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危機管理の専門家が指摘。K-1興行を許したのは国や県の責任放棄

政府、埼玉県の自粛要請にも関わらず、6500人の来場者を集め強行された「K-1」の興行。開催翌日に発熱を訴えた観戦者については陰性と診断されたようですが、危機管理の観点から開催を許すべきではなかったと、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんは訴えます。小川さんは、イベント限定で緊急事態宣言を出すなど、法制度の弾力的な運用をすべきで、国や県の責任放棄の姿勢が問題だと厳しく指摘。法律の速やかな改善も求めています。

さいたまスーパーアリーナと緊急事態宣言

さいたまスーパーアリーナでのキックボクシング団体「K-1」の大規模イベント開催(3月22日)のニュースを見ながら、つくづく思いました。西村経済再生担当大臣と大野埼玉県知事の自粛要請に対して、主催者は次のようにコメントしています。「発表している大会をちゃんとやるのがわれわれの仕事」(中村拓己プロデューサー)。

K-1側では、来場者にマスクを配布、入場口ほか各所に消毒液の設置、サーモグラフィーの設置、ミネラルウォーターの配付、会場の扉を開けて常時換気、場内の撮影会・握手会は行わず、物品販売も会場の外で行う、などの対策をとったとしています。大会後のパーティーも行われませんでした。

これに対して、大野知事は、要請以上のことはできなかったとニュースにコメントしていました。確かに、「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」(3月14日施行)には次のようにしか書かれていません。

「都道府県知事は、期間を限定して、学校、社会福祉施設、興行場その他の政令で定める多数の利用施設(劇場・映画館・体育館など)の管理者・催物主催者に、施設使用や催物開催の制限・停止などを要請できる」(第45条2)

強制的に中止させることなど、やりたくてもできないということになりますが、それでよいのでしょうか。6500人もの観客が、政府の専門家会議が示したコロナの集団感染の3要件(換気の悪い密閉空間、人が密集、近距離での会話や発声)に全て触れる状態で集まれば、集団感染が起きないと考えるほうがおかしいでしょう。

追跡調査をできるように、入場者には名前と連絡先を記入してもらったと言いますが、感染者が大量に発生し、全国に散らばっていった場合、それで主催者は責任をとることができるのでしょうか。本当の氏名、連絡先を書くとは限らないでしょう。その主催者の説明を受け、それ以上の措置をとらなかった政府は、感染者が発生したら、どのように対処するというのでしょうか。

そして、各方面からの懸念を裏づけるように、24日には観客の中から発熱を訴える人が出たとの情報が飛び交い、ネット上で騒ぎになっています。観戦した翌日の発熱ですから、潜伏期間を考えるとK-1を観戦した結果とは思えませんが、気になるニュースです。

法律的に自粛を強制することはできないにしても、そういう説明をする主催者に対して、実際に感染者が発生し、拡散していった場合の具体的な責任の取り方を問い詰めるべきではなかったでしょうか。答えられるわけがないのです。答えられなければ、開催を認めないと通告すべきですし、あのイベントに限定して速やかに緊急事態を宣言すべきだったのです。「改正新型インフルエンザ等対策特別措置法」は次のように明記しています。

「第三十二条政府対策本部長は、新型インフルエンザ等(国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る。以下この章において同じ。)が国内で発生し、その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがあるものとして政令で定める要件に該当する事態(以下「新型インフルエンザ等緊急事態」という。)が発生したと認めるときは、新型インフルエンザ等緊急事態が発生した旨及び次に掲げる事項の公示(第五項及び第三十四条第一項において「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」という。)をし、並びにその旨及び当該事項を国会に報告するものとする」

6500人の観客を入れて新型コロナウイルスを全国に拡散する一線を越えたということは、国民の生命に対して危険な行為に及んだということですし、人権を侵害したことになるのです。いかに法的強制力が備わっていないといっても、このイベント限定で緊急事態宣言を出せば、それを無視して開催強行とはいかないでしょう。これが、法制度を弾力的に運用するということではないでしょうか。

政府も埼玉県も、おそらくは開催自粛を強制すれば裁判になるし、損害賠償の問題も生じるかも知れないということで、責任を放棄したのだと思います。しかし、考えてもみてください。ビジネスに伴うリスクという点では、台風や地震でビジネスを継続できなくなるのと同じなのです。主催者の立場になれば、たまったものではありませんが、これが災害なら文句をいう相手もいません。自粛要請だから、なんとか開催に持っていこうと理由を述べるのです。

私は主催者を責めるよりも、機能しない法制度を政府が可及的速やかに改善することを希望したいと思います。(小川和久)

image by: patchii / shutterstock

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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