MAG2 NEWS MENU

行き詰まった日本のアパレル。原因から考える非日常服の可能性

苦しむ日本のアパレル。その原因と、唯一の勝ち組と言える「ユニクロ」の強さの理由を、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、自身のメルマガ『j-fashion journal』で解説します。そして、苦しむアパレルが「ファッション」を捨てることなく生き残っていくための打開策として、「非日常の服」の可能性を見出しています。

日本のアパレルの目指す道

1.行き詰まった日本のアパレル

日本のアパレルは行き詰まっている。百貨店や量販店のアパレル売り場は売れなくなった。これらに共通するのは、アパレル問屋に依存していること。問屋と小売店の利益を上乗せすると、価格競争力が低くなる。原価率20~30%の商品は販売が難しい。結局、セールで捌いている状態だ。

もう1つの原因は、これらのアパレル問屋が生産管理を商社に依存していること。商社経由で商品調達ができるならば、小売店が直接商社経由で調達すればいい。ある程度の店舗数を持っている専門店は商社から商品を調達し、SPA化した。世界のアパレルビジネスは小売店が主体になっている。小売店が直接、工場から商品を調達する時代なのだ。

2.ユニクロを目指そう

日本の百貨店、量販店及び主要なアパレル企業の不振が続く中で成長を続けているのがユニクロだ。それならユニクロを目指せばいい。でも、できない。なぜか。

ユニクロは圧倒的な価格競争力を持っている。主要なアパレルが国内生産の工賃を基準にした価格設定をしている中で、ユニクロは中国生産の商品を基準に価格設定をした。

他のアパレルはユニクロの価格競争に勝てない。サプライチェーンが異なるし、原価率も異なる。アパレル問屋と大型小売店の利益を確保してから原価設定をするのでは、ユニクロ並の価格設定はできない。

更に、ユニクロのテキスタイル開発力にも勝てない。ユニクロは東レ、旭化成、クラボウなどの合繊メーカー、紡績と直接素材開発を行っている。また、丸編みや横編みの機械メーカーとも共同で商品開発を行っている。ユニクロはトレンドも意識しながら、毎年商品の「カイゼン」を続けている。

見逃されがちなのが、ユニクロは計画生産を実施していること。テキスタイルから作るということは、1年前から企画が始まっているということだ。そして、縫製スペース等も早くから抑えている。通常、アパレルビジネスはクイックレスポンスと称して、企画生産のリードタイムを短縮している。その結果、オリジナルの素材開発はできないし、計画生産によるコストダウンもできない

日本の繊維産業の強みは、糸と機械だ。その双方の力をユニクロは活用している。また、中国生産の強みは、コストと品質である。これを実現するには、ある程度の数量とリードタイムが必要だ。しかし、通常のアパレルでは対応できない。

その他にも、海外市場対応、ネット販売対応、自社メディア、週末セールによる商品の消化など、追随を許さない強みも多い

3.デザイナーズブランドを目指そう

ユニクロを目指すのが無理なら、デザイナーズブランドを目指すのはどうだろうか。ブランドイメージを高め、商品の価格を上げるのだ。いかに安く作って安く売るか、ではなく、いかに高く売るか。そのために、どれだけ投資できるかが問われる。

デザイナーズブランドも、ある程度のリードタイムは必要だ。世界は年間2シーズンで回っている。テキスタイルもアパレルも年間2回のコレクションを作成しなければならない。しかも、コレクションを作るデザイナーは、自分でテーマを決めることが必要だ。トレンド分析や昨年実績を元に、商品企画を組み立てるという手法そのものを変革しなければならない。

役割分担や責任も異なってくる。デザイナーは、売れなければ契約解除となる。その代わり、商品化の責任を負う。営業はコレクションの前にブリーフィングを行って、希望を伝えるが、その希望を聞くかどうかはデザイナーが決める。

デザイナーという職業はハイリスクハイリターンである。報酬も高いが、責任も重い。日本では、売れなくても、デザイナーが解雇されることはない。その代わり、デザイナーに商品化の権限を与えない。給料も低い。誰も責任を取らない体制の中で、会議を重ね、商品化していく。こうしたやり方を根底から覆さない限り、デザイナーズブランドを展開することはできない

4.オートクチュールとトレンド

ユニクロにもなれない。デザイナーズブランドもできない。そんな会社が多いだろう。時代の変化と共に、産業も企業も世代交代が進むものだ。従って、時代の変化に対応できなければ淘汰されるだけだ。しかし、ファッションが好きで、ファッションを目指す若者のために、一度、今の状況を離れて、根底から考え直してみたい。

最初に、オートクチュールについて考えよう。オートクチュールとは、高級注文服と訳されるが、一人一人の顧客のボディや頭型を作り、それに合わせて服を作る。以前、シルクドソレイユの衣装作りをテレビで観たが、出演者全員の頭部の型を取り、仮面やマスクを作っていた。この手法をデジタル化すれば、完全オーダーのパターンを作り、一枚流しの縫製で製品ができるかもしれない。しかし、ZOZOスーツ以上の精度が求められるだろう。

オートクチュールの起源は、貴族のお抱え仕立て師による夜会服である。日常の服ではないので、常に斬新さが求められる。パーティーで、いかに目立たせるか。但し、単に派手なら良いわけではない。周囲との差別化やコンセプトやテーマの深さや知性が問われたに違いない。

その歴史がパリコレに伝わっている。デザイナーがテーマを競い合うのは、それが時代を的確に表現していることが評価されるからだ。その価値がブランドライセンスビジネスに生きている。

日常使いの昼間の服ならば、毎年変化させる必要はない。例えば、アメリカンカジュアルの服は、工業製品のように企画生産された。ジーンズもTシャツも工業製品である。

そんなアメリカも豊かになると、ヨーロッパへの憧れが生まれ、パリコレの服をコピーし大量生産するようになった。そのノウハウが日本に伝えられて、日本のアパレルの基盤となったのである。

現在、日本のアパレルは工業製品に近づいている。消化率やリスクヘッジを気にすると、必然的に商品は同質化する。ファッションへの憧れ、新しいものへの憧れが消えてしまえば、限りなく工業製品に近づくだろう。

アパレル製品が工業製品になるということは、アパレルがファッションを捨てたということになる。ファッションを捨てて、アパレルが生きる方法と、ファッションが生きる方法は異なる。日本のアパレル企業はどちらを選ぶのだろうか。

5.非日常の服の可能性

オートクチュールは非日常の服だった。これまで、我々は昼間の服、日常の服ばかりを考えてきたが、現代社会において、非日常の服の可能性はないのだろうか。

たとえば、舞台衣装やアイドルの衣装、アニメやゲームのキャラクターのコスチューム、ユルキャラのデザイン等である。海外から見ると、日常の服よりコスプレやロリータの方が日本文化を反映させたオリジナルである。

こうした服は日常着にはならない。しかし、観光、イベント、地域起こし等組み合わせることでビジネスの可能性が出てくる。日本の非日常と言えば「祭り」だ。もし、デザイナーが毎年祭り衣装のコレクションを作ったら、どうだろう。

土産物としても、単純な観光地の名称が入ったプリントTシャツではなく、オリジナルのアパレル製品が地域から世界に発信されれば、重要な観光資源になるだろう。

あるいは、沖縄の文化を取り入れた、マリンリゾートのコレクションを作る。ハワイには固有の文化に基づくテキスタイルがあるが、沖縄にもあるべきだろう。同様に、北海道のスキーリゾートのコレクションをアイヌ文化を反映させて作れないだろうか。

日常服は、ベーシックを基本にトレンドがスパイスになる。非日常の服は、文化や歴史、地域を基本にデザイナーの個性がスパイスになるのではないか。

image by: Tofudevil / Shutterstock.com

坂口昌章(シナジープランニング代表)この著者の記事一覧

グローバルなファッションビジネスを目指す人のためのメルマガです。繊維ファッション業界が抱えている問題点に正面からズバッと切り込みます。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 j-fashion journal 』

【著者】 坂口昌章(シナジープランニング代表) 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 月曜日 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け