部屋の中で見つけた「青いボタン」の正体がわかったときの衝撃譚

 

その日は暑いばかりでなく日差しも強かった。たまたま外に用事のあった私は入念に日焼け止めを塗りたくった後、キャップに手を伸ばした。ついにその瞬間が来た。 件の青いボタンはキャップのてっぺんのボタンだったのである。調べると「天ボタン」とか「ぼん天」とか言うらしい。 何と言うことか!この帽子はここ数年、私のデスクの真正面のウォールフックにずっと掛かっていた物なのである。もちろん色はボタンと同じ青である。

私は毎日、数時間単位でこの帽子に正対しながら一向に気付かなかった訳である。「灯台下暗し」といったレベルのことではない。その帽子はLEDの室内灯に皓々と照らされ、見ないようにする方が寧ろ難しいくらいの存在であった。しかもここ数年来の私の大のお気に入りであった。 この出来事は少しばかりショックであった。というのも、昔から目の前の何かと記憶の中の何かを同定する能力には多少自信があったからである。

ここで改めて考えてみる。自分を弁護するために考えてみる。どうやら自分は、帽子を物の最小単位として認識していたようである。それがいろいろなパーツから出来た物であるという考えには終ぞ至らなかったのである。おそらく過去に帽子を作ったり直したりした経験でもあったなら事情は違って来たであろう。

それにしても、機械などの構造に関してはいつだってそれなりに分析的に見ることができるのに、どういう訳だか今回の帽子は全くであった。 「分析的に知らないものは、いくら綜合的にその全体像が見えていても、それらを同定できない」青い天ボタンの青い帽子を見るたびに、きっと思い出すのだろう。 その帽子だが「修理が終わった」と昨日業者から連絡があったばかりである。

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ここにあるエッセイが『8人ばなし』である以上、時にその内容は、右にも寄れば、左にも寄る、またその表現は、上に昇ることもあれば、下に折れることもある。そんな覚束ない足下での危うい歩みの中に、何かしらの面白味を見つけて頂けたらと思う。

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