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新型コロナの裏で世界を脅威に陥れている「もう一つのウイルス」

とどまるところを知らない新型コロナウイルスの感染拡大ですが、その裏で深刻な事態が起きているようです。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、我々の生活を脅かす「もう一つのウイルス」の存在を明かすとともに、そのウイルスが世界に与える影響を考察しています。

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コロナウイルスの蔓延が引き起こす国際情勢への大きな挑戦

「ここ数日で世界の感染者は100万人を超え、それにつれ、急速に死者の数も増えるだろう」

4月2日、テドロスWHO事務局長はショッキングな見通しを世界に発信しました。

また、あの強気のトランプ大統領も「仮に対策がフルに実施されたとしてもアメリカ国内で10万人強の死者を覚悟しないといけないだろう。対策が取られなければ200万人規模の死者が出る可能性がある」と発言し、「国内の収束は早くとも6月を目指す」と発言しています。米国CDCの予測では、このままのペースで感染が広がり、対策を講じてもそのスピードをスローダウンできない場合、24万人ほどの死者が出ると発表しています。確実にCOVID-19のoutbreakの震源地(epicenter)はアジアから欧州、そして今やアメリカに移ってきていることが分かります。

それに加えて、日本ではあまり報じられませんが、アフリカでも感染拡大は止まらず、テドロス事務局長の出身国エチオピアでも感染の爆発が始まりました。世界が武漢でのコロナウイルスの蔓延で混乱する中、バッタの大群に襲われ、主要産業である農業に甚大なダメージを受けたエチオピアですが、今やコロナウイルスがトドメを刺しに来ています。それはエチオピアの近隣国であるエジプト、ケニア、ジブチなども然りです。皮肉なことにこれらのアフリカ諸国は、今回のコロナウイルス蔓延のスタートとなった中国と密接な関係にあり、今、その中国が支援に乗り出そうとしていますが、当該国がコロナのイメージもあるのでしょうか。その支援に難色を示しています。

同地域は、実はアメリカもグローバルテロ対策の前線基地として戦略上、重要視しているエリアですが、このコロナウイルス蔓延の最中にも、このエリアで米中の争いが激化しています。

しかし、その綱引きにおいても、アメリカはこれまでに例がないほど、コロナウイルス蔓延とその対応によって力を削がれている現状では、不利な戦いを強いられているようです。エチオピア・ジブチに設置されているとされるCIAのBlack Siteでも、コロナウイルスの感染が確認され、北アフリカと中東地域をカバーする対テロ対策が事実上マヒしており、シリア、イラン、イラクなどに対する抑えが効いていないという情報があります。

つまり、これまでにお話ししたISの再興や、ロシアの中東地域における勢力拡大を、期せずして後押ししてしまっているというようにも解釈できる状況になっています。

逆に“表面上”は「コロナウイルスの感染拡大を食い止めた」と発表している中国は、その言葉を裏付けるかのようにアフリカ、ラテンアメリカ地域、そして中東欧への影響力拡大路線を再開しています。このエチオピアを核とする東アフリカの経済圏においても、反対に直面しつつも、勢力を再拡大し、ロシアと進める国家経済主義圏への取り込みを再開しています。周辺国の経済インフラをすべて握るという中国の野心は、アメリカの影響力の弱体化の影で再燃しており、当該国からの反発は買いつつも、実現に向けて進められています。

同様のことが、そこにロシアをプレイヤーに加えると、ラテンアメリカ・カリブ海諸国地域でも起こっています。ベネズエラはデフォルト寸前と言われてしばらく経ちますが、ロシアが全面的に支援に入り、見返りにベネズエラの油田の権益を得るとの情報が入ってきました。

これは何を意味するかというと、原油価格に関するチキンレースにおいて、サウジアラビアとアメリカに対しての競争力優位を得る可能性です。この地域は歴史上、“アメリカの裏庭”と国際政治上呼ばれているように、アメリカ合衆国の影響力が非常に強いエリアですが、そのバランスが、キューバ危機以来、脅かされようとしているといえるかもしれません。

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そしてこれらによく似た状況は、日本が位置するアジア・太平洋地域でも顕著化しています。通常、このエリアはアメリカの第4艦隊と第7艦隊にがっちりとホールドされ、日米韓の強い同盟関係の下、中国の勢力と対峙する形で力のバランス(均衡)が保たれているはずですが、コロナウイルスはすでにこの地域にいる米兵300名以上を感染させ、その数は加速度的に増加していることで、インド洋・太平洋戦略の要に位置する空母セオドア・ルーズベルトとロナルド・レーガンを機能不全に陥らせています。

これによりアジア・太平洋地域でのアメリカ軍の即応力を著しく削ぐ結果になり、相次ぐ北朝鮮のミサイル発射にあるような脅威に十分に対応しきれていません。

また、中国が自らアピールするように、コロナウイルスの感染ショックから本当に立ち直り始めているとしたら(注:実際には2回目、3回目の感染の波に襲われていて、まだまだ危機的状況との情報もありますが)、これまでアメリカの艦隊がフィリピンやインドネシア、ベトナムの後ろ盾として中国の進出に対抗してきた南シナ海における軍事的なバランスにも大きな変化がもたらされることになります。

現在、日中関係は比較的良好と言われていますが、当該地域での力のバランスの変化、特にアメリカのプレゼンスの低下は、今後、日本の安全保障政策にも大きな影響を与えるでしょう。

第2次世界大戦後、アメリカの独り勝ちに近い形で成り立っていた国際安全保障体制も、今回のコロナウイルスの感染拡大によって大きくその様相を変えることになるのかもしれません(とはいえ、アメリカの持つ戦力はまだまだ圧倒的なレベルですが、そのオペレーションを予定より早くAIベースに変えていかない限りは、その優位性をしばらくは生かせない状況に陥ります)。

コロナウイルスの感染拡大は世界にパニックをもたらしていますが、実はその裏でもう一つのウイルスが世界を脅威に陥れています。

それは病原体ではありませんし、別の感染症でもありません。それは様々なコンピューターウイルスによるサイバー攻撃です。現在、全世界的に顕在化しているのが、「マスク販売で利用者のクレジットカード情報を盗むフィッシングサイト」や、「コロナ対策」キーワードに用いて人々の不安を煽り、個人情報を不法に取得する手口の拡大です。

ダイアモンド・プリンセス号での感染拡大や北海道での緊急事態が発令された時期を皮切りに、世界的に個人情報を売買するダークネットに日本の銀行名や組織名、企業名などの情報が出回り始めているらしいのです。

世界が命を懸けてコロナウイルスの感染拡大と戦っている際に、その隙をついて別の攻撃を仕掛け、儲けようとしている輩がいることには、私は非常に嫌悪感をおぼえますが、このダークネットで売買される個人情報は、実際にはISなどのテロ組織の“新たな”資金源になっているとの報告がインターポールなどから各国の捜査機関にシェアされています。

中東地域や北アフリカ地域の混乱とパワーバランスの変化、EUの影響力の低下、アメリカのプレゼンスの低下、そしてロシアと中国の地域への進出により、シリアやイラクをはじめとする全地域で“安定した力の空白”が生まれています。その中で一度は米軍を中心とした連合軍により壊滅されたと発表されたISやその仲間たちは、この混乱の地に再結集され(主にシリアのイドリブ県とリビア)、ダークネットを巧みに用いて資金を蓄え、その勢力を再度強化しています。

彼らも、もちろんコロナウイルスの感染拡大の脅威をもろに受けている対象ですが、ISの場合、世界屈指のサイエンティスト集団ともいわれることもあり、独自に治療法や対応を練り、構成員のみならず、広げていく支配地域に暮らす人々を「コロナ対策」で釣り、支持を拡大するという戦略に出ています。ここでもコロナウイルスの感染拡大は、テロ組織を間接的にサポートしていると言えるでしょう。

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現在、そういった組織や機関が用いるのが、AI(人工知能)によるディープラーニング(深層学習)です。専門家によると、AIを用いて“だまされパターン”を学習させ、そのうえで効果的な攻撃パターンを編み出させ、実行に移しているとのこと。恐ろしい情報ですが、これこそまさにAI時代の犯罪ではないかと思います。

その性格がABCに続く大量破壊兵器としてのD(Digital)を生み出し、今や、A(核)、B(生物兵器)、C(化学兵器)をもコントロールする最大の脅威にまで成長しています。それらは、さまざまなセキュリティーシステムを破壊し侵食し、国の防衛システムや兵器の管理、金融や資金移動などのシステムを遠隔操作することで、大きな脅威を生むことが出来るようになっています。

皆さんもご記憶に新しいかと思いますが、ホワイトハッカーと呼ばれる“危機を知らせるために活躍するハッカー集団”が、GMの自動運転システムに入り込み、運転を完全に乗っ取った事例がありましたし、最近では飛行中の旅客機の自動操縦システムを不能にしたり、操縦を乗っ取ったりすることが可能であることが証明されました。

まだそれらが実際のテロに結び付いて成功した例は、運良くないですが、資金と技術を手にした“良からぬ考えを持つもの”が愚行に走った場合、それを止める余裕も、今、コロナウイルスの感染拡大に侵される各国にはないでしょう。少し脅威を過大評価していると思われるかもしれませんが、サイバーセキュリティの最前線ではすでに具体的な対抗策が検討されています。

コロナウイルスの感染拡大とまだ誰も予想できない国際情勢・国際経済へのダメージの裏で、着実に別のウイルスによる脅威が広がっています。

これらの脅威に対峙し、効果的に解決策を見出すためには、今一度、密接な国際協力体制が必要だと考えますが、私には、協調とは名ばかりの自国ファーストの流れがコロナによって加速されている気がしてなりません。

一日も早くコロナウイルスの感染拡大が収束し、世界をbusiness as usualに戻すことが出来るようになることを祈って、今週号を終えます。

皆さん、どうぞお大事になさってください。頻繁な手洗いをどうぞ徹底してくださいね。

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image by: tetiana.photographer / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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