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新型コロナで別れる明暗。なぜ日本はアビガンを使わせないのか?

新型コロナウイルスによる感染症の初期段階に投与することにより、症状改善に大きな効果があるとされるアビガン。しかしながら日本発のこの薬剤、同感染症の治療薬として認可されておらず、医師の判断だけでは使えないというのが現状です。なぜこのような状況が続いているのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では、著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんがその真相に迫るとともに、政府の対応が招いた「宝の持ち腐れ」状態を強く批判しています。

アビガン投与される人、されない人の運不運はどこで分かれるのか

新型コロナウイルスに冒され、生き延びた人、亡くなった人。基礎疾患の有無とか年齢の違いもあろうが、その差に、運不運を感じる。ともに60歳代、二人の有名人のケースがそうだ。

岡江久美子さん。4月3日に発熱し、病院で診察を受けた。4、5日様子を見るよう言われ、自宅療養していたが、6日朝に容体が急変し、大学病院に入院。ICUで人工呼吸器をつけた。その後のPCR検査で、新型コロナ陽性が判明し4月23日未明、肺炎のため死去した。

石田純一さん。4月14日に病院で診察を受け、すぐにPCR検査を受けた。15日夜、文化放送のラジオ番組に電話で出演したさい、38.8度ほどの発熱が主な症状だと明かし、治療内容についても以下のように詳しく語っている。

「一刻も猶予がないのでアビガンでいかないか、というふうにお話をいただきまして。1回2回は大量投与だったですね。呼吸とかも弱くなってきたもんですから。…おかげさまでアビガンが効いて、4日間で平熱まできました」

岡江さんはPCR検査を受けられないまま自宅で様子見しているうちに重症化した。石田さんは迅速なPCR検査でコロナ感染が判明し、アビガンの投与で回復した。この明暗はあまりにもくっきり分かれている。

4月24日の衆議院厚生労働委員会で、小川淳也議員は加藤厚労相に問いただした。

「岡江久美子さんは4月3日に発症し6日まで自宅で様子見した。早期に病院でアビガンを投与すれば救えた可能性があるのではないか」

アビガンについては、安倍首相自身、4月27日の衆参両院本会議で「すでに2,000例以上投与され、症状改善に効果があったと報告を受けている」と効能を認めている。

小川議員の質問に対し、加藤厚労相は「個別についてはコメントを控えさせていただきたい」と安倍政権の閣僚らしい常套句でかわしたが、岡江さんと同じく、コロナ症状におびえ、PCR検査も受けられないまま自宅待機している人々にとっては、なんとも歯がゆい答弁であろう。

厚労省のホームページには、いぜんとしてこういう記述がある。

次の症状がある方は(1)(2)を目安に「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください。

 

(1)風邪の症状や37.5℃以上の発熱が4日以上続いている。

(2)強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある。

日ごろから人一倍健康に気を配っていたといわれる岡江さんは発熱してすぐに診察を受けた。ただの風邪ではない自覚があったのかもしれない。しかし、その時点では息苦しさまではなかったのだろう。厚労省の指針に従って医師は4、5日様子を見ましょうと言った。

高齢者や基礎疾患のある方は発熱が2日程度でもセンターに相談を、ということになってはいるが、岡江さんはまだ高齢者とまではいえない。昨年末、初期の乳がん手術を受け、放射線治療を続けていたが、乳がん治療の専門家は、岡江さんの受けた放射線治療で免疫が低下していたとは思えないと言っている。

したがって、岡江さんを診察した医師を責めることはできないが、厚労省の指針には、いささか問題がある。「37.5℃以上の発熱が4日以上」という、PCR検査の要件に医師はしばられ、ろくに応援要員をもらえずに多忙を極める保健所はその要件を、検査数絞り込みの頼みの綱としているフシがある。

一方、石田さんの場合、病院の対応はすこぶる早かった。岡江さんと3歳違いではあっても、66歳だといちおう高齢者の部類に入るが、なにより迅速なPCR検査とアビガン投与が可能な病院にかかったことが幸運だった。宮藤官九郎氏もアビガンで快方に向かったという。

疑いのある患者に対して迅速にPCR検査をし、陽性ならどこの病院であろうと、軽症のうちにアビガンを試すことができるよう、厚労省は早急に指針を出すべきである。

4月23日、福岡市と九州大学病院、福岡大病院が、アビガンの投与について規制緩和を厚労省に要望した。

医師の判断でアビガンが使えるようにしてほしいという内容である。つまり、医師の判断だけではアビガンが使えないのが現状なのだ。

周知のとおり、アビガンは、富士フイルム富山化学が開発した新型インフルエンザ治療薬である。新型コロナの薬としては治験段階にあり、治療にあたる病院が国立国際医療研究センターの「観察研究」に参加し、データを提供するというかたちで、新型コロナの患者に投与している。

しかも、医師が投与するためには患者の希望、同意とともに、各病院に設置されている倫理審査委員会の承認が必要である。アビガンを一人の患者に処方しようと思えば、そのつど病院の倫理審査委員会を開いてもらい、承認を得なくてはならないのだ。委員会は外部の有識者もメンバーになっている。手続きに時間と手間がかかることが、アビガン処方の足かせになっているのではないだろうか。

アビガンは奇形を生む副作用が懸念されるため、妊婦らには使用できないが、それ以外にこれといって副作用の心配はない。政府には新型インフルの流行にそなえて200万人分の備蓄がある。これを新型コロナに使う場合は、必要とする投与量が増えるため70万人分となる勘定だが、これをさらに200万人分にまで増産する計画だ。

安倍首相は緊急事態宣言をした4月7日の記者会見で、「先生にアビガンを使ってもらいたいと言って、その病院において、倫理委員会において使えるということになっているとすれば、それは使っていただけるようにしていきます」と述べた。

しかし現実にはどうなのだろう。コロナ患者を受け入れている病院のすべてがこの「観察研究」に参加しているのかどうかが、よくわからない。国立国際医療研究センターのサイトで「参加施設情報」という項目を見ると「Under Construction(工事中)」と記されているだけである。

ただし、昭和大学藤が丘病院、静岡市立静岡病院、福井県済生会病院、京都中部総合医療センターなど個々に医療機関が情報をアップしている例もある。以下は静岡市立静岡病院ウエブサイト記載の一部。

当院では「COVID-19に関するレジストリ研究(後ろ向き観察研究)」を行っております。本研究は国立研究開発法人国立国際医療研究センター、地方独立行政法人静岡市立静岡病院「医学系研究等倫理審査委員会」の承認のもとで実施します。

 

〇対象となる方々 COVID-19感染症患者でファビピラビル(筆者註:アビガン)を投与された方

新型コロナの感染が判明し、この「観察研究」に参加していない病院に入院した場合、アビガンの投薬が受けられない可能性がある。安倍首相は「観察研究の仕組みの下、(アビガンを)希望する患者の皆さんへの使用をできる限り拡大していく考えです」と述べているのだ。

できるだけ多くの検査を実施し、患者の軽症段階でアビガン等を投与して回復させる必要がある。そうすれば、重症化する患者が減少し、医療崩壊は防げるはずである。

検査対象を広げると、軽症の入院患者が増えるから医療崩壊につながるという考えはようやく修正され、無症状・軽症者向けの療養施設を確保して検査を増やしていこうという流れになってきたが、いっこうに検査数は増えていない。

なにより、これまで検査対象を絞り込んできたツケは大きい。たとえば、警視庁が、4月1日から15日までに発見された変死体のうち、コロナ感染が疑われた30人にPCR検査をしたところ、6人が陽性だった。市中感染の広がりを強く感じさせる。

また、慶応義塾大学病院が、新型コロナ以外の治療目的で来院した患者67人にPCR検査を行ったら、なんと4人(5.97%)が陽性者だったという。

院内感染対策として、コロナの症状がない人にどのくらい感染者がいるのかを調べたのだろうが、このデータがニュースになったのは、検査件数が少なくて見えていない感染者が想像をこえて市中に広がっているのではないかという驚きがあったからだろう。

100人に6人が感染しているとすれば、東京都の人口を1,400万人として、84万人にもなる。4月29日時点で公表された東京都の感染者数4,100人とは、あまりにかけ離れた数だ。

こうなると、東京都のコロナ死亡者数117人というのも、怪しい。ふつうの肺炎や、他の死因と判断された死亡者、あるいは変死者の何割かが、実は隠れたコロナ感染者だったということもあるだろう。今年に入ってからの死亡者を集計したデータが見つからないので何とも言えないが、例年にくらべて異常に多いようなら、新型コロナの影響を否定できない。

たしかに言えるのは、東京をはじめ日本の感染の実態が、検査の不足によって覆い隠されているということ。そして、アビガンなど有効性が認められる国産の薬品が、危機にあっても頭が硬い政府の遅々とした対応によって、“宝の持ち腐れ”状態になっている事実である。

とにかく必要なのはスピードだ。隔離施設を確保し、PCR検査体制を拡充するとともに、短時間で簡易にできる抗原検査、抗体検査なども保険適用して広く導入し、陽性と判明した人には早期にアビガンを投与できる仕組みをつくってもらいたいものだ。

image by: Shutterstock.com

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