえば大統領選への名乗りをあげたエリザべス・ウォーレン上院議員が中国のスパイ活動を非難しました。また、民主党ベテランのパリック・リーヒ上院議員は「一帯一路」を嫌っています。民主党で外交問題に関して活躍するマーク・ウォーナー上院議員も、米国のハイテクが中国に輸出されることに強く反対しています。
「反中」に関しては、「超党派」。つまり、トランプさんが負けても、「米中覇権戦争」はつづいていく可能性が強い。サターさんは、この点。
サター
摩擦がずっと続くでしょう。中国が米国の要求をすべて受け入れることはありえません。また、米国が中国に強硬な態度をとることへの超党派の強い支持は揺るがないからです。
というわけで、「米中覇権戦争」は、今後もつづいていくようです。
これには二つの側面があります。一つは、「米中覇権戦争 = 世界経済にマイナスだ」ということ。そのせいで、中国だけでなく世界経済が鈍化してきています。
もう一つは、「米中覇権戦争 = 日本の安保にはプラスだ」ということ。中国は、「日本に沖縄の領有権はない!!!」と宣言しています。
これをみてもわかるように、中国は「米国を反日統一共同戦線に引き入れなければならない!」としている。ところが、現実は「米中覇権戦争」になってしまった。これは、日本の安保にとってはおおいにプラスです。
日本が気をつけなければならないことは、「アメリカか?中国か?」と問われた時に、0.1秒も考えることなく、「もちろんアメリカだ!」と答えること。日本が「戦勝国側」に入る条件は、この一つだけ。