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中産階級は貧困層に。新型コロナが世界中で生む差別、格差、分断

全世界にさまざまな「社会変革」をもたらしたと言っても過言ではない新型コロナウイルス。しかし、元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんによれば、この未知なるウイルスはこれまで隠されていた綻びまでをもあぶり出しつつあるようです。その「綻び」の露呈は、私たちの生活にどのような影響をもたらすのでしょうか。島田さんが自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で考察するとともに、今後の世界が直面するであろう危機を予測しています。

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COVID-19があぶり出した国・政府の”True Colors”

新型コロナウイルス感染が世界中に広がった2020年前半。各国はこれまで覆い隠してきたいろいろな綻びを露にしました。その一つが様々な形での“差別”です。

最も顕著な例で、かつ今、世界を違った意味での連帯に駆り立てているのは、ミネアポリスで起こったジョージ・フロイド氏が白人警官に膝で首を抑えられて窒息するというショッキングな事件でしょう。Black Lives Matterの合言葉の下、人種差別に対するデモが全米に広がり、そのうねりは全世界に広がりました。

英国では植民地支配を推し進めた人物たちの銅像が引き倒され、騒ぎが収まる気配はありません。

どうしてここまで騒ぎが大きくなり、また抗議の波が世界に広がったのでしょうか?

断言はできませんが、コロナ渦の下、各国で表面化した様々な形の差別への反応ではないかと考えます。

Black lives matterの直接的な問題は、アメリカはもちろん、英国をはじめとする欧州各国、そしてラテンアメリカ諸国でずっと存在しているため、比較的連帯の形は見えやすいのですが、どうしてこの反差別へのデモ・抵抗がその他の世界にも広がったのかはなかなか複雑かもしれません。

その一つは、新型コロナウイルス理由での失業・雇用問題にあるのだと考えます。

先週号(「不可避の惨劇。コロナ後に鮮明化する米中対立と新興国の破綻連鎖」)でも書きましたが、ILO(国際労働機関)が今年4月末に発表した報告書では、コロナ下で職を失い、生計の手段を失う可能性がある人口を世界で16億人と予測しました。そのうち11億人は途上国・新興国と言われていますが、失業の波は、いわゆる先進国をも激しく襲っています。

例えば、BP(British Petroleum)社は全社員数の15%にあたる1万人の解雇を発表し、原油への需要減少と原油価格の下落という収益の落ち込みを食い止めるためのコストカット策として、コロナ理由での解雇を行います。また“コロナ”とは言っていませんが、ソフトバンクのビジョンファンドも15%程度の雇用をカットする見込みです。

雇用のカットにまで至らずとも、「雇用を守るため」と職員に時短勤務を要求したり、一時的な解雇を行ったり、理由不明の休職要請を行うことで何とか耐えようとしている企業が多いようですが、もしコロナの影響が長期化する場合、それらの企業も大量倒産することになり、それは失業者への給付の急激な増加を招き、政府も財政負担で破綻してしまう危険性もある、との暗い見通しがILOや世界銀行から発表されることになりそうです。

それに加え、欧米の大企業のリーダーたちの会議に混ぜてもらった際に耳にしたのが、「今後10年間はオフィススペースを大幅に削減し、効率性を高め、儲けを出さなくてはならない」という意見で、それは急激なデジタルエコノミーへの移行を意味します。そういえば最近、日経新聞をはじめとする経済系メディアでもDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉をよく耳にするようになりました。After Coronaの世界経済の“現実”は、DXについてくることができない企業は淘汰され、断行した企業においてはJOBの定義が変わり、構造的かつ大規模な失業が発生することを意味します。それは、さらなる経済的な格差を社会に生むことも意味します。

同じ会議でこのようなことも聞きました。「政府は大企業を経済のエンジンとして守り、中小零細は悪いが一旦破綻してもらうのが良い。コロナをきっかけとして、一度、増えすぎた中小企業の整理が望ましい」というものでした。

日本の持続化給付金の真の意図は分かりませんが、他国で行われている(特に米国で行われている)同様の給付には【倒産するための元手】という隠れた意図があるのではないかとさえ感じさせます。

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結果どうなるか。先進国・途上国の別なく、いわゆる中産階級に大打撃を与え、貧困層に叩き落とし、各国経済における格差の拡大を招くことになります。そしてそれは、さらなる分断を国内外に生むことになりかねません。

これまで3週続いてAfter Coronaの覇権は米中2大国によって争われ、その他の国や地域はどちらのブロックに入るのかを、そう遠くないうちに選ばされるだろう、とお話ししてきました。

しかし、この米中の置かれている覇権国としての立場も決して安泰とは言えず、【分断】が命取りになるかもしれません。

アメリカについては、Black Lives matterのデモの全国への広がりと、それに対するトランプ政権の対応の拙さは、新型コロナウイルス感染拡大の影響で傷んだ経済にさらなる追い打ちをかける形になっています。

そして、その分断をアメリカと覇権争いを繰り広げる中国にうまく突かれ、利用されています。

例えば、中国外交部の報道官である華春瑩氏に、コロナや香港問題で次々と繰り出されるアメリカ政府からの非難への“感情”を表現する際に、ジョージ・フロイド氏が息絶える直前に白人警官に言ったとされる「息ができない」という言葉を用いて痛烈な皮肉で、アメリカからの情報戦を非難しています。そしてそれを見事に民主党サイドに引用され、現時点では、バイデン氏に支持率で差をつけられるという結果になっています(とはいえ、実際のところは本当にバイデン氏優位とは言えません。トランプ支持を静かに行うサイレントマジョリティーが結構存在すると言われていて、現時点で大統領選挙を行わない限りは、トランプ氏が負けるとは言えないと言われている点には、アメリカ社会が抱える暗く深い闇があるのだと思います)。

香港問題の習近平指導部の対応についても、アメリカの分断の隙を突いて、一気に【国家安全法】の制定にこぎつけ、香港における民主化の排除と中国化の深化を完成させようとしています。米英を中心にそれに気づいて非難しており、日本も加わって国際法違反の指摘をしていますが、残念ながらアメリカが本腰を入れて反対できていないのが弱点として露呈し、まだ中国政府の強硬姿勢を崩せていません。

トランプ氏は、過去の戦時大統領になぞらえて、今回のCOVID-19との闘いを戦争に例えていますが、本当に戦争を戦うつもりならば、Black Lives Matterを含む様々な側面で要求を受け入れ、妥協の末、人種の壁を超え、かつ州政府とも協力し、加えて雇用の保証を確約したうえで挙国一致体制の下臨むべきところですが、これまでのところ、対立を煽ることしかできておらず、コロナとのダブルパンチで全米は分裂の危機にあります。

では、もう一方の中国は安泰でしょうか?政治体制的には共産党一党支配ゆえに統制が効いていると言われていますが、「中国陣営」も盤石とは言えません。

例えば経済開放以降、高い経済成長を成し遂げてきた中国も、COVID-19で傷つき、世界銀行などの見立てでは、1970年以降最も低い年率1%弱の成長率にとどまるのではないかと言われています。これは、共産党を支持しつつも半ば強制的に従わされてきている企業、特に国際的な企業からのバックラッシュを食らい、共産党支配の正統性を揺るがすことにもなりかねません。

そこに、「2019年12月初旬には分かっていた新型コロナウイルス感染拡大を1月まで国民にも隠蔽し、結果、感染を拡大させた」ことが明らかになり、また初動にも問題があったため、国民の怒りを買っていますし、米欧との対立を激化させ、中国企業への風当たりを必要以上に強め、中国の発展を鈍らせたとの批判が渦巻いているのも大きな誤算でしょう。

加えて、公式にはCOVID-19理由での失業率は6%と発表されていますが、世界銀行の調べでは、農村部の状況も加えると、恐らく全土での失業率は20%を超えていて、結果的に広がる経済格差ゆえに、国民は共産党に対して爆発寸前の危険な状態だと見る情報も数多く入ってくるようになりました。

中国共産党としては、皮肉にも、アメリカのビジネス界と同じ、大企業のサポートについては、経済発展のエンジンとして支援を手厚くするようですが、数多く乱立し、それなりに発展を支えてきた中小企業にまでは手が回らず、ビジネス面でも分断が明確化してきています。

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そして分断といえば、今や国際案件にまで発展した香港の一国二制度問題です。香港の民主化デモへの対応を誤ったとして、ここでも習近平国家主席とその体制に対して批判が高まり、弱腰ゆえに欧米の介入を助けたとさえ非難されています。それへの答えが一気に強硬サイドに振り切った【香港国家安全法】の制定への動きで、世界を敵に回してでも、政権としては覚悟を見せる機会としても散られているように思われます。

ただ、先週にもお話ししていますが、香港問題は、すでに米国においては“国内政治化”しており、議会が通した香港人権民主化法が発動される事態になれば、トランプ大統領としては、米国内の中国の資産差し押さえと凍結という手段に打って出ることが出来、それは同時に中国共産党及び習近平国家主席の息の根を止めることを意味しますので、覇権拡大を目指す中国にとっては大きな痛手となるでしょう。

その兆しが出てきているのが、一帯一路政策を用いたOne China, One Asia政策でしょう。その担い手は、借金漬けにされた国々(スリランカ、モルジブなど)や、南シナ海で領有権争いを繰り広げるフィリピンやベトナムなどが代表例ですが、その背後にはしっかり欧米諸国がついています。欧米政府と企業は、コロナ前の過度の中国依存を見直す機会として、次々と資本を引き揚げにかかっており、かなりのプレッシャーを中国に対してかけ始めています。

まだEnd Gameになっていないのは、幸か不幸か、米国内での分裂の激化で、中国としては、企業に香港市場への上場を半ば命じたり、外交的な情報工作を行ったりすることで、米国内、そして欧州内での分断を煽り、何とか状況の挽回を図っています。

しかし、習近平国家主席とその体制がいかにコロナショックを抑え、迅速に経済を立て直すことができるか。それは、中国共産党の正統性さえも揺るがしかねない危険な状況にあると言われています。

米中2大覇権国ともに万全の状態とは言えず、国際情勢は大いに不安定な状況ですが、かといって、欧州や日本が、その隙を突き、力を増大してリーダーシップを取れるかといえばそうではなく、各国ともにコロナによって深く傷ついてことで自国のことで瀬いっぱいであるため、やはり米中による国際支配・ブロック化がより強化されることには変わりはないでしょう。

それはつまり、非常に不安定で不均衡な世界を意味し、国の別なく、さまざまな格差が拡大し、これまで国際協調や連帯という【まやかし】の下、巧みに隠されてきたいろいろな形の“差別”が顕在化するのだと思います。

コロナショックは、各国社会・国際社会に存在していた隠れ蓑を、半ば暴力的に強制的に引き剥がし、各国社会の問題を浮き彫りにすることで、結果、社会における、そして世界経済における構造的な分断が鮮明化させることになるのではないかと恐れています。

皆さんはどうお考えになりますか?ぜひご意見をお聞かせください。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』より一部抜粋。)

 

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image by: TZIDO SUN / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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