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だから着物は健康的。紐を使った服は体に優しい理由とは

訪日観光客の増加に伴い、着物や浴衣の体験着付けを楽しむ外国人を多く見かけるようになりました。そんなきっかけもあって、ここ数年見直され始めてきた和服文化。しかし、洋服に比べて、和服は多くの紐で布の位置を固定するため窮屈であるとのイメージが拭えません。ですが、メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、「紐を使った服は体に優しいからこそ古代から定着している」と唱え、実際に紐を使ったトレーニングを体験しながら紐と健康の相関性を立証しています。さらに「健康」をキーワードに、和服が世界展開に繋がる可能性も探っています。

紐と帯と人体

1.ヒモトレの不思議

ヒモトレ」という運動法がある。バランストレーナー小関勲氏が考案した紐を使った身体調整法である。紐を体に巻き、軽く体を動かすだけで、体のバランスが整い、凝りや痛み、だるさが解消できる。例えば、輪にした紐を両手首にかけ、軽く張りを持たせながら腕を上げていくと、頭の後ろまでスムーズに手が進んでいく。紐を使わないと、少し苦しくなる。違いは明白だ。

就寝時におへその高さに紐を巻いて眠ると、睡眠中に体のバランスが整い、目覚めが爽快になる。きつく巻くのではなく、ゆるく巻くのがコツだ。小関氏によると、日本人は古くから、ヒモトレを利用しており、その代表が「たすき」であり、「はちまき」だという。

たすきがけをすると、自然に背すじが伸びて動きやすくなり、はちまきをすると、前傾しがちな頭部の位置がリセットされ、首や肩の凝りが軽くなる。これは、実践してみないと感覚が分からない。なぜかは分からないけど、ヒモトレを試してみると、確かに身体が動きやすくなるのだ。

2.古代エジプトのシェンティと帯

世界最古の服は、古代エジプトのシェンティだという。身分の高い人のシェンティは、プリーツの入ったふんどし状のものだが、身分の低い奴隷のシェンティは全裸の腰に結ばれた細い帯に過ぎない。「奴隷を見分けるために着用していた」という説もあるが、私はウェイトリフティングベルトのように、重いものを持ち上げる時に、腰を安定させるためにしていたのではないか、と思う。

帯の始まりは「未開人が狩猟の道具を腰にはさむため」という説もあるが、私はまず「身体の安定のために帯をして、その後で道具を挟んだのではないか」と思う。日本刀も帯に差すが、日本刀を差すために帯をしているのではない。帯をしているから日本刀を挟んだのだろう。

古代の太刀は帯から吊り下げられていた。日本刀を差さない場合でも帯をするし、柔道や空手のような体術でも帯を締める。帯を締めることによって、体が安定するのだ。

3.着物の紐と帯

着物を着付ける時には、数多くの紐を使う。肌襦袢を紐で結び、長襦袢を紐で結ぶ。女性はおはしょりを固定させるために紐を腰に結び。更にその上から紐を結ぶ。その上に帯を締めて、お太鼓を固定するために帯揚げ、帯締めを使う。私は紐の多さは着付けのマイナス点であると考えていたが、ヒモトレを経験して考えが変わった。

日本人は、紐で体を結ぶことで、体の安定性を運動性を確保していたのではないか。紐を結ぶ位置にも意味があり、体が求めている場所にこそ紐を締めていたのではないか。まず、紐があり、そこから、着物の着付けが定まったのではないか、という仮説さえ成立しそうな気がする。もちろん、硬くて幅の広い帯も腰を安定させる機能がある。日本人は着物の前に紐と帯の文化があった。紐と帯を活かす形態がきものだったのではないだろうか。

4.紐とゴムの違い

紐を結ぶのは面倒だ。そこで使われるのが、ボタン、ファスナー、ゴム等である。洋服では普通に使われるパーツだが、着物ではない。着物は、身体にストレスを与えない服である。この意見には反論も多いと思う。きものは疲れる。きものは窮屈だという体験に基づいたものだ。

しかし、本来の着物の着付けとは体を締めつけるものではない。ゆったりと体を包むものなのだ。従って、ボタンやフェスナーなどの固いものを使わない。固いモノが肌に感じるだけでもストレスになるからだ。ゴムも着物には合わない。弱くても締めつけ続けることで、体にストレスを与えるからだ。

実は、下着のゴムの弊害は広く知られている。フランスの医学者レイリーは、「中枢であれ末梢であれ自律神経のどこかに、強い弱いにかかわらず、持続的な刺激を与え続けると病的な自律神経反射をおこす」と提唱しており、ゴム紐のついた衣類で、体を絶えず刺激していると、血管や内臓の働きなどに変化が生じ、さまざまな病気を招くとされているのだ。

これはソックスにも言える。若い時には何ともなかったソックスのゴムが加齢と共に耐えられなくなってくる。ソックスを足袋に代えると、どこも痒くならず、とても快適である。

5.和食の次は和服を世界に!

和食が世界的ブームになったが、一方で魚の漁獲量が激増し、魚の価格が高騰している。世界中の人に美味しい和食を食べてもらいたいと思う一方で、日本だけで美味しい和食を独占しておきたかったなどとも思う。和食は健康に良いから世界に広がった。それなら、健康に良い衣服である和服が世界に広まってもいい

和服は徹底的に体にストレスを与えない衣服である。だから、シルクが最も適している。シルクの柔らかさは体にストレスを与えない。また、シルクという素材はサナギを守る繭から作られており、抗酸化機能を持っている。

また、ボタンもファスナーもゴムも使わず、紐と帯だけで着付ける。しかも、その紐や帯を締める場所は、体にストレスを与えるのではなく、体を調整する場所である。健康に良い和服というコンセプトで世界に訴求できないだろうか。 

image by:Shutterstock

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