これまでにNATOのストルテンベルク事務総長をはじめ、欧州各国も自らの安全保障体制の強化(アメリカ離れ)について発言していますが、これまでのようにのらりくらりと対応するわけにはいかなくなってきています。フランス政府からは早くも、一度は消えた欧州諸国で組織する『欧州防衛軍構想』がドイツをはじめとする国々に再提案されているという情報も入ってきました。
以前、この構想が持ち出された際には(確か今年初め?)、トランプ大統領はアイデアをこき下ろしましたが、もしかしたら今回は、Twitterでのつぶやきはあるでしょうが、「欧州のことは、欧州自身で面倒を見るべき」と、自らの米軍の国際展開の縮小と見直しという公約に絡めて、前向きに評価するかもしれません。
パッと見は、前向きな動きにも見え、新しい国際秩序の構築へ繋がると評価されるかもしれませんが、この構想が進むにつれ、ただでさえ苦しいEUの財政をさらに圧迫することになりますし、欧州防衛軍構想で主翼の一端を担うはずの英国も、今はそのEUからの離脱云々を議論して混乱する中、あまり見通しの明るい計画とは考えにくいのが現状でしょう。
しかし、確実にアメリカは、欧州・中東地域への“睨み”は利かせたままだとしても、戦力的なコミットメントは北東アジアへのシフトを図るのではないかと思われます。このプッシュ要因になっているのが、先述のトルコの(アメリカの目から見て)過剰なロシアへの傾倒です。
これまで欧州・中東地域への睨みとしてトルコのNATO軍基地は作用し、またその存在が、トルコを地域における大国で、バランサーとしての地位に復帰させた一要因だと考えられますが、トルコのエルドアン大統領が仕掛けるギャンブルへの答えとして、無くすことはしないにせよ、この基地へのアメリカのコミットメントレベルを下げ、その穴埋めを欧州各国に求めるというシナリオは大いにありうるでしょう。
ただ、絶対的な“重し”としての米軍のプレゼンスをすぐに欧州各国が埋めることは難しく、この力の空白が、これまで閉じられていた紛争のパンドラの箱を開けるきっかけになるのかもしれません。そうなると、欧州が最も恐れ、国内の混乱をさらに加速させる、「中東地域からの難民問題が再加熱」します。
今回、欧州に来て、いろいろな話を聞き、意見交換する中、私自身、アジアの情勢と欧州・中東地域の情勢は密接につながり、微妙でデリケートなバランスの下で何とか均衡が保たれているのだということを痛感しました。
これまで仮定も盛り込みつつお話をしてきましたが、国際情勢は確実に大きなシフトを経験する方向に向かっているようです。雪崩を打ったように、情勢が各地で大きく動くのがいつになるのかは読めませんが、私たちはその大変動に対応すべく、十分に備えができているでしょうか?今一度、しっかりと考える必要があると考えます。
image by: The White House from Washington, DC [Public domain], via Wikimedia Commons