中国を笑えるのか。静かに、しかし確実に監視社会化するニッポン

 

オーウェル『1984年』の世界?

中国で爆発的に進展するネット社会化、それと裏腹の監視社会化についての議論も似たようなところがあり、共産党独裁の下だから暗い統制社会になって当たり前と言った単純な捉え方が横行している。これがまずいのは、1つには、日本でも中国ほどではないが監視カメラがどんどん増えていてそこには中国とも共通する問題をいろいろ抱えているというのに、中国を笑ったり恐れたりするばかりで、自分も似たような問題に遅れて直面しつつあることに気が付かない。2つには、そうこうするうちに中国の方がますます速度を上げてネット社会化を前進させその陰の部分もどんどん解決して行ってしまうことになりかねない。そのことを警告したのが、梶谷懐・高口康太の『幸福な監視国家・中国』(NHK 出版新書、19年8月刊)である。

彼らが第1章の冒頭で言うように、日本では中国を悪しき「監視社会」の実例としてネガティブなトーンで紹介されることがほとんど。

中国には国民を監視する巨大システムがあり、交通違反からソーシャルメディアでの体制批判まで監視している。違反者には航空券や鉄道の利用禁止などの社会的制裁が与えられ、すでに2,000万人が対象となっている……。こういった記述を読んで、「やっぱり共産主義の独裁国家は怖い」「ジョージ・オーウェルの『1984年』のまんまじゃないか」と感じた読者は少なくないことでしょう。このように現代中国の監視社会化に警鐘を鳴らす報道や記事の多くは、基本的にそれが人々の自由な活動や言論を脅かす「ディストピア化」であることを強調し、その背景に共産党の一党独裁体制、特に強権的な姿勢が目立つ習近平政権による言論弾圧を重ね合わせた悲観的なトーンで書かれています。

こうした間違いだらけ控えめに言ってもミスリーディングな報道や記事ばかりである。例えば、共産党独裁だからすべての個人情報が国家によって一元的に「集中管理」されているに決まっているというのは、トランプ米大統領も含めた西側世界の根拠のない思い込みで、ネット化やIT化の世界最先端を走っているのはアリババ、テンセントをはじめとする民間企業であって、そのすべてを共産党が取り仕切っているというものではない。中国の国民もテクノロジーへの信頼に支えられた一種の「ユーフォリア(多幸感)」を持ち始めていて、そんなことを言うとすぐに「洗脳されているからだ」という反論が返って来そうだが、調査会社イプソスの各国国民の「懸念」についての2019年の調査では「自国の進んでいる方向性」について28カ国中で最も自信を持っているのは中国で、何と94%の回答者が自国が正しい方向に向かっていると思っている。また米調査会社エデルマンの27カ国3万3,000人に対する調査で、「テクノロジーを信頼するかどうか」の問いに「信頼すると答えたのは中国で91%に達し、27カ国中で第1位だった。

これを2人の著者は、こう解釈する。

独裁者による意図を持った市民の監視などは、現代のビッグデータとその解析をベースにしたテクノロジーの下ではそもそも現実的ではない。強いて言うなら市民を監視する主体は特定の人間ではなくAI、あるいはそれを動かしているアルゴリズムそのものである、だからこそわれわれにとって(共産党による)恣意的な人々の「監視」よりも、デジタルな監視技術のほうが信頼できるのだ――その背景にある「思想」を筆者なりに「忖度」すると、こんな感じになるのではないでしょうか。

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