【書評】北や中国を擁護する東京裁判史観と、井伏鱒二との共通点

 

渡部昇一はそんな洗脳がなぜ延々と続くのか、不思議に思った時期があるという。そして、あることに思いあたった。それを「井伏鱒二現象」と名付けた。猪瀬直樹が著書『ピカレスク』で、「井伏鱒二の主要作品は剽窃である」と暴露したのがきっかけである。この大発見に、マスコミは上を下への大騒ぎになるだろうと見ていたが、テレビも新聞も文芸雑誌も、どこも全く報道しない

文献学者の谷沢永一が猪瀬の書いたことをことごとく追跡調査すると、すべて真実であった。井伏の代表作『黒い雨』は、広島の原爆被害者・重松静馬のノートを90%以上丸写しにしたもので、ノート返却要求に応ぜず、結局は井伏の家族が120万円支払って手を打った。この作品はテレビ化、映画化されて億単位の収入があったらしい。『山椒魚』はロシア作家の作品が下敷きだった。

『ジョン万次郎漂流記』は石井研堂の『中浜万次郎』を引き写したので、史実の間違いもそっくり同じだった。有名な「サヨナラダケガ人生ダ」という漢詩の訳詩も、すでに江戸時代の漢詩の訳詩集にあったことが判明した。なんと井伏の作品の多くは先行するものの盗用だった。そのことを谷沢が論文化した。

この注目すべき論文は、しかしながら、どこの出版社の雑誌でも掲載を断られた。結局、文学とは縁の薄いPHP研究所の「Voice」誌に掲載された。「そのとき初めて私は、戦前の日本を憎み、革命に憧れ、中国や北朝鮮を擁護する『東京裁判史観』がなぜ払拭されないのか、その秘密がわかったと思いました」。

井伏は直木賞、読売文学賞、日本芸術院賞、野間文芸賞、文化勲章、東京都名誉都民など数多くの賞を受けている。賞を与える側の賛辞などは活字に残っている。それが剽窃、盗作であると知れたなら、彼らのメンツは丸つぶれだ。真実を暴かれては困る井伏と利害(利得)の一致した人が、当時の日本の文学界を支配していることになる。「東京裁判史観敗戦利得者史観)」と同じ構図である。

「いまなお戦前の悪口を言い続ける人たちが絶えないのは、彼らが敗戦によって得をしたからである。だから、自分たちの利得を守るために戦前の日本を悪しざまに罵っているのです」。戦前「アカと疑われて大学を追放された人たちが、戦後アカデミズムに戻って、大学の世界では位人臣を極めた。そういう人たちを復帰させ、日本の「赤化」に奔走させたのはGHQ内の左翼だった。

著者はなぜ赤化しなかったのか。恩師達が「敗戦利得者」ではなかったからだ。いわゆる正論を述べた人たち(左翼言論横行のころも当たり前の意見を述べた人たち)の多くが外国文学の出身者であったことも関係がある。著者も佐伯彰一も英文科、小堀桂一郎と西尾幹二は独文科、彼らの先生方が左翼と無関係だったので、戦前の日本を普通の目で見ることができたのであった。

編集長 柴田忠男

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