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世界がニッポンに熱視線。スマート農業という、新たな成長産業

本来、国の根幹をなす産業である農業ですが、我が国では従事者の高齢化に加え後継者不足も重なり、存亡の危機に立たされていると言っても過言ではありません。そんな中、ITやAIを駆使した「スマート農業」が注目を浴びています。ライターの本郷香奈さんは今回、ドローンの農業分野への活用を中心に、日本のスマート農業市場の将来性に着目し活発な動きを見せる国内外の企業の取り組みを紹介しています。

日本でも広がるドローンを活用したスマート農業

近年、農業生産の現場で「スマート農業」が世界的に広がりを見せている。スマート農業とは「精密農業」とも呼ばれ、ハイテク技術を活用して効率よく作物生産を行う農業を意味する。日本でも農業従事者の高齢化や担い手不足などで近年注目され、中でも技術開発の進むドローンの農業分野への活用を、国内外の企業が競って展開している。特に海外企業は、農産品の品質が世界で高く評価され高付加価値を生み出す日本の農業にビジネスチャンスを見いだしているようだ。

国内勢では当初、三菱商事と日立製作所が出資した合弁企業としてスタートし、その後経営陣による株式買収(MBO)を行ったスカイマティクスが、ドローンを使った農業支援サービスを展開している。住友化学住友商事などの企業やファンドが出資するナイルワークスも、センチメートルの精度で完全自動飛行する農業用ドローンの開発や、専用カメラによる作物の生育状況のリアルタイム診断などを行っている。

日本のスマート農業市場の将来性に着目してこのところ活動を活発化させているのは海外勢だ。種子・製薬分野のグローバル企業として世界に展開するバイエルと、中国・広州のドローン開発メーカーXAGは、昨年から共同で日本での事業に乗り出し、市場開拓を進めている。バイエル子会社で、日本で農業関連事業を展開するバイエルクロップサイエンスがXAGと一体となり、農薬とドローンの最適融合を図るべく協業しているのが特徴で、ドローンによる農薬散布をより効果的に行うための仕様や薬剤の研究などに取り組んでいる。

中山間地の多い日本の農業は、諸外国とは異なる環境も多く、両者の協業で農薬の散布方法や最適な薬剤、日本独特の環境や作物に対する知識が蓄積されたという。バイエルクロップサイエンスのハーラルト・プリンツ社長は「高精度な散布技術を今後研究していけると感じた」と話す。

農業向けドローンを日本を含め世界38か国で展開しているXAG共同創業者のジャスティン・ゴン氏は「日本は精密農業や環境対策に高い基準を有しており我々もレベルの高い研究をしようと思っている」と話す。

農薬散布用の新型ドローンを前に説明するXAGのジャスティン・ゴン共同創業者(右)と、バイエルクロップサイエンスの仁木理人氏

10月初旬に行われた日本市場のレビューではXAGが今秋から導入予定のドローンの新機種も紹介された。持ち運びや組み立ての利便性に優れ、完全自動散布で、作業後に薬液を水で洗い流せる防水仕様により、農家の手入れの負担を減らしたのが特徴だ。

中国のドローンメーカー・XAGが開発した新型の農薬散布用ドローン

国内外の他のドローン・メーカーも圃場管理や効果的な肥料散布を支援するリモートセンシング(遠隔測定)技術を競うなど、農業生産の現場では着実に変化が起きている

このほか農業機械大手のクボタや井関農機は、トラクターや田植え機などを高度化し、自動運転や圃場での作業の自動化を実現する開発を続けて新製品を生み出している。中でも自動田植え機は、熟練者並みの直進精度を得られるなど、農業者の負担を減らし、作業能率を大幅に高める技術が進展を続けている。

スマート農業が世界的に注目される背景には、人口増加に伴う食糧需要の高まりによって、農作物をより効率的に大量生産することが求められていることがある。従来のように農業者の経験や勘に頼って生産を行うだけでは限界があり、最新の技術やデータ分析による効率的な生産体制の変革が期待されている。

一方、これまでは大規模で組織的な農業の担い手が利用するイメージの強かった農機だが、技術の進展で小型化や自動化が進んだ結果、小規模農家も導入しやすくなっているのが最近の特徴だ。スマート農業のすそ野は確実に広がっている

日本政府も、生産性向上のために、機械メーカーやITベンチャーが農業者と連携してスマート農業に活用できる新たな技術を生産現場に積極的に導入することの意義を強調している。2019年6月に閣議決定された成長戦略では、2022年度まで様々な現場で導入できるスマート農業の技術を開発し、本格的な現場実装を進めるよう取り組みの強化を打ち出した。農業就業人口が1995年の414万人から2015年の210万人へと20年間で大幅に減り、1経営体当たりの平均経営耕地面積は1.6ヘクタールから2.5ヘクタールへと増えている。このため1人当たりの作業面積の限界を打破する技術革新は不可欠だ。

情報通信やデータ分析など、最近のIT(情報技術)やAI(人工知能)の恩恵を受けるのは他の産業と同様、農業も例外ではない。熟練農家のノウハウをハイテクによって次の世代に伝承することなど、技術を用いた日本農業の強化は今後ますます期待されそうだ。(本郷香奈)

image by: 本郷香奈

本郷香奈

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