人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、アナウンサー歴30年の熊谷章洋さん。今回は、朝礼などで3分スピーチが持ち回り制となっている職場が多い理由と、時事ニュースを職場のみんなに教える3分スピーチの方程式を披露してくれました。
3分間スピーチの作り方
ここ数回にわたるシリーズで、「横着ファイリング話法」、話の演出法として、「聞き手に関係がある切り口に変換する」こと、「謎解き形式で聞き手の関心を高める」こと、などを複合的に解説してきました。
対話の形ではなく、話し手が、ある程度の時間一方的に話さなくてはならない状況では、まず最初に、話の枠を方程式のように作ってしまうと、いざ実際に話す局面においては、その方程式に具体的な事項を代入するだけで話し進めることができ、話し手自身を楽にすることにつながります。
話し手自身が楽になるというのは、「何を話そうか?」と考える時間を短縮し、そのぶんを、自分なりの表現をすることに注力できる、リアクションが速くなり即答できる、などのメリットがあるということです。「話すべきこと」や「もっといい表現」は、時間とともに、後から後から生まれるものです。
私が話し方相談を受けていて、説明やスピーチが苦手という人に見られるのは、そういった、後からいくらでも付け足せるような話を、始めから全部揃えてから話し始めたい、とお考えになる傾向が強いこと。
そこで、そういった無駄を極力排除し、求められている情報=いま話すべきことを、簡単な枠で捉える考え方を、話し手自身を楽にする「横着ファイリング話法」としてまとめました。この「横着ファイリング話法」を使えば、どんな種類の話でも、簡単に構成することが可能になります。
そこで今回は、「横着ファイリング話法」シリーズの締めとして、3分間スピーチの方程式、つまりテンプレートを作ってみたいと思います。
職場の朝礼などで、持ち回りで3分間スピーチが課せられている方もいらっしゃると伺いました。また、アナウンサーになる訓練をしている方は、皆の前で披露することも、日常的に行っていると思います。
なぜ、3分間スピーチが求められるのか?それは、話し手にとっても、聞き手にとっても、ちょうど頃合いが良く、なおかつ、必要最低限の情報を盛り込める適度な時間、ということだと思います。
例えば職場の朝礼は、仕事前のあわただしい時間ですから、聞き手も気もそぞろになりがちですし、スピーチを課せられる職員にとっても、それ以上の長い時間のスピーチになると、負担が大きくなりすぎます。
なんらかの有益な情報を提供しなくてはいけませんから、きちんとした裏付けをとるための調べものなども必要です。
また、上司であったり、教師、講師など、3分間スピーチを課す側にとっては、聴衆の前で堂々と話せる胆力、自己表現、コミュニケーション力、話をまとめる能力、説得力の向上などの教育効果はもちろん、その人がどんなことをどんなふうに考えているかを、職場などのみんなで共有する意味や、もっと単純に、その3分間スピーチで、為になる話、役に立つ話を提供して欲しい、という意図もあるかもしれません。
上手にまとまった話なら、職員が個別に新聞を読むよりも、まとめた人の話を聞いた方が簡単ですし、同じ職場であれば、その職場に必要な情報という話の切り口になりますから、新聞やネットには書かれていない、現場の皆にとって有意義な情報になり得ます。
また、前回記事で指摘しましたが、通信の5G化などの普及で、こういうスピーチの発表、共有が、動画で行われるような将来も近いと想像されます。
私たちの誰もが、発信者になる時代、氾濫する膨大な情報の中から、選択して、編集して、その人なりに短くまとめて話せること。これはかなり重要な能力になってくるものと思います。
お待たせしました。それでは、3分間スピーチの方程式を作っていきましょう。今回は、時事ニュースを職場のみんなに教えてあげる方程式にしてみますね。
話を考える時は、まず自分に与えられた話す枠を察知せよ、と繰り返しお伝えしてきましたが、その点、3分間スピーチは簡単です。なにしろ、話す枠は3分と決まっています。
なおかつ、時事ニュースを職場のみんなに教えてあげる、という大枠まで固まっていますから、あとはその大枠に、小さい枠を設定していくだけになります。
具体的には、その日発表しようとしているテーマを「〇〇のニュース」とすると、3分の大枠は、「〇〇のニュース」を職場のみんなに教えてあげるのがコンセプトになりますね。
そして話を考える時は、空フォルダーの状態で構成すること、でしたよね。あれこれ、細かい情報、データを始めから考慮に入れようとすると、思考が重くなってしまいます。
では、「〇〇のニュース」を職場のみんなに教えてあげるには、どういう要素が必要か、空フォルダー=枠だけの状態で考えてみましょう。
- まず「〇〇のニュース」とは、どういうことだったのか、その事実関係を説明する必要がありますよね。
- そしてその「〇〇のニュース」が、どうしてニュースになっているのかを提示しましょう。
ニュースがニュースになる理由にこそ、ニュースの本質があります。それを知ることが、そのニュースの根本理解につながります。話を短くまとめるには、このような本質にまで情報を絞り込んでいくことが大切です。
そして、
- そのニュースの今後の展望と、
- そのニュースは、私たちにはどういう影響を及ぼすか?
- 私たちはどう対応すべきか?
- 感想
このぐらいで綺麗にまとまるのではないでしょうか。
そして、話の演出を考えます。せっかくですから、
・「聞き手に関係がある切り口に変換する」
・「謎解き形式で聞き手の関心を高める」
手法を取り入れてみましょう。
特に時事ニュースなど、日本、あるいは世界の、自分とはちょっと離れた場所で起きたことなどは、聞き手にとって、ピンとこない、高い関心を持って聞き続けられる話題とは言えないことが多いものです。
いかに聞き手に関係がある話にまで噛み砕けるかが、腕の見せ所になります。
上述した、話の枠組みの段階では、
- 「〇〇のニュース」の事実関係を説明
- その「〇〇のニュース」が、どうしてニュースになっているのか提示
- そのニュースの今後の展望
- そのニュースは、私たちにはどういう影響を及ぼすか?
- 私たちはどう対応すべきか?
- 感想
このような流れでしたが、これに演出の手法を加え、「導入の言葉」に置き換えて表してみますね。
0’00”
1、「〇〇のニュース」についての話をします、というタイトルコール
2、結論からひとことで言うと、(この後の4、5、6、7の中から、ひとことキャッチコピーのような言葉を選んで先に言ってしまう)
0’20”
3、まず事実関係からご紹介しますと、
4、この事実がなぜニュースになるかというと、
5、これ、わかりやすく(私たちの日常生活に)例えますと…
2’20”
6、今後このニュースはこうなることが予想されていて、
7、私たちにとっては、こんな影響が考えられますから、こうしていくべき。
8、感想
3’00”
…こんな方程式でいかがでしょうか。
では、補足の解説をしていきますね。まず1、のタイトルコールでは、「〇〇のニュース」についての話、ということは確実に提示するとして、例えば、「いまネットで話題の」とか「世界中で問題になっている」などの、枕詞を付けたり、あるいは、スピーチの発表者のキャラクターを前面に出したいのであれば、「誰々がわかりやすく解説する」などのタイトルを付けてしまってもいいと思います。
2、結論からひとことで言うと、というのは、かっこにも書きましたが、ひとことキャッチコピーのようなものです。スピーチはあらかじめ考えていけるものですから、せっかく考えて導いた結論や気の利いたワードを、先に言ってしまいます。
その内容については、後々、話すことになりますが、この段階では、聞き手にとっては「何それ?」の状態です。これによって、話の伏線が作れる、つまり「謎解き形式で聞き手の関心を高める」演出の意図があります。
ここまでで、20秒ぐらいです。
そしてここからが本編の解説になります。
3、まず事実関係からご紹介しますと、
4、この事実がなぜニュースになるかというと、
5、これ、わかりやすく(私たちの日常生活に)例えますと…
この3項目を、2分ぐらいの時間でまとめる必要がありますから、内容はかなりコンパクトに、言葉を厳選する必要があることは、ご理解いただけると思います。
コツは、4の、この事実がなぜニュースになるか、を先に考えること。
それによって、このニュースの本質まで絞り込むことができますから、そのニュースの本質が伝わるためには、予備知識として紹介すべき事実関係は、このぐらいの分量で、と、3の情報量を減量することができます。
そして、5では、このニュースを可能な限りわかりやすく身近に感じてもらうための、たとえ話を創作します。4のニュースの本質から自分が思った、「それって結局こういうこと」ということを、身近な事象に変換します。
日常生活で感じるような、あるある話ぐらいにできるといいですね。これは、「聞き手に関係がある切り口に変換する」という話の演出です。
そして締めとして、
6、今後このニュースはこうなることが予想されていて、
7、私たちにとっては、こんな影響が考えられますから、こうしていくべき。
8、感想 この3項目で40秒ぐらい使えます。
職場でのスピーチであれば、わが社にとって、この部署にとって、のような話になってもいいでしょう。
これも、「聞き手に関係がある切り口」であり、そして、最初に伏線を張ったひとことキャッチコピーの謎が、最後まで聞いてわかった!というスッキリ感が演出できます。
以上が、私が作ってみた、「〇〇のニュース」を職場のみんなに教えてあげる、3分間スピーチのテンプレートです。
時事ニュースの事実関係などは、新聞などの記事から調べる必要がありますが、あらかじめ、話の枠を作ってしまっているので、その枠に必要な情報を選ぶように調べ物をすればよく、準備にはそれほど時間がかかりません。
私はそれを、「攻めの調べもの」と呼んでいますが、話に明確な意図と方向性があれば、話すための情報収集も効率的にできるようになります。
このテンプレートを使えば、それこそ毎日でも3分間スピーチができてしまうと思います。ぜひ一度、「〇〇のニュース」にお好みのワードを代入して、スピーチを作ってみてくださいね。
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