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吠える中国。コロナ下の空白を利用して世界を威嚇する隣国の恫喝

新型コロナウイルスの完全なる収束が見通せない中、「コロナ後」を見越した大国の覇権争いはすでに熾烈を極めているようです。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、中国、アメリカ、EU、そしてロシアなどの動きを分析しその狙いを探るとともに、アフターコロナの世界秩序を大胆に予測しています。

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After Coronaの世界秩序を支配する“もの”

今、この瞬間も留まることなく拡大していく新型コロナウイルスの感染。中国・湖北省武漢市から感染が広がり、すでにその感染の波は南極大陸を除く世界全国を飲み込みました。もう数日中には公にされている感染者数は500万人を超える勢いです(現在は約490万人)。ロックダウンや自粛生活が長引く中、今、世界は例外なく大きな経済成長の著しい鈍化に直面し、「生命か経済か」という究極の選択を迫られていることは、先週号(「ロシアでさえ国家破綻か。新型コロナが世界にもたらす3つの危機」)でもお話ししました。

IMFは2020年の世界の成長率は2019年比マイナス3%と予測し、世界銀行は「もし感染拡大が長期化した場合、状況によってはマイナス5%以上の状況に陥る」と発表しました。このままでは、途上国の貧困が深刻化し、また、以前もお話しした通り、29か国の経済がデフォルトの危機に陥るとされており、リーマンショックどころではない大きなデフレと不況の波が世界を襲うとの暗い予測も出ています。

感染の第2波の存在が報じられる中、一度感染拡大が収まった国や地域でも第2波・第3波の感染を恐れつつも、“背に腹は代えられぬ”事情で経済活動の再開に動き出しています。様々な科学的・医学的な発見が出てくる中で、この決定が吉と出るか凶と出るかはいずれ分かることになりますが、私としては吉と出ることを切望します。

そのような中、地政学や国際政治の関心は【After Coronaの世界】とくに【After Coronaの勢力地図】に移っています。

After Coronaの世界で主導権を握るためにはどうすればいいのでしょうか。

私は【戦略物資(食糧、医療物資、エネルギー)の流通】、【人の流れ】、そして【情報の流れ(通信インフラ)】という3つの大きな流れを確保し、コントロールし、支配する“もの”がAfter Coronaの世界を制すると考えています。この3つの流れに関係するもう一つの大きな流れを挙げるなら、資金の流れでしょう。

勘の鋭い方であればここまでですでにお気づきかと思いますが、これらの大きな流れこそが、過去30年ほどのグローバル化を一気に推し進め、世界経済を拡大させてきた流れであると言えます(ほかには技術の著しい発展と展開もあるでしょう)。

Before Coronaの世界でこれらの“流れ”をコントロールしてきたのは誰でしょうか?

間違いなくアメリカ合衆国と中国でしょう。

新興経済国の著しい発展は目を見張るもので、大きな経済パワーとしての地位を築き始めてきたのも事実ですし、G20の構成国はそれなりにパワーハウスとしての存在感は付けてきましたが、そのパワーハウスの動向も、実際にはアメリカと中国の動きにコントロールされてきたと言っても過言ではありません。

After Coronaではどうでしょうか。

結論から先に申し上げるとしたら、【その図式は変わらない】でしょう。そして恐らく【米中による2大超大国の存在】と【その他の国々と地域】との間の格差が広がるのではないかと考えます。

間違いなくアメリカも中国も新型コロナウイルス感染拡大によって、経済のみならず、その威信も大きく傷つきましたし、何よりもトランプ大統領と習近平国家主席の指導力とリーダーシップの質を大きく傷つけたと言えます。しかし、それでも両国の世界での影響力の大きさは変わらないでしょう。

コロナ下での新しい生活様式を表すものとして「ニューノーマル」というtermが用いられていますが、私は先ほど述べた力の図式が、私たちがAfter Coronaの世界で直面する“ニューノーマル”であると見ています。

そして、その主役となり得るのが中国です。

今回の新型コロナウイルス感染症の起点となり、世界中に感染を広げた後、いち早く“克服”を宣言し、今では「コロナ下での力の空白」を利用して、自らの覇権と勢力の拡大に乗り出しています。

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その主なものはもう3年以上続く米中対立です。米中貿易戦争、南シナ海での覇権争い、そして今回のCOVID-19を巡る情報戦とその裏にある経済的利権争いという三正面での対立になっています。

米中貿易戦争は、一応、コロナ騒ぎ前に米中合意の第1段階が発表されましたが、その履行は、新型コロナウイルス感染拡大を“理由”に、中国側が停止させています。特にアメリカの農業にとって大きな生命線になりかねないのが、米国産農産物を中国が大量に購入するという合意の履行を、習近平政権が拒否するという恐れです。米国農業が直面している危機については、先週号でもお話ししていますので、今回は詳しくは触れませんが、見方によっては、これは習近平国家主席からトランプ大統領への威嚇・挑戦状と言えます。

このような状況の背景には、「誰がコロナを世界にばら撒いたか」という起源説での米中間での情報戦があります。これについても以前、このメルマガでお話ししていますが、「武漢の生物兵器研究所からの漏洩」、「米軍がウイルスを中国に持ち込んだ」という米国によるバイオテロ説、逆に中国によるバイオテロ説もあれば、「誰の仕業でもなく、あくまでも『自然界から人類への警告』」という自然発生説まで、様々なチャンネルを通じて、米中間の撃ち合い合戦となっています。

真実の在りかは、現時点では謎ですが、コロナの大きな渦に飲み込まれた欧州各国(独仏などの西側)は米国寄りの主張をして中国の非難を行っています。米国はトランプ大統領のみならず、ポンペオ国務長官も激しく中国を非難し、つい先日は「武漢から流失してばら撒かれた確証がある!」と言っておきながら、数日後には「わからない」とトーンダウンしており、よく練られた洗練された情報戦というよりは感情論での非難合戦に見えますが、確実に米中にとって掲げた拳を下げるきっかけを失わせていると思われます。特にトランプ大統領が今週「中国とのすべての関係の断交の可能性」に言及した際には、中国政府は何とか平静を保った反応をしたように思われますが、すでに米中の争いはpoint of no returnを超えてしまった感があり、今後、どちらの方向に跳ねるか戦々恐々としています。

中国はコロナ下の力の空白を利用して、世界中で威嚇行為を加速させています。その一つが、南シナ海での実力行使でしょう。以前お話ししましたが、南沙諸島海域を行政区に組み入れる決定をし、軍事基地化を進めることで、その海域の領有権を主張するフィリピンやベトナム、インドネシアとの緊張が一気に高まりました。しかし、今はコロナ渦の影響下にあるため、フィリピンなどは正面から対抗する余力がなく、また、アメリカの軍事的な影響力(プレゼンス)の著しい低下を受けて、中国の思いのままにされている感があります。今後、アメリカ海軍のプレゼンスが戻り、かつ周辺諸国が反応できるようになってくると、今までの緊張を超える武力衝突の危険性も生まれてくるでしょう。

よく似た状況は東シナ海でも起きています。特に尖閣諸島への中国の漁船や海警艦船の侵入が常態化してきており、日本政府と中国政府の間に緊張が生まれています。ここ数年、日中関係はこれまでにないほど良いとさえ言われてきましたが、ここにきて、“領土問題”(帰属問題)を、日本がコロナ渦で弱っている時にぶつけてきました。これは日米への威嚇とも考えられますが、これは長年、中国政府と軍が仕掛けてきた“念願の太平洋への進出路の確保”という大目的に沿った動きであると言えます。

アメリカの太平洋における覇権に挑戦するにあたり、中国としては“いつでも安全に太平洋に出ていける道”が必要であり、東シナ海・日本海などの地理的な現実に鑑みた際、尖閣諸島・沖縄石垣海域が最も効率的と分析していることから起きています。先ほどの南シナ海での米中の緊張と同じく、アメリカがどのように対抗し、力のバランスを変えようとする企みを中和するかに、東アジア地域の地政学上の命運がかかっていると言えます。

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同じ太平洋つながりでは、最近、“親中国”オーストラリアとの対立が仕掛けられています。これはオーストラリア政府がWHOをはじめとする国際的な第3者機関においてコロナウイルスの感染拡大における中国の影響について検証すべきと主張したことへの報復措置と考えられ、実際にオーストラリアからの食肉の輸入に報復関税を課す措置を発動しています。中国との貿易に経済を依存していると言っても過言ではないオーストラリア経済にとっては大きなダメージとなり得る危機です。今のところオーストラリア政府も脅しに屈する気配はなく、挑戦を受けて立つ姿勢ですが、アメリカの農業に対する問題と同じく、中国との対立の長期化と激化は、オーストラリア経済のコロナショックからの復興を遅らせることにつながってしまうでしょう。中国からの圧力に対抗するためには、地域のパートナー国である日本がオーストラリアを支援する必要が出てきますが、先のEPA/FTAの内容に照らし合わせてそれがどこまで可能か、頭が痛いところでしょう。オーストラリアやアメリカ、日本などが頭を悩ませている間も、中国からのプッシュは強まるばかりのようです。

そして意外なことに、中国はEUに対しても戦いを挑んでいます。事の発端は在仏中国大使館が、EUのコロナ対策を痛烈に批判したことですが、その後、中国が仕掛けた“マスク外交”の失敗も手伝い、欧州での対中批判が拡大・激化し、フランス政府高官の言葉を借りると「中国は欧州を失う」というほどのレベルに達しています。しかし、EUも中国に対して統一見解と姿勢を持っていないもの事実で、それがEUの“分裂”を引き起こしています。

例えばイタリアやスペインで新型コロナウイルス感染拡大が起きた際、EUに対して医療スタッフや物資の供給を依頼したにもかかわらず、フランスやドイツ、オランダは、自国の感染拡大への対応のために、イタリアやスペインに対する医療物資の輸出制限をかけるという決定になり、EUの結束の脆さが露呈しました。

そしてそこに付け込んだのが中国政府です。イタリアに医療スタッフとマスクやシールドなどの物資を大量に送り込み、また先日述べた情報工作を講じることで、イタリアにおける親中の雰囲気を醸成しました。スペインでも、質の悪い中国製マスクへの批判が起こりましたが、それでも迅速に支援に駆け付けた恩は忘れないとの声明を出すなど、EUの“南欧諸国”は、ギリシャも含めて、中国にシンパシーを感じているようです。そしてさらには、セルビア共和国をはじめとするEU加盟を考える中東欧諸国も、EUからの支援が全くないことに業を煮やし、中国からのマスク外交に乗ることになってしまいました。

Brexitで露呈した分裂、そしてCOVID-19の感染でさらに明確に見えた加盟国間の分裂というダブルパンチを食らい、そこに先述のEU内部で解消されない南北問題がさらなる分裂を引き起こしており、EUの統合など夢ではないかとの声も大きくなってきました。私個人としては、EUが分裂してしまうことはないと思う一方、今回の分裂の様相を見て、今後EUの統合が深化することもないだろうと感じます。

完全な分裂を回避できるかもしれない最後の望みが、ずっとこれまでドイツ政府の反対に直面して成立しなかった「コロナに対するユーロ債(コロナ債)」への拠出に、今週、ドイツとフランスが合意し、5,000億ユーロの拠出を決めたというニュースです。

これまでイタリアやスペイン、ギリシャといった南欧加盟国の経済政策の失敗を、EU内で裕福なドイツやオランダ、北欧諸国がしりぬぐいしてきたことへのフラストレーションが反対の根本原因にあったのですが、【EUの分裂の危機に直面する際には必ず独仏が合意する】という図式が今回も成り立ち、メディアに「メルケル首相の180度政策転換」と言わしめるほどの動きを見せました。

実際にはEU27か国の合意が必要で、かつオランダや北欧諸国が同意するかは分かりませんが、EU分裂回避に向けた大きな一歩だろうと考えます。

どうして今回独仏はこのような政策転換に至ったのでしょうか。その裏にはEU分裂回避という目標以外に、「いち早く欧州経済を再起動させて、After Coronaの国際競争で優位に立ちたい」との思惑があったのだと思います。First/Fast Moverが有利だという原則に則った戦略だと思いますが、その裏には、米中に牛耳られた世界秩序の下で、地政学上のメインプレーヤーの座に戻りたいとの切実な思いが見え隠れします。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』より一部抜粋。)

 

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image by: thelefty / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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