年金関連の記事を読んでいると、「経過的加算」や「差額加算」という言葉が頻繁に登場してきますが、そもそも「何に対する加算なのか」が今ひとつ理解できていない、という方も少なくないと思われます。そんな方のために、今回の無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』では著者のhirokiさんが、「経過的加算」や「差額加算」とは何か、そしてその計算をなぜしなければならないのかについて詳しく解説しています。
どうしても65歳以降の老齢厚生年金に加算して支給されるもの
僕が老齢厚生年金の計算をする時に、よく経過的加算とか差額加算という計算をします。ちなみに経過的加算と差額加算の意味は同じです。用語がなんだか小難しそうだから読者様には敬遠されそうですが、年金計算過程ではどうしても発生してしまうので計算をします。なお、金額的にはものすごく小さいものである場合は記事では省いて、計算の煩雑さで読者様が混乱するのを避けるために敢えて計算を省く時がよくあります^^;
それにしてもなぜ、この経過的加算というものを計算する必要があるのでしょうか。経過的加算というとほとんどの方が何それ?意味不明!となるので、僕は代わりに差額加算という表現を使います。差額加算っていうと、何かの差額かな?ってイメージは付きそうですよね。じゃあ何の差額なのかって事です。
結論から言うと、老齢基礎年金と定額部分の差額です。定額部分っていうのは、老齢基礎年金の前身の役割を担ってたやつです。でも、昭和61年4月からはその定額部分が廃止されて、その後継者として国民年金からの老齢基礎年金が生まれて後を引き継ぎました。
あのー、年金はよく2階建てとか3階建てと呼ばれますよね。これはどういう事かというと、1階部分にみんな共通して支給される国民年金(つまり老齢基礎年金)を受給して、その上の2階部分に過去の報酬に比例して金額が異なる厚生年金や共済を支給するというのが今の形です。なお、サラリーマンや公務員が僕たちは厚生年金にしか加入してないという認識の人が多いですが、同時に国民年金にも加入してるというのが正解です。
ところで昭和61年3月31日までの年金制度の時は、厚生年金を支給する際は今みたいに「国民年金(老齢基礎年金)+厚生年金(報酬に比例する年金)」という形ではありませんでした。厚生年金を支給する時は「定額部分+報酬比例部分」という形で支給していたんです。
でも昭和60年の年金大改正で昭和61年4月1日から国民全員が共通して国民年金に加入して基礎年金を65歳から支給するという形に変化しました。この「定額部分+報酬比例部分」という形が、「国民年金(老齢基礎年金)+報酬比例部分」となったわけです。定額部分のところが国民年金に置き換わりましたね。
厚生年金や共済の年金を指す時は今現在は報酬比例部分のところだけを指します。1階部分の役割を従来は定額部分が担ってたものを、国民年金の基礎年金が引き継いだわけですね。定額部分は昭和61年3月31日をもって引退するが、あとは国民年金に託したって事ですね。
ちなみになぜ定額部分の後継者を国民年金にしたかというと、同じく加入期間に応じて年金額が比例する年金だったから。報酬比例部分の年金のように過去の給料の多かった人にはその分多く、少なかった人には少なく支給される年金と違って加入期間に比例して平等に金額も同じになる性質だったから。
そこで、昭和61年4月1日からは定額部分を廃止して、いよいよ国民年金の出番となったわけですが、ここで2つ問題がありました。それは定額部分の計算式と、国民年金の老齢基礎年金の計算式が違う。計算すると定額部分のほうが若干多くなる。
例えば、国民年金に強制加入である20歳から60歳までの間に厚生年金(または共済組合)に加入したのが360ヵ月だったら、
- 1,626円(令和元年度単価)×360ヵ月=585,360円
じゃあ、国民年金の老齢基礎年金の場合は
- 780,100円(令和元年度満額)÷480ヵ月×360ヵ月=585,074円
定額部分は585,360円で老齢基礎年金は585,074円となって、旧年金時代の定額部分のほうが金額が高くなりましたね。あれ!?じゃあ旧年金時代のほうが年金額が高いやん!今の国民年金は損してる!って思いますよね。
だけど、老齢基礎年金を貰う時に年金額が低下してしまうのを防ぐために、その定額部分と老齢基礎年金の差額を埋めるために差額加算で埋め合わせをするのです。さっきの定額部分585,360円で、老齢基礎年金が585,074円なら、差額の286円が差額加算となって支給される。
そして2つ目の問題が、厚生年金(または共済組合)と国民年金の加入期間の違いの問題。厚生年金や共済(平成27年10月からは厚生年金に統合)は国民年金のように20歳から60歳までの480ヵ月という制限はなく、例えば中学卒業後の15歳から厚生年金に加入したり、定年後も働くとすれば最大70歳まで加入できます。そうすると加入した年齢によってはズレが生じますよね。
例えば50歳から70歳までの20年間は給与50万円で厚生年金に加入したけど、国民年金の老齢基礎年金には50歳から60歳までの10年間しか年金額には反映しない。厚生年金加入中は何歳であろうが、みんな同じ保険料率18.3%(実際はこの率を労使折半して支払う)を納めるのに、60歳前と後では老齢基礎年金に反映したりしなかったり…。60歳後も今までと変わらない厚生年金保険料額を納めてるのに老齢基礎年金額には反映せずに、支給される年金は報酬比例部分だけだからなんだか不公平な気分ですよね。
でも大丈夫。そこも差額加算として埋める。さっきの50歳から70歳まで厚生年金に加入した人は、1,626円×240ヵ月-780,100円÷480ヵ月×120ヵ月=390,240円-195,025円=195,215円が差額加算となる。
まあ、給与(標準報酬月額)は平均で50万円で働いたら、報酬比例部分は
- 50万円×5.481÷1,000×240ヵ月=657,720円
差額加算は先ほどの
- 1,626円×240ヵ月-780,100円÷480ヵ月×120ヵ月(20歳から60歳までの厚生年金期間)=195,215円
老齢基礎年金は、
- 780,100円÷480ヵ月×120ヵ月=195,025円
65歳からの年金総額は、
- 老齢厚生年金(報酬比例部分657,720円+差額加算195,215円)+老齢基礎年金195,025円=1,047,960円(月額87,330円)
※注意
差額加算は老齢厚生年金の部類。60歳から70歳までは国民年金には強制加入にはならないから、老齢基礎年金額には反映しないけどその代わり差額加算(経過的加算)として補う事になるから損はしない。
ちなみに差額加算の金額195,215円を見てみると、国民年金に120ヵ月間加入したのとほぼ同じ効果がある。国民年金に120ヵ月加入して国民年金保険料を納めると、780,100÷480ヵ月×120ヵ月=195,025円になるから、国民年金を納めた効果とほぼ同等の効果がある。
というわけで定額部分というのは昭和61年4月にもう廃止されて終わった年金ではありますが、従来と新しい年金との違いがあるので、今もなお「経過的に」その差額を埋めて年金額が従来より下がらないようにする措置として経過的加算(差額加算)が計算されて支給されている。
※追記
60歳から支給されてた定額部分は昭和61年3月31日をもって廃止されて、65歳から国民年金の老齢基礎年金が支給される事になりました。しかし、60歳支給だったものをいきなり65歳支給となると、老後の生活設計が狂ってしまうので60歳から61歳、62歳、63歳、64歳…というように生年月日に応じて徐々に支給開始年齢を引き上げていって、支給開始年齢の引き上げの影響があまり大きくならないように配慮された。
男子は平成13年から平成25年までの12年間かけて引き上げ(昭和16年4月2日生まれ~昭和24年4月1日生まれの男子)、女子は平成18年から平成30年までの12年間かけて定額部分を引き上げた(昭和21年4月2日生まれ~昭和29年4月1日生まれの女子)。
例外的に現在も65歳前に定額部分が貰える人は、現在は障害等級3級に該当する人や、44年以上厚生年金に加入した人、船員や坑内員として15年以上働いた人などが支給される。65歳からはそれらの人も国民年金の支給となる。
定額部分との差額は経過的加算(差額加算)として補う。
8月28日の有料メルマガ第100号(今月でついに100号!)では、定額部分の歴史の流れと変化を特集します。定額部分というと皆さん苦手とするんで、親しみを持ってほしいと思います^^;
ちなみに昔、共済組合が乱立したのも定額部分が出来た影響が大きい。
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