これまでも「どのような『衰退国』にすべきかを議論するしかない令和ニッポン」等で、日本の未来についてたびたび言及してきた『国際戦略コラム有料版』の著者・津田慶治さん。津田さんは今回、日本社会で進む「2つの階層への分離」を紹介し、そのさらなる進行が我々の生活にどのような影響をもたらすかについて論じています。
中央銀行バブルの結果
米製造業ISMが47.8と50割れして、雇用統計は非農業部門13.5万人増と予想値より悪いので、景気減速が継続している。これにより、10月FOMCでの利上げが確定的で、ステルスQE4も始めている。中央銀行バブルの拡大になる。その後、どうなるかを検討しよう。
日米株価
NYダウは、利下げ期待で、7月16日27,398ドルと最高値を更新したが、その後下落して、製造業ISMが50割れ、かつ米欧貿易戦争も始まり、大きく下落で10月3日場中25,743ドルに、しかし、FOMCでの利下げ確定と雇用統計が悪いわけではなく、10月4日26,573ドルまで戻した。
欧州航空機エアバス社への補助金に対する対抗処置として、米国は欧州の輸入8,100億円相当に関税最大25%UPする。欧州も対抗処置を発動する方向で、検討すると表明して、米中、米欧の貿易戦争が同時進行する事態になっている。このような中、貿易戦争を受けて米国でも米製造ISMが47.8と悪く、米非製造業ISMも52.6となり、雇用統計も非農業雇用増加が13.6万人増と悪化している。
日経平均株価は、2018年10月2日24,448円になったが、以後低調で、12月26日18,948円と暴落し、その後、売り残の買戻しで9月19日には22,255円になったが、米国の景気減速と株価下落を受けて、10月4日21,410円になっている。
円高も進み、106円後半まで進んだが、日本株はそれほどには落ちない。日本は、TPPや日欧FTAなどと自由貿易を推進しているし、米国との通商交渉でも関税UPになっていない。中国や欧州から米国への製品輸出ができないことでの部品需要がなくなり、この影響を受けている。しかし、今の所、中国やドイツなどのような大きな影響にはなってはいない。
中央銀行バブルの今後
トランプ大統領は、1930年代のフーバー大統領と同じ道を歩んでいるようである。1930年にストーム・ホーレー法で関税を大幅に上げて、貿易縮小から世界全体経済を悪化させたが、それと同じことを起こしている。1930年代と同じで、株価維持ために利下げを行い景気の悪化を防いでいるが、第2次世界大戦後にしか、この景気後退から抜け出せなかった。これと同じ道を今、歩んでいる。
しかし、今は、戦争ができない。核戦争になったら、世界の終わりになってしまう。核兵器が一般化したので、地域戦争もできなくなっている。このため、景気後退には、金融財政政策で対応するしかない。
このため、FRBも10月にも0.25%利下げを行い、短期レポ金利を安定させるという名目で、恒久的な資産買い入れを行うステルスQE4を行うことになる。結果、中央銀行バブルの一層の拡大になる。債券などによる企業の借入金の増加などのため、金利上昇でバブル崩壊が起きることから、今後金利を上昇させない。ゼロ金利に向かう。
それでも足りないと、バブル崩壊を起こさないためには、借入金をチャラにするハイインフレを起こすことが必要になる。それでも、もしバブル崩壊しそうになったら、一層の量的緩和を継続して資金を供給するのでハイインフレ方向に米国は向かうしかない。中国も同様である。しかし、ハイインフレになったら、ドル基軸通貨制度は崩壊する。皆がドルを持たなくなる。そうすると、ドルの代替通貨が必要であり、FBの仮想通貨リブラになると見たが、FRBの抵抗で実現しそうにない。
一方、日本の量的緩和も同じことになると心配したが、トランプ大統領による貿易戦争によって、世界的な金融緩和になり、かつ日本企業が借入金を増やさなかったことで、日本政府の予算を均衡化するだけで、ハイインフレを起こさなくて済むことになる。
このためには、財政健全化に向けて改革することが必要であり、社会保障改革が待ったなしであるが、それが実現し、低インフレのままになり、円連動のポイント通貨メルペイ、ペイペイ、Lineペイなどが世界的に普及すると、ドルから円連動ポイント通貨に基軸通貨が移る可能性がある。このポイント通貨は仮想通貨ではないので、FBのリブラのように警戒されていない。その意味では、チャンス到来である。
中国のポイント通貨も可能性はあるが、人民元も債務が積み上がりどこかでハイインフレになり、かつ米国経済圏では中国のQRコード決済を米国は普及させない。米国で中国企業は、上場もできなくなる。米中の経済圏は分離、デカップリングである。
日本のメルカリなどは米国事業も行っているので、メルペイが米国でも普及する可能性が高い。そうすると、ドルのハイインフレが起きると、円連動のメルペイに資金が移動してくることになる。ということで、円が基軸通貨になりえる。
同様に、ソフトバンク系列のペイペイも可能性がある。ソフトバンクの米国事業会社の決済をペイペイにすれば同じことができる。世界展開するLineペイやファミペイなども可能性がある。
そして、可能性が高いメルペイ、Lineペイは、政府が主導する統一QRコードを利用している。ペイペイはインド会社の独自コードで利用しない。このため、政府もメルペイに期待して、メルペイの会議に西村経済財政担当相が参加した。
トランプ大統領の苦境
米中通商交渉では、10月10、11日に閣僚級協議を実施する。米国も景気減速が現実のものになり、農家の支持も必要であり、中国も大豆と豚肉を大量に買うことで、協議を進展させる方向である。米中の思惑が一致して、全面合意はできないが、部分合意をする可能性は高いと見る。
トランプ大統領は、ウクライナと中国に、民主党バイデン氏のあら捜しを調査するように要請したという。ウクライナには軍事援助の代わりで行うことを要求したし、中国とは通商交渉の取引の一部として要求したようである。トランプ大統領が、自分から中国への要求を言うので、ビックリしている。
このような他国の選挙介入を招く危険性があることを、米国の大統領が行うことは、国益上問題が大きい行為と言わざるを得ない。
このため、共和党上院議員の20名以上が下院で弾劾が通れば、賛成するというし、今までトランプ大統領を援護していた右翼組織でも批判的になっている。もしかすると、弾劾裁判で大統領が辞めさせられる最初の人物になる可能性が出てきた。
軍産複合体の利益代表のボルトン氏を政権から排除して、軍産複合体を敵にしたことで、共和党内での外交専門家、軍事専門家たちがそっぽを向いた可能性がある。その点、ペンス副大統領は、軍産複合体の味方であるから安心である。このため、弾劾裁判が成功する可能性は高まっている。
日本も、北朝鮮に中距離ミサイル開発を容認するトランプ大統領に危機感を感じている。核を持つ北朝鮮が中距離ミサイルを持つと、日本の安全は守れなくなる。このため、安全保障政策を大きく変革が必要になる。日本も離米が必要になっている。北朝鮮も米トランプ大統領の苦境を見て、和平の条件を引き上げている。このため、米朝実務者会談は決裂した。
イランに対しても戦争を放棄したことで、イランから奇襲攻撃されないように、米軍の中東軍司令部を中東カタールから米国のサウスカロライナ州に移した。サウジアラビアなどと米国の軍事専門家から、疑問の声が出ている。サウジはイラクの仲介でイランとの平和会談を行うようである。サウジも離米である。ロシアがサウジに防空システムを売るように行動している。
この状況は、米国の軍産複合体としては、大いに不満である。
このため、この苦境を理解しているので、トランプ大統領としても、中西部の農家とラストベルトの労働者の支持が絶対に必要になっている。それと、上中流階級の支持が得られる株価上昇させるためにも、中国との部分合意がどうしても必要になっているのである。
ソフト優位な社会へ
iPhone11のカメラを見ると、30万円以上もするキャノンやニコンの高級機より性能が高い部分がある。とうとう、高価なハード性能をソフトが仰臥したようである。ハードはそこそこで、ソフトで補正することで性能を上げる方向に来たし、それの方が断然安い。
キャノンは、画像補正ソフトを付録としているが、その考え方ではアップルやグーグルに太刀打ちできない。ハードよりソフトに金を掛ける時代が来た。
その上、AIが出てきて、条件を入れると最適な画像ができる時代になり、そのために膨大なデータが必要でネットと結んだ時代になる。というように、ハード優位時代からソフト+ネット+データ優位の時代になっている。
このソフトの時代では、ソフトが差別化の原点であり、ソフト内製化が必要になる。この方向を日本企業でも見えてきた。世界から有能な人材を高給で雇い、内製化したソフトで差別化して戦う企業しか、今後生き残れないことになる。このままでは、トヨタなどの日本の大企業は、負け組になり衰退することが確実である。
資金はジャブジャブあり、資金より知的創造性が高い人材の方が重要である。このため、世界から有能な人物を集めてきて、開発する必要がある。そして、ハードの製造は世界に分散させて、地産地消化して、ソフト開発は一か所に集中させて開発することになる。
現在、米国は技術者ビザを制限して、インドのソフト技術者を入れないようである。日本は移民政策に積極的であり、日本企業もソフトの重要性を知ったことで、その方向にシフトすれば、日本企業は、内部留保が多いので、資金もあり安定しているし、世界から有能な人材を獲得できると見る。もう1つ、給与を横並びにしないことである。
このように、世界から有能な人材を集めて、カメラを作れば、日本企業は、優秀なハードと優秀なソフトになり、アップルなどを再度抜かすことができると見る。
社会の未来
日本社会も、徐々に、2つの階層に分離してきている。公的組織の職員と有能なソフト要員を世界から集めた生産性の高い安定企業の社員(今の大企業ではない)、儲かっている企業の経営者と、安定企業に投資する投資家が上層階級になり、それ以外の国民8割の平民階級に分離する。
ポイント通貨でネット上で資金管理ができるので、製造工場も事務的仕事(購買・経理作業と経営コンサルタント、弁理士、弁護活動企画)もAIによる無人化ができるので、平民階級には、仕事が少なく給与も低い。企業には、経営者とAIやソフト技術者、商品企画、営業の一部などしか必要がない。
2つの階級では住む地域も異なることになる。都心は上層階級、郊外に平民階級というようになり、台風などの災害に弱い郊外と強い都心というようなことになる。災害復旧時間も都心は数時間で復旧するが、郊外は数週間かかることになる。千葉県の災害を見れば、投資額やメンテナンス要員数が違うので、大きな差が出る。
それと、自然災害が強力で大規模化するなどで、中央集中システムでは投資額や維持コストが大きいが、人口減少で運営組織の予算の縮小化が起きて、投資やメンテナンスができなくなり弱体化している。日本が全体的に貧乏になって、日本全体の脆弱化が起きている。
このため、投資額を少なくできるエネルギーや水道、下水などを個人や集落で構築する分散化に向かうことになる。家のゼロエネルギー化などで、技術的な開発が進んでいる。地方都市では、コンパクト・シティー化などで、中心部しか公共交通や公共設備がなくなる。このように、究極の地産地消経済に移行することになる。
上層階級は競争社会のままであるが、政治的優位である圧倒的多い平民階級はベイシック・インカムなどのような仕組みで、社会主義的な社会になり、年金生活者や低所得者を同一システムで管理することになる。社会保障改革で年金を減らすことになると生活保護の数が増えるので、統一した方が良いとなる。
ということで、地産地消社会+上層の競争社会+下層の社会主義社会となるのであろう。
このようなことが、米国のハイインフレと同時並列的に起こってくることが予想できる。
さあ、どうなりますか?
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