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分断する世界。新型コロナウイルスは「国連」をも終焉させるのか

14万人以上の命を奪いなおも拡大を続ける新型コロナウイルスですが、この感染症は世界を根本的に変えてしまう可能性があるようです。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、新型コロナの蔓延が各国に国内回帰と自国中心主義を選択させたと指摘。さらに、その選択により戦後からこれまで育てられてきた「グローバリズムと国際協調」が危機に瀕していると指摘しています。

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新型コロナウイルス感染拡大が問うグローバリズムと自国中心主義の綱引き

「今回のCOVID-19のパンデミックをうけて、グローバリズムも、国連も終焉するのか」

時折出演しているBBCのプログラム中に尋ねられた質問です。

国際政治を勉強し、キャリアとして国連を選び、紛争調停官や気候変動交渉官として仕事をしてきた身としては、グローバリズム、そして国連の信奉者であるはずなのですが、今回は「もちろん、グローバリズムの力は衰えないし、その象徴となり得る国連の真価が発揮される時だ」とは答えることが出来ませんでした。

その理由は、そのグローバリズムの深化こそが、COVID-19のパンデミックをもたらし、わずか3か月という期間で200か国近い国々を恐怖に陥れ、そして多くの人の命を奪ったという“事実”です。それでも、これまでなら「だからこそ、COVID-19との闘いには世界の協調がマストだ!」と答えていたでしょう。

しかし、それが出来なくなったのは、すでに固定化している自国中心主義の流れと、グローバリズムの真骨頂である移動の自由を、各国で実施されたロックダウンが奪い去り、それにより必要とされた外交活動も大幅に縮小されるという現実に直面したからです。

要因としては、米中間の対立の激化があります。これまで3年にわたる貿易戦争を“戦い”、両国の相剋は、周辺国はもちろん、世界中の国々もネガティブな形で巻き込む形で深化してきました。そして、今回の新型コロナウイルス感染症の蔓延は、中国・湖北省武漢市周辺から始まり、それがアジア全域を席巻し、ヨーロッパ全土、そしてアメリカ全土へと拡大していきました。今やアメリカが世界第1位の感染者数と死亡者数を記録する事態です。

そこで、トランプ大統領が「COVID-19はChina Virusだ」と中国による生物兵器テロ説をぶつけ、それに中国が真っ向から対立することで、国際協調の芽は摘みとられてしまった気がします。その表れが4月9日に緊急に開催された国連安全保障理事会で、米中の非難合戦が激化し、珍しいことに(でも非常に不幸なことに)何も文書を出せない事態になりました。

この出来事で、これまで囁かれてきた国連無力説が確定し、私が憧れ、キャリアの基礎を築いた国際連合の存在意義は地に落ちたといえます。残念ですが、COVID-19の蔓延は、この辛い現実を突きつけました。

ところで同じ国連繋がりでお話しすると、今回のCOVID-19のパンデミックを受け、WHOもすでにその国際保健の要としての地位を失いました。皆さん、ご記憶にも新しいかと思いますが、SARSの蔓延を受けて改訂されたWHOの国際保健規則は、原則として、本来アメリカ合衆国も含む全196か国が法的拘束力を受けるはずなのですが、今回、各国から完全に無視され、結果として、WHOも国連も、そして加盟国である世界各国も、国際協調の構築に失敗しました。

それでどうなったか。各国はパニック状態に陥り、国ごとに国内法に基づいて対応を取り、検査体制や医療体制もそれぞれに実施したがために、イタリアやスペイン、アメリカ合衆国でも(そして今後はアフリカ諸国でも)感染爆発が起こってしまいました。

しかし、concerted actionsという協調した対策が根本にないがために、口々に国際協調の必要性を唱えても、誰一人踊らず、代わりに、国内・地域への回帰が起こり、ローカルに独自の対策が打たれ、封じ込め政策もlocalizeしてしまったがゆえに、大規模かつ世界的な対策は有効性を持てないようになってしまいました。

【ローカルな状況には、ローカルで対応したほうが有効】という見解も多く、私も、危機管理上、賛成するところなのですが、実効性を持たせるためには、【大きな方向性と方針】(いつまでに何をして、何を目指すのか)が示される必要があり、それをローカルな状況に当てはめてテーラーメイドで対策を講じる必要があります。

残念ながら、その大きな方向性は具体的には示されないままです。それほどCOVID-19のパンデミックは世界を恐怖に陥れたのだ!というのは事実だと思いますが、背後には機能不全に陥っている国連体制と国際協調があるのだと考えます。

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存在の危機に晒されるEUとユーロ

“国際”協調ではありませんが、国内で協調的な対応をしようとしているのが、トランプ大統領のアメリカ合衆国でしょう。建国以来歴史上初めてらしいのですが、全米50州に大規模災害宣言が発出され、事実上、全米が緊急事態宣言下の体制になりました。

トランプ大統領のハンドリングには賛否両論がありますが、コロナウイルスの感染拡大に対する公衆衛生上の対応はもちろん、アフター・コロナのアメリカ経済回復に向けた州同士の協力が多発してきているようです。連邦政府は方向性を示し、それに権限を持つ知事が納める州が具体的な策を共同で講じるという体制が確立しつつあります。

それに反して、戦後統合のシンボルであり、テストケースであった欧州連合(EU)は、その存在が危機に晒されています。Brexitは確かにショッキングでしたが、Brexitに対しては、EUは比較的統一戦線を保ち対応することが出来ました(個人的には、EUの交渉戦術は下手だったとは思いますが)。

しかし、今回、COVID-19がEU各国に迅速に広まり、イタリア、スペイン、フランスでは大きな被害をもたらし、ドイツも自国内の封じ込めに躍起になっている状態で、連帯とは程遠い状況でしたが、“感染がピークを迎えたのではないか”との見解が出た後、統合と連帯が売りのはずのEU各国は、外出制限の扱いに大きなギャップを生んでしまいました。フランスが5月10日までの外出制限を延長する反面、スペインでは一部緩和するなど、足並みがEU内で揃っていません。また、統一通貨ユーロの下、今回のコロナウイルスの感染拡大による影響への対策としてEUが「コロナ債」の発行を議論した際にも、ドイツとオランダの猛反対に遭い、2日間ぶっ通しで議論しても、世界的危機に対してEUとして連帯することは叶わず、結局、加盟国ごとの対応に委ねるという結果になってしまいました。

大げさかもしれませんが、今回は本当にEUそしてユーロが終わってしまうキッカケになってしまうのではないかと懸念しています。

国際協調、グローバリズムといえば、世界経済はどうでしょうか。G7各国、G20各国、IMFなども続々と金融・財政拡張の策を提唱していますが、残念ながら、これまでの危機とは違い、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によってもたらされた世界的な危機は、金融・財政拡張では救えないと思われます。

その理由は、2008年のリーマンショック後、G20の誕生や中国による4兆元の財政出動などもあり、国際協調の基盤はできましたが、その後、10年以上にわたりダラダラと続けられた財政拡張と金融政策ゆえに、各国ともに万策が尽き、財政的にも実際には余裕がない状況に陥っているからです。また、グローバルな対応が今こそ必要とされますが、制度・規則・法律の違いが、迅速かつ協調した対応の壁になっていると思われます。

それゆえでしょうか。IMFは4月15日、「2020年の世界の経済成長率は久々にマイナスを記録し、少なくとも2019年度比マイナス3%になる」との予測を発表しました。アメリカや日本はおよそマイナス6%という予測も付け加えられており、結果として世界経済は、COVID-19による世界的なロックアウトを受け、1年で5兆ドル以上の価値を失うと言われています。これに対して各国は世界のGDPの1割にあたる8兆ドル程度の財政出動を行うとの算出結果がありますが、これが効果を示すには、奇跡的なスピード感が大事ですが、実際に出動されるにはかなりの時間を要するものと思われます。

その対応の“遅れ”は、世界中で大量倒産と失業を招き、それが経済回復の基盤を破壊することに繋がるため、予想以上に経済の回復には長期間を要することになります。

もし、そこに途上国からの資金の流出という事態が重なれば、世界至るところで債務危機に陥る国々が増え、1997年の世界金融危機や2008年のリーマンショックの比ではないレベルのショックが発生する可能性があるようです。新興国(途上国)の対外債務については、4月15日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議が、「少なくとも2020年末までの対外債務猶予」に合意し、実際、新興国の対外債務の半分以上を占める中国も同意したことで希望が持てそうな雰囲気はありますが、まだまだ世界経済の行方は明るいとはいえないでしょう。

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感染の再拡大が絵空事ではない理由

しかし、経済回復を優先しすぎて、経済活動の再開を急ぎ過ぎると、逆にCOVID-19感染の再拡大を招く恐れもあるため、NY州のクオモ知事の発言にもあるように、経済活動の再開と外出制限の緩和については、かなり慎重に行わないといけないのも事実で、非常に決断のタイミングが難しいのも現状です。

この感染の再拡大は、残念ながらすでに韓国やシンガポール、タイなどで確認されており、都市封鎖が解かれた武漢市でも、中国政府当局は決して認めたがりませんが、感染の第2波が襲ってきているとの情報もあります。

つまり、再拡大は絵空事ではないということです。

その第2波の可能性を恐れさせるのが、急激に増加しているアフリカ諸国での新型コロナウイルス感染症の拡大です。数日で1万人単位のペースで感染が拡大している中、元々医療体制が脆弱なこともあり(例:サハラ以南の国の中では、南アに次いで豊かなナイジェリアでさえ、人工呼吸器は3台のみ)、コロナウイルス感染拡大の封じ込めは特に非常に困難と言わざるを得ず、死者数がすでに爆発的に増えています。そして、アフリカでのパンデミックは、容易にアジアや欧州諸国に逆流してくる恐れがあると言われています。

WHOのアフリカ事務所からは、喫緊の課題として支援要請が各国になされていますが、アフリカでのアフター・コロナの覇権争いに興じる中国や欧州各国も、自国内でのコロナとの闘いの最中ゆえ、名目上の資金援助はできても、人工呼吸器の提供や医療スタッフの派遣など、医療体制への根本的なサポートについては手が回らないとのことです。

つまり理論上、そして理想としては、グローバリズムに基づいた国際協調が必須とされ、また望まれていますが、実際に各国が選んだ方向性は、その逆の国内回帰と自国中心主義と言えるでしょう。今回のコロナウイルスの感染拡大は、各国内での連帯への求心力強化には繋がりましたが、その反動として、自国の国境外に対しては強い遠心力が働き、結果として分断の加速を招いていると考えます。

COVID-19感染拡大の終わりがまだ見えず、私たちの今後の生活がどうなるのかという光も見えづらい中、どのように世界の中で生きていくのか。まだだれも答えを出せない現状こそが国際情勢の裏側であり、また、第2次世界大戦後、デリケートな力の均衡の下、育ててきたグローバリズムと国際協調に対する最大の危機と試練に私たちは今、直面しています。

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image by: Gil Corzo / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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