企業を経営し育てていくためのコツが様々なところで紹介されていますが、日本を代表する企業の成長過程を分析することにより、その「最適解」がより導きやすくなるのではないでしょうか。今回の無料メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、自分勝手な理屈や我流経営がうまくいかない理由を、ホンダの創業者である本田宗一郎氏の右腕的存在・藤沢武夫氏の考えを例に挙げ説明しています。
ごまかしのきかない経営の“解”
90歳近くの方が「数独(パズル)」の名人だということを聞いたので、それではとやり始めたのですが、基本的な解法すらマスターしていないのでその難解さに何度やっても解答に行きつきません。どこか一つでもいい加減な数字を入れると、途中までそれなりの形はできていても、結局は“最終解”には至らずすべてが破綻してしまいます。
経営においても、このことが言えると思うのです。「結果へ至る一筋の道はあらかじめ明白で」それはひとえに「ターゲットとする顧客の欲求を本当に満足させる」ための道なのですが、そのために「正しく顧客を満足させる解法」を構想し模索し実践しながら、正確に数字を探り上げててはめ込まなければなりません。
経営においての解は一つではないでしょうが、ここにおいて自分勝手な理屈や我流などが入り込む余地など皆無です。個性は大歓迎でしょうが、それはあくまで運用の問題であって原理・原則の軌道の上での強みであり許容です。
ホンダの創業者である本田宗一郎さんや藤沢武夫さんは、そこのところの原則をよくとらまえていた人だと思えるのです。ふたりはよく部下を大声で叱りつけることがあったそうですが、それは原則一つ間違えば今までの努力がすべてご破算となる極限の危険性を熟知していたためで、それが起こりそうなときに抑止の信号を発していたようです。
今回は、主に“藤沢さん”から、経営のあり方を学びたいと思うのです。本田さんは、藤沢さんに出会わなかったらひょっとしたら「天才技術者」であっても、中企業程度の“おやじ”で終わったかもしれません。藤沢さんは、本田さんに会わなくともそれなりの企業を立ち上げていたでしょうが、ホンダという超優良企業にはならなかったことと思われます。
比喩として適切でないかもしれませんが、本田さんを評するとすればそれは「桁違いであるが方向音痴の名馬」であって、それに対して藤沢さんはかなり賢い名馬なので、「大きな財宝」を運ぶために、桁違いな馬力と方向感覚に秀でた名馬が、やがては羽さえも生やして大空の彼方を駆け巡ったと言えそうです。
一般の企業経営においては「経営」が「技術」を含めたすべてを機能を育成、活用、統括して目標に向かって事業活動を展開を行うのですが、ホンダにおいては、まず突出した「技術力」ありきで、そこにおいて藤沢さんの仕事は、その「技術力」の育成なしの非常なアドバンテージ(優位性)をもって事業を行うことができたと言えそうです。
とは言うものの、藤沢さんのマネジメントの足跡に見ると、多くの「秀でた企業が突出する」ための「経営の知恵と意思」が込められています。どうすればよいのか、藤沢さんの場合は「何かをなそうとする強い志」を持ったことが始まりで、それを実現するための生なストーリーを描きました。演出家の藤沢さんは、自身のことを「ロマンティスト」と称しています。
経営(マネジメント)で難しいのは、狭い領域だけで生き延びようとするならば自身のスキルだけを磨いて秀でることのみに邁進すればよいのですが、ただ一定の市場つまり顧客の“ボリューム”を必要とします。そうでなくて「多くの人材」とともに“大きな成果”を実現させようとするならば納得・共感し魅力を感じらえる「可能性」と「価値観」が必須です。
藤沢さんは「企業というものはリズミカルであり、美的なものでなければならないと思っている」そして「みんなの心に訴えものは、新しい志であり、音楽であり、絵であり、芸術的なものである」さらに「リズミカルなもの、あるいは美しさといったことで、人の心を感動させるものが、ちょくちょくなければいけないと思っている」と不思議なことを言っています。
藤沢さんの基本的な考え方は「企業はアートである」です。藤沢さんが成したかったのは、本田さんという類まれな画材の力によって自分の理想のビジョンを社会というキャンバスに描きたかったのだと言えます。その来し方をみると、志が秀でて高かったけれど最初から巧みな描き手でなく、必死で本質に沿って熟考し行うなかで良い作品を完成させました。
藤沢さんの経営のため知識は、最初狭い範囲のものでかつ貧弱でした。秀でていたのはその“志”とその“美意識”です。実のところ、マネジメントにとって一見まったくの見当違いのこの二つの要素こそ、企業を「アート作品」として描き切るための根本力です。「儲けたい」「遊びたい」という「欲求」だけでは、よい作品はできません。
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