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憧れのネス湖でNY在住日本人社長が出会ったモンスターは「人間」

久しぶりのひとり旅で憧れのネス湖を目指した、メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』の著者で、米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋克明さん。旅行記は、機上の人となった第1弾スコットランドの「意地悪」の洗礼を受けた第2弾に続き、いよいよネス湖到着後の第3弾に突入です。高橋さんは、お目当てのモンスター「ネッシー」よりも強烈なモンスターたちと対峙します。

「ネッシーを探す旅 私的スコットランド紀行」その3

もとはといえば、ストレスを解消するための旅。あきらかにニューヨークにいる時以上にストレスを感じてる(笑)おばはん、目の前でまたあくびする。もう寝て、起きてくるな。パラパラの小雨なので、気にせず、外のベンチに座り、空を見る。ひとり旅って、こういううまくいかない時間を楽しむためのものなのかもなぁと、ちょっと笑ってしまう。

1時間後のバスに乗り、ごくごく普通の田舎の住宅地を通り、15分も走ると左手に大きな湖が見えてきました。見た目、ごくごく普通の湖に、なんの感慨もなく、とうとう幼少期から憧れた湖に来たんだなぁとぼーっと窓の外を眺めました。降ろされたのは、バス停もないただの草むら。その向かいにホテルが見えます。

ホテルまで歩き、二階の湖に面したレストランで食事。湖はあまりに穏やかで、首長竜なんて絶対に出て来そうにない水面でした。観光客を乗せたクルーズが時折横切ります。

それをぼーっと見ているうち、当初は予約していたコテージにまずはチェックインして、荷物を置き、シャワーを浴びるつもりだったところ、引き込まれるように、そのまま目の前のクルーズ乗り場まで行っていました。1時間コースと2時間コースがあるとのこと。2時間コースを選ぶと、湖対面のアーカート城で1時間過ごせるのだとか。迷わず2時間コースを購入し、そのままクルーズ船に乗り込みます。観光客は7割くらい。アジア人は僕を除いてゼロ

アナウンスまで聞き取りづらいスコットランド語のガイドを聞きながら、ネス湖の上をクルーズしました。気づけば、子供の頃から憧れていた湖の上にいる。そんな感じでした。もちろんネッシーは出てきてくれない。ネッシーがいなけりゃ、本当に、世界中どこにでもある何の変哲もないただの湖

子供の頃、貧乏な家で育ったものの、親父は「図鑑」だけはいっぱい買ってくれました。5つ年上の兄は「どうぶつ」や「のりもの」の図鑑を好んで、ねだっていました。僕が夢中になったのは「うちゅう」と「きょうりゅう」でした。瀬戸内海で育ったくせに、子供の頃から海が異常に怖かった僕に、図鑑の中の海の中から首を出す「ぷれしおさうるす」は強烈なインパクトで刷り込まれました。

もう少し大きくなってから、この「ぷれしおさうるす」がまだ今の時代に生き残っているかもしれない、と兄に聞かされました。「ネッシーっていうんだ」。なぜかそれを見たこともない兄は得意げでした。いつか一緒に見に行こうな。兄が約束してくれたことを覚えています。まだ小学校に入る前だったと思います。その時すでに小学生だった兄は、僕の憧れで、とても頼り甲斐のある兄弟に思えました。ネッシーは、怖いけれど、にいちゃんと一緒なら、見に行きたいな。そう思いました。

ここ数年、まともな会話もしていない兄は、25年ほど前から障害を抱え、実家に暮らしています。今年50歳になった兄に、45歳の弟が、久々にLINEでネス湖の写真だけを送りました。何の説明もなく、湖の写真1枚送ったところで、それがネス湖とは多分、わからないだろうなと思いつつ。案の定、既読はついたけれど、返信はありませんでした。

対岸に船は到着。朽ち果てたアーカート城が建つ草むらに、寝っ転がる。せっかくのネス湖なのに、ついついうとうとしてしまう。なにか説明がつなかい幸福感に包まれました。1時間はあっという間に過ぎ、迎えに来たクルーズに乗り込みました。

クルーズを降りて、予約していたコテージに向かいます。ホテルの横の高台にあるロッジに入ると、豪華なインテリアを施した普通の家。受付らしきものは見当たらない。「えくすきゅーずみー…」と遠慮がちに進むと、隣の部屋にデスクが置いてあり、そこで作業している私服のおばさんがいました。目のつり上がった老婦人は、レンズのつり上がった老眼鏡をとり、「WHAT!」と不審者を見るように声を突き刺してきます。

「あ…ごめんなさい。隣のコテージの受付がここだとおもって」と慌てて、引き返そうとすると「……受付よ」と背中に返事。「え…」どっからどう見ても、オレ、旅行者だろ。ふつうは「いらっしゃいませ」だろ

予約サイトに書かれた「湖が窓から見える唯一の宿泊施設」という売り文句に惹かれ、安くはない家族連れ用のコテージを予約してきたのに、そんな嫌な対応しなくても(笑)。しかも、現地に来てわかったけど「湖が窓から見える唯一の宿泊施設」ではないよね。隣のホテルの方が窓もデカイし、より湖面に近い位置だったよね(笑)

「丘を2個超えたところがあなたのコテージよ」と大きな古い鍵を渡され、またさっきまでいたところに戻ります。普通に一軒家。裏に周り、入り口までくると、壁にムカデとでっかいクモが張り付いていた。山を切り崩してその隣に建てているから仕方ない。爬虫類以外は割と平気なので、中に入ります。見たこともないデッカい4匹の蛾にお出迎えされます。爬虫類以外は割と平気なので、そのまま寝室に入ります。

シャワーを浴びようと蛇口をひねるとまっ茶色の水が。爬虫類以外は割と平気なので、今日はシャワーは諦めます。エアコンはどうやらないみたいだけれど、爬虫類以外は割と平気なので諦めます。スマフォをワイファイに繋げようとすると、WiFiがどうやら飛んでないみたい。さすがに爬虫類とは関係なく、諦めきれず、さっきのロッジの受付に、また丘をふたつ超え、戻ります。目のつり上がったおばあさんが、また初対面のごとく「WHAT!」と甲高い声を上げるけれど、知ったこっちゃない。

WiFiつながらないんだけど、という僕に、そんなのないわ、とおばあさん。でも、予約サイトにはWiFi完備と書いてあったけど、と食い下がると、「ここ(のロッジ)は通じてるわよ」。ロッジの受付から僕のコテージまで丘ふたつ。ずっとここにいるわけにはいかない。でも、もう何を言っても今からWiFiが飛んでくるわけでもなく、諦めることに。

また丘をふたつ超え、自分のコテージに。ベッドの上で、蛾が寝てた。たまらず、隣のホテルに駆け込みます。「空き部屋あり」と看板に出ていたので、今から泊まれる?と受付のおじさんに聞くと、目を見たまままばたきひとつせず、「ありません」とひとこと。極度の寝不足で、完全な被害妄想だけれど、映画の中の、なにか村人全員がつながってるおかしな村に迷い込んだような錯覚に陥ります(笑)。

エアコンもWiFiもまともなシャワーもない部屋に戻ってもしょうがないので、タクシーでとなり村の「ネッシーランド」や「エキジビションセンター」に行こうと思いつきました。「タクシー呼んでもらえない」そうお願いすると、露骨にめんどくさそうに受話器をとって3コール目くらいで、切って「留守みたい」と前述のおじさん。

さすがに「もうちょっとねばってよ。3コールくらいしか鳴らしてないじゃん」というと、今度は露骨にめんどくさそうなため息までついて、仕方なさそうにまた電話をしてくれます。コールしている間、死んだような目でこっちを見つめてくる。こっちも死にそうな目でそらさない。数十秒の無言の中、かすかに聞こえるコール音。お互い目を見つめたまま。留守番電話に切り替わる音声がその静寂を切り裂きました。「ね、留守でしょ」なぜか勝ち誇ったように、冷戦を終わらせるように、彼は言い放ち、席を立ってどこかに行ってしまいました。

この時点で、やることが、なくなりました。お店もない。WiFiもない。とりあえず、中世っぽい時代の衣装を着たおばあさんの不気味な自画像が飾られている自分のコテージに戻ります。また丘をふたつ超え。

窓からネス湖を眺めます。とりあえず何の変哲もない湖だけど、これがあのネス湖だと思えば、飽きずにずっとは見ていられる。そして、そのまま寝てしまいました。夜の10時に目が覚め、そのまま窓を眺めているうちに、今回の旅の目的を思い出します。

40代で鬱になる中年が世界的に続出しているのだとか。ひょっとして自分もそれか?と思い始めたのは、今年の頭くらい。ここまで来れたのは、運がよかったから。そろそろメッキが剥がれてくる。ネッシー見れたら、まだ「モッテル」だろ、「イケル」だろ。

なんでスコットランドの海獣とラックが関係あるのか、自分でもまったく説明できませんが(笑)見れたら、たぶん、まだ“ツイテル”(と思い込む)。そのための旅でした。

PM10:00相変わらず、ネッシーは姿を見せてくれません。なんで、ここまで、出てきてほしいと思ってんだオレ(笑)。首だけでも、ちょこっと出してくれないかなと、切に願う。AM1:00まだ姿を現してくれない。もう水鳥でも、木の枝でもいいから「それっぽいの」で、「見た!見た!まちがいない!」って言い張ってやろう。いつもの強引な営業トークで。

今まで運だけでやってこれたようなもの。そろそろ世間にもバレ始めてくるんだろうな。それが怖いのか。でも、失って怖いくらいのものを所有しているわけじゃない。ただの新聞屋だろう。

AM4:00うっすら明るくなってきて。水面ピクリとも動かねえんでやんのwおだやか~。AM6:00子供の頃から憧れた湖の朝は想像よりずっと綺麗でした。結局、ネッシーは一切、姿を見せてくれませんでした。

スコットランドのど田舎で、リセットできて(ネス湖がなけりゃ、絶対来てないわっ)いままで「幸運」だったけど、「偶然」ではなかったとは思えてる。

実は、ネス湖では、水温とプランクトンの数から大型の爬虫類、両生類が、つがい、で棲息できないと化学的に明らかにされています。水生生物学的に100%いないと立証されていることは来る前から知っていました。知ってて来た。言い聞かせに来た。どうやら、運に頼れずとも、ここから自力でやってかなきゃ、みたいです。来てよかったと思いました。

スコットランド人にとって、イングランドにも、アイルランドにもない自分たちだけのものが、ネス湖に住むモンスターでした。彼らにとってのアイデンティティーでした。そんな歴史が生んだ副産物と、民族の誇りが生み出した伝説は、リアルな恐竜の生き残りよりもずっとロマンがあると思うのです。

世界の都市にひとり旅したいつもの恒例行事、ニューヨークから持参したマルちゃんの「赤いきつね」をネス湖の湖畔、ネス湖を見つめながら、ひとり食べました。世界のあらゆる都市で、世界一好きな赤いきつねを食べてやろうと思っています。

朝になり、一晩中、出しっ放しだったシャワーの水はやっと透明に近くなりました。まだ完全透明とは言い難いけれど、これ以上シャワーを浴びられない方がキツイと思い、うっすら薄茶色のシャワーを浴びて、ロッジの受付まで鍵を持って、チェックアウトします。

昨日のおばあさんとは違う、受付の背の高い紳士風のお兄さんに、エキジビションセンターに行くためのタクシーを呼んでもらうようお願いします。彼は丁寧に電話をしてくれたけれど、どうやら、まだ留守みたい。ひょとしてこの村のタクシー会社って、ひとりで経営してるのか?

エキジビションセンターに行くのを諦め(だって歩いていける距離じゃないし、タクシーしか交通手段ないし、そのタクシーが二日続けて留守(笑)だもの!)気持ちは正直にいうと、「とっとと、この村から抜け出したい!!」になっていました(笑)あれだけ憧れ続けたネス湖なのに(笑)

コテージ隣の唯一のお土産ショップが隣接されているホテルまで歩きます。ここからは駅までのバスが出ているはず。時刻表を見ると2時間に1本。仕方なく、ホテルの駐車場に面した目の前のネス湖をまた眺めながら、バスをずーっと待ちます。一体、結局、何時間、ネス湖眺めてんだ(笑)

時刻表通りなら、まだ1時間はある。高架下をくぐり、最後にネス湖の入江まで歩き、湖の水を触ります。ネス湖って触れるんだ!とちょっと感動し、来てみないとわからないことっていっぱいあるなぁとか考えていました。図鑑には書いてなかった。

駐車場で交通整理しているおじいさんに「バス停ないけど、ここにいればいいんだよね、バスが来るよね」と聞くと、「ん?…ああ、まぁ」と頼りない返事。時刻表に書かれた時間になってもバスは来ない。ネス湖の真向かい。もうネッシーはいいから、バス、姿見せてくれよ(涙)と思った瞬間、目の前の車道をバスが全速力で通り過ぎました。どうして?

交通整理のおじいさんと目が合います。彼は慌てて目をそらす。逃さない。捕まえる。「そこの草むらに立つんだよ。立ってたら、バスがとまる…」と彼。「どうして、さっき教えてくれなかった?」と僕。「だって……聞かれてないから」と彼。その場にへたり込みます。もう、あと2時間待ってられない。

ホテルの2階の受付に行って、タクシーを呼んでもらう。太ったおばさんは「1階にタクシー呼び出し専用の電話があるから、そこでかけなさい」とひとこと。最初は僕が宿泊客ではないから、無愛想にされているのだと思ったけれど、今朝初めてみるこのおばさんは僕が宿泊客じゃないのを知らないはず。それでもこの対応。仕方ないので、1階のロビーまで降りて、呼び出し専用の電話を鳴らします。ずーっとコール。365日24時間留守なのか?

また2階の受付に。おばさんに「誰も出ないんだけど、本当にその電話で間違いない?」と聞くと「とにかくかけ続けなさい」とひとこと言って、デスクの下に目を落とします。また1階のロビー。電話を鳴らし続けます。だーれも出てこない。仕方ないからバスを待とうか、もう2時間。時間を潰す場所もない。WiFiもない。ネス湖ももう10時間以上眺めてる。そこで、あ!とあることに気づきます

インヴァネスの駅から次の予定地グラスゴーまでの鉄道は昼過ぎにはなくなってしまうことに。次のバスでは間に合わない。何もないところで野宿になりかねない。焦って、呼び出し電話を鳴らし続けます。泣きそうな顔をして(笑)。でも、誰も電話に出ません。焦ってる僕と、目があった交通整理のおじいさんは慌てて目をそらします。ふと気づく。今、そこの駐車場から立ち去った車、あれ、タクシーじゃない?観光客をこのホテルまで送ったタクシーが今、帰っていったよう。

電話に夢中で気づかなかった。おじいさん、僕を呼んでくれようとしたのか。でも、結局、呼んでくれなかったじゃん。むしろ、気づかないことを楽しんでいたのか。ぐったりとうなだれる。はっ、と顔を上げると、一瞬、ニヤリとおじいさんが笑ってるように見えました。多分、僕のただの被害妄想なのだと思いたい。もう一度、顔を上げる。今度は確実に、こちらを見て、ニヤリと笑い、肩をすくめました。

彼は僕のすぐ近くにいて、この数時間、僕がバスを待っていたことを知っている。何度もタクシーの呼び出し電話を鳴らしていることも知っている。どうして教えてくれなかった、と詰め寄ったところで、答えはまた決まっている。だって聞かれなかったから。

もう限界だと思い、もう一度だけ、ホテルの2階の受付に行く。例のおばさん、またこいつか、の顔。正面に座り「おねがいだから、聞いて」と声のトーンを下げる。「昼までにインヴァネスに行かないと、列車に乗れない…」。話の途中で「だから、専用電話を鳴らし続けなさいよ」と遮る彼女をさらに、遮る。

「ごめん。失礼なことを言うね。この国に来て、まだ誰にも助けてもらっていない」もうヤケになってる。余計、相手を怒らせる可能性の方が高い。「あなたの国だ。できたら、この国で最初に僕を助ける人になってくれないかな」あまりに失礼なセリフだと自覚している。でも言わずにはいられない。彼女はだまったまま、僕から目を逸らさない。そのまま僕も目をそらさない。

何秒くらい経ったろう。彼女は「………いいわ」とひとこと言い、目の前の受話器をとり「1台お願い」と言って電話を切りました。その間たった15秒ほど。この15秒をあれだけ頼んだのにしてくれなかったのか、と言いかけたけど、「本当にありがとう」とお礼を言って、1階のフロントに戻りました。15分くらいで来るから、と彼女は僕の背中に教えてくれました。やっとだなと、思いホッとしたところ、40分経ってもタクシーは来ませんでした。

もうどうにでもなれと座り込んでうなだれているところ、30代くらいの白人のカップルが話しかけてきました。どうした?と。シカゴから観光でさっき到着したアメリカ人カップルでした。事情を話すと、彼らはたった今、レンタカーでこの村に到着したばかりなのに、そのレンタカーで駅まで送ってくれると言います。

ありがとおおおおおお」と抱きしめたところで、タクシーが到着。このままタクシー無視して、シカゴのふたりの車に乗りたかったけど、さすがに、それはマズイかなと思い直し、シカゴの彼らにはお礼を言って別れました。15分で来ると言って1時間かかったタクシーに乗ることに。

駅までの道中、タクシーの運転手に「丸1日、湖眺めていたけど、モンスター見れなかったよ」というと、「オレはこの村で生まれて40年暮らしてるけど、1回も見たことないよ」とサラっと返されました。観光客にそれ言っちゃダメだよねぇ…。

(次回に続く)

image by: NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明

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全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。初の著書『武器は走りながら拾え!』が2019年11月11日に発売。

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【著者】 高橋克明 【月額】 初月無料!月額586円(税込) 【発行周期】 毎週水曜日

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