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トランプの自業自得。イラン司令官殺害が招く米の世界からの孤立

日本時間8日午前、アメリカによる革命防衛隊司令官殺害の報復として、イラクの米軍基地にミサイル攻撃を実施したイラン。中東情勢は泥沼化の様相を呈してきましたが、そもそもトランプ大統領によるイラン司令官殺害は、戦略的には「正答」だったのでしょうか。今回の無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』で国際関係ジャーナリストの北野幸伯さんが、その検証を試みています。

大戦略から見たソレイマニ司令官殺害

トランプが追い詰め核保有宣言。イランの北朝鮮化で近づく終末」では、米軍が1月3日、イラン革命防衛隊「コッズ部隊」のソレイマニ司令官を殺害した件についてお話しました。

米軍は3日未明、イラン革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」を率いるソレイマニ司令官の車列をイラクの首都バグダッドで空爆し、同司令官ら7人を殺害した。米国防省によると、ドナルド・トランプ大統領が指示したとされる。
(夕刊フジ1月4日)

今日は、アメリカの大戦略から見て、ソレイマニ暗殺はどうなのか?」を考えてみましょう。

アメリカ、真の敵は?

戦略とは、「戦争に勝つ方法」のことです。戦争というと私たちは、「ミサイルをぶっ放す」「空爆する」「戦車で進軍」「兵士が銃撃戦をする」「潜水艦を撃沈する」など、武器を使った「戦闘行為」を思い浮かべます。

しかし「核時代」の戦争は、「情報戦」「外交戦」「経済戦」「代理戦争」などに重点が移っている。だから、「情報戦」「外交戦」「経済戦」も「戦争の一部なのだ」と強く意識することがとても大事です。

さて、「戦争」というからには「敵国」がいます。「誰が敵なのか?」「誰と戦争しているのか?知っておくことも重要です。

アメリカは、どの国と戦争しているのでしょうか?そう、中国です。なぜ?中国は、経済力(GDP)でも、軍事費でもアメリカに次いで世界2位。このままいけば、経済力(GDP)でも軍事費でもアメリカを凌駕し、世界の覇権国家になるでしょう。アメリカは、これを許すことができない。

外的バランシングで敵に勝つ

戦略には、大きく二つの方法があります。一つは、バランシング。自分で責任を持って敵国と対峙します。もう一つは、バックパッシングで、自分は戦わず、他の国を敵国とぶつけます。しかし、中国については、バックパッシングできる時期はすぎ、アメリカが直接対峙せざるを得ない状況になっている。

バランシングにも、二つあります。一つは、内的バランシング。要するに自国の軍備を増強するのです。もう一つは外的バランシングで、同盟関係を強化していく。内的バランシングについて、アメリカは文句なしです。誰も、米軍と戦おうという国はいないでしょう。

外的バランシングも重要です。というか、「最重要」といえるでしょう。たとえば、イギリス。イギリスは、第1次大戦時も第2次大戦時も、一国でドイツに勝つことはできませんでした。しかし、イギリスは、第1次大戦時、アメリカとロシアを味方につけていた。第2次大戦時は、アメリカとソ連を味方につけていた。だから、2回とも勝つことができた。

1937年にはじまった日中戦争で、日本は中国に連戦連勝でした。ところが、中国は、アメリカ、イギリス、ソ連を味方につけた。それで、日本は負けたのです。

というわけで、外的バランシングが最も大事。今のアメリカの立場からすると、同盟関係にある日本欧州との関係を大事にすべきでしょう。ところが、トランプさんは、日本を叩き、欧州も叩くので、日米欧米関係が非常にギクシャクしています。彼はレーガンさんにあこがれているみたいですが、レーガン時代、日米、欧(西欧)米関係は非常に良好でした。

天才戦略家だった後期オバマ

オバマさん、1期目(09~12年)のミッションは「100年に1度の大不況」を克服することでした。彼は、見事にこれを成し遂げました。それで、2期目(13~16年)は、何をしたらいいのかわからなくなった。大戦略がないので、主敵がコロコロ変わっていきます

13年の主敵は、シリアのアサドでした。この年の8月、「シリアを攻める!」と宣言した。しかし、同年9月に戦争をドタキャンして、世界を仰天させました。14年3月以降の主敵は、クリミアを併合したロシアでした。14年8月になると、イスラム国(IS)空爆を開始した。このように、大戦略がない彼は、主敵をコロコロ変え、成果をあげることができなかった。

しかし、2015年3月のAIIB事件で、オバマは、「中国こそが最大の脅威だ!と悟ります。この時、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スイス、イスラエル、オーストラリア、韓国など、「親米諸国群」がアメリカの制止を無視して、中国主導AIIBへの参加を決めた。アメリカの覇権は風前の灯だったのです。

「中国に負けた!」という強烈な体験が、オバマを変えます。オバマは、ロシアと和解し、ウクライナ内戦、シリア内戦イラン核問題をアッという間に沈静化させることに成功しました。そして、すべてのパワーを中国バッシングに注ぐことにした。

あまり認識されていませんが米中戦争は2015年からはじまっていたのです。そして、オバマは、戦いをとても有利に進めていたのでした。

戦略的でないトランプ

ところがトランプになって、アメリカの動きは戦略的でなくなりました。彼も、「中国が最大の敵」であることを、もちろん知っています。であるならば、日本、欧州とはもちろん、ロシア、イランなどとも和解して、中国を孤立させなければならない。

ところが、実際彼は、日本と貿易戦争をする。欧州とは、NATO軍事費問題、ガスパイプライン問題、貿易問題などで、ことごとく対立し、仲が険悪になっている。トランプは、プーチンが異常に好きで、親ロシアですが、議会の反対が強く和解できない。イランについては、2018年、一方的に核合意から離脱し、今の状況を作り出してしまいました。

トランプ政権は、日米、米欧、米ロ、米イラン関係が悪い。結果、中国、ロシア、イランは、事実上の同盟関係」になってしまいました。

イラン、中国、ロシアが海軍合同演習開始 対米緊張高まる中

2019年12/27(金)23:13配信

 

【AFP=時事】(写真追加)イラン、中国、ロシアの3か国は27日、インド洋とオマーン湾(Gulf of Oman)で、4日間の海軍合同演習を開始した。イラン海軍の司令官が発表した。今回の演習は、2015年のイラン核合意から米国が昨年5月に離脱して以降、緊張が高まる中で実施された。イランのゴラムレザ・タハニ(Gholamreza Tahani)海軍少将は国営テレビに対し「この演習の意図は、協力と連帯を通じた平和、友好、そして持続的な安全保障」であり、「その成果として、イランを孤立させることはできないということが示されるだろう」と述べた。

さらに、フランスのマクロンさんは、「アメリカの脅威から欧州を守るために、真のEU軍をつくる必要がある!」などと宣言している。ドイツメルケルさんは、ロシアからのガスパイプライン「ノルドストリーム2」問題でアメリカと対立。妥協しない姿勢を貫いています。つまり、本来アメリカの同盟勢力であるはずの欧州は、全然アメリカの味方ではない。そして、これはトランプさんの自業自得なのです。日本も、アメリカを裏切って中国に走っています。

大戦略から見たソレイマニ司令官殺害

大戦略的に見ると、ソレイマニ殺害は、まことに馬鹿げています。中国と戦争中なのですから、イランと和解してこちらに引き込んだ方がいい。というわけで、イランとの戦争を誘発するソレイマニ殺害は、実に愚かな行動だったといえるでしょう。

どうすればいいかというと、イラン核合意に戻って、「イランは、IAEAの監視下で、核兵器を開発できない状況にする」「そのかわり、イランは原油輸出できるようになる」ですべては丸く収まります。

こんな「戦略的でない」トランプさんですが、民主党候補より「だいぶマシ」でもある。アメリカも人材不足が深刻です。

image by: saeediex / Shutterstock.com

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【著者】 北野幸伯 【発行周期】 不定期

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