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不登校児をオンライン授業対象にせぬ福岡市教育委の呆れた言い訳

新型コロナウイルス流行による休校を受け、全国の学校に急速に広がったオンライン授業ですが、福岡市教育委員会は「オンライン授業はあくまでコロナ対策」とし、その対象からいじめ等の理由で不登校となっている生徒は対象外とする通知を出しました。これを「暴挙」と批判するのは、数々のいじめ事件を解決に導いてきた、現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。阿部さんは今回、自身のメルマガ『伝説の探偵』にその理由を記すとともに、教育界の歪な構造を糾弾しています。

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福岡市教委の暴挙

福岡市教育委員会は、「オンライン授業は、新型コロナウイルス感染症対策のための緊急措置であり、上記の児童生徒を対象として、学習機会の保障を行うものです」とのプリントを保護者に配布した。

上記の児童生徒として、2種類を指定した。

つまり、いじめなどで不登校をせざるを得ない児童生徒は対象外であり、一般的に不登校状態となっている子はこの2種には該当しないわけだ。

報道によれば、対象を限定した理由は現状の不登校の児童生徒全員に端末が配布できないことと各家庭の貧富の差やそれに伴うインターネット環境の差があることとされた。

結果として多くの反発が出ていることから、全員分の端末が用意できてから不登校児童への活用を考える段階であるとして、オンライン授業への活用を検討する考えを示したとある。

しかし、これは暴挙と言えるのだ。

なぜ暴挙と言えるのか

まずオンライン授業については、コロナ禍で突然出てきた計画ではない。

「GIGAスクール構想」といって、児童生徒1人に1台の端末がある状態にして、プログラム教育や全国一律のICT環境を整えるというものをすでにずいぶん前からやっているのだ。

国会でも予算が組まれている。

令和元年度の補正予算では、「予算規模2,318億円」とされていたが、令和2年度は「1,951億円」増えて「4,269億円」規模に膨らんでいる。

新型コロナウイルスによる休校からオンライン授業をするために必要な整備は急務だとされ世間的なイメージがついてしまったかもしれないが、「コロナ」=「オンライン授業」ではなく、すでにこの構想は始まっており、その最中にコロナ禍となったのだ。

つまり、政府による大規模予算があり(文科省による端末見積もりはあまりに杜撰であるが)、文科省にはサポートチームまでが作られているにもかかわらず、コロナのみに焦点を当てて、例外的な緊急措置だとプリントで公表してしまうのは、ナンセンス以上と言える。

不登校改善

6月11日の報道によれば、オンライン授業が運用された青森県では、それまで不登校であった7割の児童生徒がオンライン授業で復帰したのだ。一方で、いじめ対策として、オンライン授業は被害者にも加害者にも効果的だ。

被害者において、身の危険の回避や気持ちを落ち着けたりする効果は高い。一方、加害者はそもそも想定されている出席停止を運用しやすくなるのだ。

加害者擁護的なシステムは、いじめによって学校に登校できなくなっている生徒を置き去りにし、それでも学校に来る加害生徒を守ってきた歴史がある。

結果、いじめ加害者は被害者を何人つぶそうが、出席停止はほとんど運用されていない。年に全国で0件から4件程度しか実行されていないのだ。

その理由を紐解けば、多くは加害者の「教育を受ける権利」が出てくるのだが、オンライン授業とすれば、学習は問題なく受けられるだろう。

よって、オンライン授業が一般化すれば、加害者の行為を棚上げした「教育を受ける権利」はその詭弁を退けて、出席停止が運用しやすくなるわけだ。

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「withコロナ時代」

文科省は中教審初等中等教育分科会で、現在を「withコロナ」段階として、教師によるオンラインと対面指導の組み合わせによる新しい教育様式を取ることを明確に打ち出している。

つまり、国の教育指針は、オンライン授業の導入をすでに前提としているのだ。

オンライン授業は学びの機会を止めない重要な教育様式になる。指導の難しさなどの課題はあるが、デメリットを差し引いてもメリットの方が勝るのだ。

今できることは多様化による止めない学びの機会の拡充

令和2年度の補正予算は6月12日に参院本会議で可決・成立した。文科省関連は、1,617億円に及ぶ。予算は大きく2つ、「感染拡大で影響を受けている学生の支援」と「教員の補充」などだ。

全国的な休校で学習が止まっている部分を少しでも取り戻すためには、感染予防対策も含め現状の学校では人手が足りないであろう。その人員の補充に318億円を投じることになっている。他の経済対策と比べれば小規模に見えるかもしれないが、少なからず予算は確保されているわけだ。

教育界の歪な構造

賢明な読者の方はすでにご存じのことだろうが、日常の会話をしていると、文科省の下に都道府県教育委員会が存在し、その下に市区町村の教育委員会があると思っている人がいることがわかる。

教育行政は、独立性が確保されており、そこに上下関係はないのだ。

つまり、文科省がいくら音頭を取っても、国会で何を決めようとも、それに従わない教育委員会が存在するのだ。

悪い例かも知れないが、いじめで訴訟になっている川口市教育委員会がわかりやすい事例になる。川口市教育委員会は、裁判でいじめ防止対策推進法を欠陥法だから従う必要なないと主張しニュースになっているし、市議会でも嘘の答弁を繰り返している。

冒頭の福岡市教育委員会も教育行政の専門部署であるから当然にGIGAスクール構想を知っているはずであり、その予算が国にも福岡県にも計上されていることを知っているはずなのだ。特に福岡市ほどの都市部をもつ地域が、わずか1,800台のパソコンを用意できないということが考えられるだろうか。

答えは否だ。できるはずなのだ。結果的に批判を浴び、「言葉選びを間違えました」と苦し紛れの言い訳をする羽目になるのだ。

そして、このしわ寄せで大きな損害を被るのは、その地域で育つ子供たちなのだ。

福岡市民は自分たちの納税が一体に何に使われているのか、よく把握した方がいいだろう。

教育は人を作る。これはとても大切なことなのだ

そして人が生きる時代は動いている。特に今の時代は旧時代と比べてその速度は異常に速いと言える。もちろん、過去の教育制度でも素晴らしい人材は巣立ったし、その成果もあった。しかし、いつまでも対面指導こそが全てだとするのは、今の環境を考えればナンセンスだ。新たな様式の導入期、どうしても反発も起きるし、毛嫌いする人もいることだろう。

それでも時代は動き、時間は進むのだ。

今後導入されるプログラム教育を紙でやるのか?黒板とチョークでプログラムは書けない。

少なからず低スペックでも動くパソコンなどの端末が必要だ。

教育は過去を生きる人を作るのではない、これからの時代、つまり未来を生きる人を作るものだ。コロナ禍であるから、端末を用意するのではない。もしも、その考えがこの期に及んで言葉に出るような教育委員会があるのであれば、そんな教育委員会は必要ないだろう。

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編集後記

私には何人ものブレーンがいます。教育問題と言えるいじめ問題について、多くの現役教職員や教育行政を行っている人たちが私に情報を提供してくれています。

その中には多くの退職された教員がいます。私に多少影響されてしまうこともあり、後輩の現役教員に意見をすることもあるそうです。先日、これからのICT教育の必要性を熱く語った元教師の方が、現役の方々にこう言われたそうです。

「老兵は死なず、ただ害するのみ」

その言葉お返しします。

いつまでもそのポストにこだわり、変化を求めず、向上すら求めない。こうしたことは教育の世界だけではなく、いろいろな会社や組織でも起きていることだと思います。

成果が右肩下がりとなるのは、時代は進み常に進化しているから、現状維持を求めるには最低限の進化をしていかなければならないからです。

コロナ禍だから今のオンライン対応は特別なんだ。冒頭の福岡市教育委員会のプリントはそうした教育委員会の考えがそのまま反映されたものと言えます。

確かに対面指導の可能性は大きい、しかし国の制度も予算も計画もオンライン導入前提であるのは明白です。

大阪寝屋川市ではオンライン授業は不登校の児童生徒のみではなく対象としています。学びを止めないこと大前提としたら、寝屋川市の広瀬市長の考えが最も実用的と言えるでしょうし、この考え方の見切り取っても、大きな地域差があります。それこそ、教育行政に携わる公務員と地域の教育のかじ取りをする政治家の能力と志で差が生じているのです。

教育は管理するものだと考える集団と教育は子供たちの可能性を最大限に広げる場だと考える小さな集団との考え方の差かも知れません。

今や教育行政や教育委員会は裸の王様のような振る舞いが露呈しています。つねにある教育委員会不要論、こうした考えがあるのは、独りよがりで歪んだ教育委員会の問題があるからだと思います。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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