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あおり運転の厳罰化は?見直されるべき「時代にそぐわぬ」法律

日本中に衝撃を与えた、茨城県内の高速道路上で発生した暴力行為を伴う、あおり運転。容疑者は逮捕されましたが、現在の法律では運転免許が取り消しになったとしても、一定期間を過ぎれば再び免許を取り路上に出られるとあって、「一生涯免許剥奪」を含めた厳しい法改正を求める声も多数上がっています。識者はどう見るのでしょうか。米国在住の作家・冷泉彰彦さんは自身のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』の中で、使い勝手の悪い法律は国民の意思で変えていくもので、我々はその権利を有していると記しています。

法律違反を警告する前に、法律を見直す議論を

ネットニュースの中で、割合にビューを稼いでいる記事のカテゴリとして「法律違反を警告する」というジャンルがあります。例えば道交法に関する記事では、「急ブレーキ、急発進、急加速、急ハンドル」の中で、道路交通法で明確に禁じられているのは「急ブレーキだ」という指摘があります。

急発進・急ブレーキ・急ハンドル! クルマの運転で「急の付く動作」の違法性と境目とは

記事の内容はいいんです。禁止されていても、危険回避の場合は構わないし、法律で禁止されていなくても「急ハンドル」や「急加速」「急発進」は良くないという常識的な内容だからです。

ですが、問題はこの道路交通法第24条」です。条文はこうなっています。

第二十四条 車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両等を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない

別に誤った法律だとは思いません。ですが、法律としておかしいのは事実です。危険防止の場合以外は、急ブレーキを禁止するのなら、どうして急発進や急加速急ハンドルも同じように禁止しないのか、という疑問が湧くのは当然です。

反対に、急発進、急加速、急ハンドルについては道交法で「禁止」とはされていないが、こうした行為を「禁止していない」ことで事故が起きたりするような弊害がないのであれば、急ブレーキもあえてそれだけ禁止する必要はないと考えるのが自然ではないでしょうか?

道交法の場合ですと、もっと深刻な問題もあります。最近、多くのドライバーはスマホをカーナビとして使っていると思います。これはもう世界的な動きであり、常識だと言ってもいいでしょう。スマホの情報によって、道に迷うことがなくなったり、正しい車線変更をして高速の出入りに備えるなど、安全にも直結していると思います。

にも関わらず、スマホのホルダーをどのように固定するのがいいのか実は正解はないのだそうです。例えば、

あなたの車は大丈夫? ナビアプリ利用で増加する「スマホホルダー」 取付け位置で違反の可能性も

の記事では、「スマホが前方視界を妨げると違法」かと言って「エアコン吹き出し口に設置してチラ見するのは脇見運転で違法」だと警告を発しています。

これでは、記事としてアドバイスになっていないわけで、「便利かもしれないが、捕まらないように気をつけて」という、一種の自己責任論のようになってしまっています。

この問題ですが、おかしいのは「実情に合った法律がない」ということだと思います。もしかしたら、運輸当局は「合法なのはメーカー純正の高価なオプション扱いのカーナビだけ」と考えているのかもしれませんが、さすがに2019年の現在ではそんな認識では、ドライバーの常識とのズレ込みは相当広がっているということになります。

とにかく、スマホのナビによって安全確保をしながら走っているドライバーが多い中で、スマホが視界を遮っても違法、視界を遮らないスマホを見たら脇見で違法などという馬鹿げた法律は改正が必要です。

とにかく、国民というのは法律の規制対象であると同時に、主権者なのですから、その主権者に対する問題提起として、法律に「直した方がいい点」があるのに「違法行為にならないよう注意しましょう」的な訓戒を垂れるというのは、やっぱり変だと思います。

これと似たような話は、大きな制度変更の際に起きる現象です。もうすぐ、恐らく10月1日から消費税率が8%から10%にアップされます。そこで複雑な軽減税率制度がスタートします。そうなると、財務省はいつものように多額の税金を使って「みなさん、お間違えのないよう」と「新制度の告知」を始めると思います。

これも主権者をバカにしています。制度が複雑で問題があるのなら、審議の途中で複数案を有権者に問うべきです。そして問題点、論点については、国政選挙などを通じて賛否両論の論争という形で社会的によく知られるようにすべきです。

そうした努力はしないでおいて、法律が実施される時になって「ご存知でしたか?」とか「違反をしないように」などと告知をする、これは本当におかしな話です。民主主義とか立法権とか間接民主制ということがキチンと機能していないとしか言いようがありません。何よりも、主権者が主権者として認識されていないのです。

急ブレーキだけが違法というのは不自然です。法律を見直した方がいいと思います。スマホのホルダーはどこに設置しても違法というのは、不便ですし、21世紀の現在極めて使い勝手の悪い法律だと思います。妙な警告記事がビューを稼ぐのではなく、主権者として法律のアップデートを主張しその上で社会全体が法律の使い勝手をちゃんとメンテナンスしている社会になることが大切です。

考えてみれば、訳のわからない書類に面倒な書き込みをさせられて、「法律なので仕方ありません」とか、どう考えても悪質な犯罪なのに「処罰する法律がない」ので見逃されるとかいうような問題も多くあると思います。

民事や行政がらみの実務的なものから、犯罪抑止に至るまで、法律は大切です。守らなくてはなりません。ですが、民主主義国の主権者というのは、法律を守りつつ、使い勝手の悪い法律は自分たちの意思で変えていくそのための権利を有しているのです。その権利をどう行使していくのかを教えるのが主権者教育ではないかと思うのです。

image by: Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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