新型コロナ対策のジレンマ。30万人以上の死者か、大量の失業者か

 

新型コロナ対策のジレンマ

ここまで書いたところで、韓国では感染の拡大防止にかなり成功しているいう情報が入ってきました(参照:韓国政府からのプレスリリース)。

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このグラフだけ見ると、既に収束に向かっており、とても良い状況のように思えますが、この収束のさせ方は、上のシミュレーションとは大きく違う点があるので、要注意です。

総感染者数が数千人の段階で収束が始まったということは、感染率βを無理やり1.0以下にした結果であり、韓国国民が集団として免疫を獲得したのではない、ということを意味します。つまり、手を緩めればまた簡単に感染拡大が広がってしまうことを意味します(下のグラフ)。

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こんな状況を避けるためには、学校閉鎖、イベント中止、渡航禁止などの措置を有効なワクチンが開発されるまで延々と続けなければならないことを意味しており、その社会的・経済的影響はとんでも無いものになる可能性があります。

つまり、今の政治家たちには、

  1. 感染拡大を徹底的に抑えて、有効なワクチンが開発されるまで我慢し続ける
  2. 感染拡大は医療崩壊を起こさない程度に抑え、国民の大半が新型コロナウィルスに感染して集団としての免疫力を持つまで耐える

の二つの選択肢があることを示しているのです。そしてそれぞれの選択肢には、

  1. ワクチンが開発されるまでの期間が長期に渡れば、社会的・経済的影響は計り知れないほど大きなものになる(例:GDPが大きく落ちこみ、数多くの会社が倒産し、失業者が溢れる)
  2. 医療崩壊を避けることが出来たとして(致死率が0.6%と仮定すると)国民の0.3%程度(日本の場合30万人)が新型コロナウィルスが原因で亡くなる。医療崩壊が起きてしまえば、もっと多くの人が命を落とす

というリスクがあるのです。

「国民の0.3%の命を救うために大恐慌を招いても良いのか」というジレンマがここにあるのです。

ここまでの各国の対応を見ると、まずは医療崩壊を避けるために感染拡大を徹底的に抑えているように見えますが、戦略として1.なのか2.なのかを明確に示した政治家はまだいません。

上のメルケル首相の発言から類推するに、少なくともメルケル首相は、2.が正しい選択肢であることを直感的に理解しているように思えますが、安倍首相は官僚が書いた原稿を読むだけだし、トランプ大統領は大統領選に向けて、非現実的なことしか発言しません。

首相や大統領ではありませんが、英国の首席科学顧問の発言がもっとも正直で適切だと感じました(参照:「Chief scientific adviser wants 40million Britons – 60 percent of the entire population – to catch coronavirus for herd immunity to take effect」)。

「新型コロナウィルスの市中感染は始まってしまったので、集団としての免疫力を持つことが重要で、そのためには4,000万人(英国の人口の60%)がコロナウィルスに感染する必要がある」、と述べているのです。それも、ピークのタイミングは医療システムに余裕のある6月ぐらいに持ってくるのが適切、とまで明言しています。

この話は多くの政治家たちにとって、難しすぎる話であり、まともな舵取りが出来ない国が大半だろうことは簡単に予想できます。

私が政治家であれば、2.の戦略をベースに、以下の政策を取ります。

  • 検査体制を充実させ、感染者数の正確な把握をする
  • リスクの低い軽症患者の自宅待機を義務付ける
  • 莫大な税金を投入して、緊急医療体制を充実させる(医療崩壊の防止と死亡率の低下のため)
  • 病院や老人ホームを感染クラスター化しないことに集中する
  • 医療崩壊を起こさないように注意しながら、出来るだけ早く通常の経済活動に戻す
  • この事態を収束させるには、集団として免疫力を持つしかないことを国民に丁寧に説明する

この中で、もっとも難しいのが最後の「国民の理解」です。感染者数が増えることは必ずしも悪いことではないこと、そして、その中には命を落とすことになる人もいるが、それは許容するしかないことを理解してもらうのは簡単ではないと思います。

image by: Rodrigo Reyes Marin / Shutterstock.com

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マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

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