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台湾との差が歴然。新型肺炎でも馬脚をあらわした後手の安倍政権

先日掲載の「中国に忖度なし。日本が学ぶべき、台湾の蔡総統『新型肺炎』対応」でもお伝えしたとおり、新型コロナウイルスに迅速かつ的確な対応で臨んでいる、台湾の蔡英文総統。すべてが後手後手に回っている感が否めない我が国ですが、その差は何に起因しているのでしょうか。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で今回、台湾の対応を改めて振り返りその敏速さを評価するとともに、日本国民の不安をかき立てる安倍政権のデタラメさを強く批判しています。

※本記事は有料メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』2020年3月9日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール高野孟たかのはじめ
1944年東京生まれ。1968年早稲田大学文学部西洋哲学科卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。同時に内外政経ニュースレター『インサイダー』の創刊に参加。80年に(株)インサイダーを設立し、代表取締役兼編集長に就任。2002年に早稲田大学客員教授に就任。08年に《THE JOURNAL》に改名し、論説主幹に就任。現在は千葉県鴨川市に在住しながら、半農半ジャーナリストとしてとして活動中。

後手後手をカバーしようと前につんのめる安倍首相の醜態──新型コロナウイルス対応で台湾との余りの落差が評判に

「後手後手の 後で叫ぶ 先手先手」の一句が7日付東京新聞の「時事川柳」欄にあったが、図星である。

昨年12月12日に中国・武漢で原因不明の肺炎患者が見つかってから2カ月以上もの間、危機感どころかそれ以前の関心さえろくに持たずにノホホンと過ごしてきた安倍晋三首相が、尻に火が着いたように慌て始めたのが2月24日からの週で、27日に発作的とも言えるような唐突さで全国一斉休校を宣言。それが余りに不評であったため急いで取り繕おうと29日に記者会見を開いて、これがまた準備不足でむしろ傷を広げる結果となった。

なぜこの時期に尻に火が着いたのかと言えば、本誌のNo.1,035(2月24日号「4月末までに新型肺炎の完全収束がなければ東京五輪は絶望的な訳」)はじめあちこちで「五輪は7月に始まると思ったら大間違い。聖火リレーは3月下旬、事前キャンプの選手団は5月上旬から来日し始めるので、遅くとも4月一杯に終息宣言を出さないと」いう指摘が広がり始めて、さすがの安倍首相とその周辺のボンクラどもも事の重大さに気付いたからに違いない。

これは単に、疾病対応の技術的な巧拙とか、また政治指導者が「やってるフリ」を演じる振り付けの出来不出来とかの戦術的レベルの問題ではない。

米外交問題評議会シニアフェロー(グローバルヘルス担当)のヤンゾン・ファン教授が言うように「公衆衛生は信頼を基盤にしている。政府への信頼は社会資本であり、これが効果的な公衆衛生上の対策をとる上で極めて重要になる」(フォリン・アフェアズ・レポート3月号)。

ところが安倍首相は、そもそも13年ブエノスアイレスで「福島原発事故の汚染水問題はアンダー・コントロール」と真っ赤な嘘をついて五輪誘致に成功したことから始まって、改憲や安保法制など政治課題も、拉致や北方領土など外交案件も、モリ・カケ以来、近頃のカジノ、河井夫妻、お花見、検察人事など数々の疑惑事件に至るまで、どれもこれもその場限りの口先だけの嘘、誤魔化し、はぐらかし、捏造、隠蔽で切り抜けようとするばかりで、国民はもう長い間、そうやってジタバタ、オロオロ、何とかして逃げ切ろうとしている彼の卑屈な姿しか見たことがない。内閣不支持の理由の断トツ・トップが毎度「首相の人格が信頼できない」であることが示すように、彼には危機突破のための結束を呼びかけて国民に耳を傾けて貰えるだけの「社会資本」はとっくに残っていない。そのような本質的かつ戦略的レベルの理由からして、安倍首相のこの後手後手の後の先手のフリは成功しない。

とすると、そのため4月一杯までに新型コロナウイルスの終息宣言を出すことができずに、五輪を中止もしくは延期しなけれならない可能性はますます大きくなっていると見なければならない。中止・延期となればその戦犯容疑は安倍首相一人が負うことになり、血祭りにあげられることになるだろう。

蔡英文の果断な措置への称賛

この安倍政権の体たらくとは対照的に、最初からキビキビと対処して感染を最小限に防いで国際社会から称賛を浴びているのが、台湾の蔡英文総統である。

まずは次のクロニクルを見て頂きたい。これは、7日付朝日「台湾コロナ政策、奏功」、藤重太「台湾の新型コロナ責任者が国民の圧倒的支持を集めるワケ」(プレジデント・オンライン1日付)、黄文雄「新型コロナへの対処法は台湾に学べ」(まぐまぐ!4日付)などを参考に本誌がまとめたものである。

CHRONICLE《新型コロナウイルスへの台湾の対応》

まず第1に、初動の早さに驚く。12月12日に武漢で発症例が見つかって、武漢市当局も中国政府も何が何だか分からず、SNSに書き込まれた救済の訴えを「デマ」と断定して市民8人を警察が処罰したりしていた。しかしその段階からすでに台湾の厚生労働省に当たる「衛生福利部」傘下の「疾病管制署=CDC」は、この動向をウォッチしていたに違いなく、12月30日に至って武漢市当局がようやく「原因不明の肺炎患者が見つかった」ことを公式に認めるや、即、翌31日に衛生福利部が最初の「注意喚起」を発し、専門家による検討を経て1月2日までに入国検疫強化、医師の診察時マスク装着の徹底、帰国後10日間の経過観察、旅行経歴の告知の徹底など、取り敢えずの緊急対策を矢継ぎ早に打ち出している。

この時、肝心の中国は、眼科医の李文亮が感染拡大の危険を微信に書き込んだのをデマだとして、警察が3日、彼を訓戒処分にしたりしていた。中国本体よりも遙かに早く、台湾が危機の本質を見通して素早く最大限の対応に打って出ているのが凄い。本当は政府というのはこういうものなのですね。裏返せば、日本には政府らしきものは存在しなかったということだ。日本政府が第1回の専門家会議を開いたのは、何と、台湾に比べて1カ月半も遅れた2月16日のことで、しかも安倍首相はそれに顔だけ出して中身は聞かず(聞いても自分の頭では理解できないと思ったのだろうが)10分ほど居て、自宅に帰ってしまった(本誌No.1,035「4月末までに新型肺炎の完全収束がなければ東京五輪は絶望的な訳」)。

台湾がとりわけ優れていたのは、1月中旬、中国もWHOも、従ってまた日本も、まだ「ヒトからヒトへの感染はない」と言っている段階で「ありうる」と独自に判断して16日に警戒レベルを上げ、「法定感染症」に指定していることである。中国が「ヒト→ヒト感染」を認め「断固抑え込む」と姿勢を一変させたのは4日遅れの20日。日本がこれを「指定感染症」としたのはさらに8日遅れの1月28日、それに伴って政府に対策本部を立ち上げたのは10日も遅れた30日である。

何より大事なのは透明性ある情報公開

第2に、情報公開の徹底が民心を静める上で極めて重要であることを理解していることである。それは、上述ファンが言う「公衆衛生は国民の政府への信頼がなければ成り立たない」という公理をよく弁えているからだろう。

こうでなくてはいけないよねと思わされるのは、1月8日の段階で「すべての国際線と中国・福建省側との船舶の往来」について警戒レベルを上げる決定を打ち出すについて「12/31~01/08の武漢地区からの帰国便=13便、帰国者の検査人数=1,193人、08日までの感染者=0」というクリアな発表の仕方をしていることである。帰国者の検査だけでなくその家族や周辺をもフォローしているのは当然だし、検疫官はじめ受入側スタッフにも1人の感染者も出していないので、これを聞けば国民は安心する。日本の場合は、航空機もクルーズ船も基準がなく、乗客だけでなく厚労省職員も医療関係者も乗員も汚染されてしまった。このデタラメさが国民の不安をかき立てるのである。

この結果、2月下旬に発表された世論調査で、蔡英文総統の支持率が前月より11.8ポイントも上がって68.5%に達した。安倍首相はそれでなくとも下落傾向だった支持率が、このドタバタで急落するのは目に見えていて、それで小賢しく足掻けば足掻くほどコーナーに追い詰められていく。もはや永田町内の政治記者の関心は「五輪中止で安倍退陣か」というタイミングが5月連休の前に来るのか後に来るのかという見極めに移っているようである。

image by: 首相官邸

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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