手間をかけずに短い時間で簡単に美味しい料理が完成。忙しい人にとって時短レシピや時短食材は重宝がられ定着しています。そんな、個人や家庭向けだったトレンドが、プロの世界である外食産業にも広がっているようです。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、食品メーカー大手が業務用の時短食材を提供し始めた理由から、顧客に選ばれる企業になるために必要なことを示しています。
BtoBにまで広がっていく時短食材
食品メーカーの大手企業が、調理時間を短くできる時短食材を、レストランやホテルに提供し始めました。
9月21日の日経新聞本誌によると、日清フーズは早茹でのパスタ麺、カゴメでは下ごしらえ不要の冷凍野菜、キューピーは調理済みのスクランブルエッグの冷凍品と、いった具合で、多様な企業が多様な食材を提供し始めています。ミツカンなんかは、メイン商材の「酢」なのですが、様々な料理に使える万能の「味付けしやすい酢」を出したとのこと。面白いですよね。
私も料理をやるのですが、家での料理はそれほど本格的なものを作るわけではなく、だいたいいつも1時間くらいで3品ほど作ります。以前は、野菜や肉などの素材を買ってきて、レシピ本どおりに調味料を合わせて、煮たり焼いたりするという具合に、まるでプラモデルを作るかのように、いちから作っていましたが、ここ数年、味の素のクックドゥの「中華素材の元」のように、肉と野菜を入れて、まぜて炒めるだけで青椒肉絲ができる、という便利なものを使うようになりました。
これらを使うことで、作る時間を短縮して、食卓に出すことができます。味の方も、レンジでチンするだけのインスタント食品よりも、作りたての感じがあって美味しいんですよね。
このように、個人向け・家庭向けでの時短料理は、少し前から世に出ていました。その背景には、社会環境の変化が影響しています。やはり共働きが増えて夫婦両方で働くようになる、女性の社会進出の増加、都心部では自宅から勤務地への通勤時間の増加などで、料理の時間を以前ほど取ることができなくなったことがあります。
今回の事例は、個人・家庭の時短料理のトレンドが、飲食店などの対会社向けの事業にも出てきた点に、ちょっと注目をしていきたいと思います。この背景には、ここのところよく話題になっている、外食産業の人手不足があります。
飲食産業では、慢性的な人手不足なので、できる限りシンプルな料理法でできる食材によって、調理にかかる時間を短縮して、その分働く人数を減らすことができたり、1人あたりの時間数を減らしたりすることができるようにしたい、と考えます。
さらに、時短に加えて料理法もシンプルにできるとなると、熟練した料理人ではなくアルバイトくらいでもできるようになり、求人をする際にも以前よりしやすくなります。
飲食業界では、人手不足という問題を解決するために、シンプルな料理法を求めているわけなのです。こういった得意先のニーズに目をつけての、ここのところの食材メーカーの動きが、時短食材の広がりにつながっているのです。
先ほどのカゴメの「冷凍イタリアングリル野菜シリーズ」では、下ごしらえなしで調理できるため、調理時間が1時間短縮できるそうですし、また、ミツカンの「カンタン酢」は、マリネでも肉料理でも使い分けをしなくても使えるため、1本置いておけば、新人が担当した場合でも、レシピどおりに作れるようになります。
マーケティング活動ですべきは、お客様が困っていることを取り除いてあげたり、必要だと感じていることに、自社ができることを提供することです。
今回の事例では、食材メーカーが得意先の飲食業界における「人手不足」というニーズをいち早く見つけ、自社のサービスや製品に付加価値をつけて販売するということになります。注意深く顧客のニーズを把握することで、お困りごとを見つけ商品やサービスを改善することで、選ばれる企業になれるのです。
このような顧客ニーズの発見や深掘りには、自社と顧客を取り巻く環境の分析が役に立ちます。この事例でもあるように、働き方改革、人口減少、仕事の多様化、といった、市場環境の変化に気づくことで、「調理時間の短縮」が、顧客ニーズの解消につながり、顧客価値をアップさせたわけです。
政治、経済、社会、技術の変化を分析する、「PEST分析」のフレームワークで発見できることがらです。毎日、毎月でなくてもいいので、四半期に一度くらい、自社を取り巻く環境を見直してみると、見逃していた顧客ニーズ発見につながるものです。
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