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美人アナリストが解説。コロナで深刻なダメージ、JR東海も赤字転落か

新型コロナウイルスは多くの企業の業績に影響を与えましたが、中でも大きなダメージを受けた業界の1つが鉄道業界です。緊急事態宣言下で外出自粛やリモートワークの推奨により、鉄道に乗る人が激減しました。あの東海道新幹線ですら乗車率0%があったといいます。そんなコロナ禍での鉄道業界の行方はどうなるのでしょうか?株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さんが、JR東日本、東海、西日本の3社について解説していきます。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

コロナ禍で赤字転落予想のJR東海

新型コロナによって、ダメージを受けている業界の1つが鉄道業界です。「フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議」において、国内上場企業における利益額上位企業の業績を予想しています。この予測では、コロナの影響が2021年3月まで続いたと仮定した場合の企業の営業利益の増益率を各社出しています。鉄道業界の代表として、利益率の高いJR東海ですら、2020年12月には赤字転落の予想となっています。

鉄道会社への影響は甚大

鉄道会社は日銭を稼ぐ商売であることから、手元資金は比較的薄いことが多いです。しかし、その日銭を稼ぐための利用者が未曽有の急減となっている状況に陥っています。優良黒字路線のJR東海ですら、利用者数は前年同期比で空前の大減少となりました。今後制限が緩和されていったとしても、鉄道業界の影響は甚大になるでしょう。

今回は、JR東日本、JR東海、JR西日本の3社の財務体質を分解し、今後の展開を見通していきます。 

固定費が重い鉄道業界

人の移動が止まったことで、鉄道業界にも影響が出ています。2019年度のJR東日本の決算は大幅な減益となっており、営業利益は前期比22%減の3808億円でした。20年度の業績見通しについては、「未定」となっています。

鉄道業界の構造の特徴は、固定費が高い点です。売上高の増減にかかわらず、固定的に発生する費用、例えば、車両や線路の維持管理費用や人件費が重くのしかかります。

感染拡大を防ぐためとして2月以降、鉄道利用が大幅に減少し、駅周辺で手がける関連事業にも影響が波及しています。巨大装置産業の鉄道は、固定費型ビジネスモデルであり、需要急減は財務基盤を直撃しているのです。費用圧縮効果は限定的で、当面は資金流出に備えた手元流動性確保が課題となっています。 

3社の決算、20年3月期は大幅減益

今回は、JR東日本、JR東海、JR西日本の3社の直近の決算から業績と財務状況を分析していきたいと思います。 

【JR東日本】

4月28日発表した20年3月期連結決算が、売上高2兆9466億円(前期比1.8%減)、営業利益3808億円(同21.5%減)、純利益1984億円(同32.8%減)と2ケタ減益となっています。 

【JR東海】

4月27日発表した20年3月期連結決算が売上高1兆8466億円(前期比1.8%減)、営業利益6561億円(同7.6%減)、純利益3978億円(同9.3%減)となっています。 

【JR西日本】

4月30日に発表した20年3月期連結決算が、売上高1兆5082億円(前期比1.4%減)、営業利益1606億円(同18.4%減)、純利益893億円(同13.0%減)と2ケタ減益の結果となっています。 

3社の1-3月期の営業利益の推移

公共インフラとして不況に強い鉄道業界は、2019年3月期まで、JR東日本、JR東海、JR西日本の3社とも増収傾向で推移していました。特にコロナの影響が出始めた、20年3月期の1-3月期の営業利益を過去と比較すると大きな凹みとなっていることが分かります。移動の制限が解除されることで、ある程度、利用者が戻ることが予想されますが、コロナ以前の水準に戻るには時間がかかると見られます。

JR東日本の20年1~3月期の営業損益は463億円の赤字となりました。前年同期は443億円の黒字で、四半期に営業赤字となるのは初めてのことです。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛で鉄道利用が激減し、運賃収入は足元で一段と落ち込み、21年3月期の業績悪化は避けられない状況です。 

JR東海の20年1~3月の営業利益は前期比60%減の442億円と黒字を保っていますが、最終的なもうけを示す純利益が前年同期比85%減の97億円となっています。JR東海は全体の営業利益でみた場合、運輸事業の割合が9割超と他の2社(7割)に比べても高いです。新幹線が好採算なためで、それだけ運輸収入の落ち込みは業績に響きやすいと言えます。 

JR西日本は20年1~3月期の営業損益は305億円の赤字です。前年同期は171億円の黒字でした。また期純利益32.8%減となっています。鉄道事業、ホテル事業の依存度が高く、鉄道事業のビジネス需要比率が相対的に高いことも、テレワークが進展する状況下ネガティブと判断されています。 

JR東日本、JR東海、 JR西日本の営業利益率

3社の営業利益率の推移を比べると、JR東海の営業利益率の高さが飛びぬけています。19年は約38%と驚異的な高収益を記録しています。JR東日本は16%、JR西日本13%と2桁の営業利益を維持していました。20年はコロナの影響から凹みが見られますが、JR東海、JR東日本、JR西日本はそれぞれ、36%、13%、11%となっています。

3社のセグメント別の売上高

ここからは、3社のセグメント別の売上高を分解していきましょう。 

JR東日本は運輸以外の多角化を進める

JR東日本は売上全体に占める運輸の割合が63%と高めです。また、決済・サービスが18%、不動産・ホテル事業が11%を占めています、これらの不動産事業は今まで高収益事業でしたが、今後はウィズコロナの中である程度影響が出てくると見られます。JR東日本は、変革「2027」という経営ビジョンを2018年に発表しています。その中で、鉄道を中心とした輸送サービスの次に、力を入れる事業が「生活サービス事業及びIT・Suica事業」だと述べています。これは、決算資料のセグメントでは、決済サービスとその他にあたると見られ、ここに、経営資源を重点的に振り向けることで、新たな「成長エンジン」としていくとしています。今は売上高が運輸に偏っていますが、今後は輸送以外の比率を40%に高めていくと打ち出しています。その際に、強みとなるのが、発行数8000万枚を超えるSuicaの存在です。現在、Suicaの伸び率が鈍化しているといわれていますが、Suicaは移動情報・決済情報・購入情報を保有しており、それ自体が、既に多くの企業に取って有益な情報となります。

 

セグメント別の営業利益率は、運輸事業(12%)、流通・サービス(6%)、不動産・ホテル(20.2%)、その他(8.7%)と不動産・ホテルの利益率が高い点が特徴です。JR東日本が子会社含めて保有、運用している物件としては、アトレ、ルミネ、グラントウキョウなど、いずれも駅近もしくは駅直結の高い利便性が集客力に直結しています。 

JR東海は新幹線が営業利益の9割を占める

JR東海のセグメント別・売上高は運輸業が70%を越え、セグメント別・営業利益でも運輸業が94%を占めており、新幹線が柱となっている売上構造であることが分かります。

セグメント別利益率でも、運輸業(45.5%)、流通業(3.6%)、不動産(24.6%)、その他(6.2%)と、本業である運輸業の営業利益率が45.5%と、高い営業利益率を叩き出しています。また、売上の比率では4%にとどまりますが、不動産業の営業利益率24.6%も高い数値だと言えます。また、JR東海の運輸業の収入の内訳は東海道新幹線が約9割を占めています。

JR西日本も、迫られる事業の多角化

JR西日本は、運輸業が売上高の62%を占めており、こちらも不動産事業の営業利益率が21.1%と高くなっています。不動産では、ルクア大阪や天王寺ミオなど、駅直結で利便性の高い商業施設や複合施設を保有しています。JR西日本も運輸以外の、事業の多角化が課題となっています。特に、JR西日本の単体売上高営業利益率は、JR東日本やJR東海と比べると低いといった特徴も見られます。

鉄道業界の今後

テレワークやウェブ会議が定着し、乗客数が減ることは予想されますが、内需に関しては、徐々に戻り始める可能性があります。JR東日本、JR西日本、JR東海に関しては、株価の反発が弱く「7割経済」を強いられる中で、株価も6月上旬は「7割戻し」となりましたが、6月下旬には再度、下落に転じています。テレワークの進展による通勤の減少、ネット会議の進展による出張の減少など、今後はJR各社の経営戦略も軌道修正を余儀なくされるのは間違いありません。インバウンドが見込めない中で、本来、利益率の良い不動産やホテル事業の業績には今後も、大きな影響を与えることになります。

Suicaと楽天ペイの提携に注目

そこで、5月25日から楽天ペイがSuicaの搭載を開始した動きに注目です。楽天カードでSuicaにチャージすると200円につき1ポイントたまります。また、楽天ペイのSuicaをJR東日本のポイントサービスである「JRE POINT」に登録すると、JR東日本の乗車時に2%のJREポイントもたまります。カードタイプのスイカを利用するよりも4倍お得です。JR東日本のように、Suicaと「楽天ペイ」の連携など、決済事業を強化する動きが、今後は高まると考えらそうです。

image by: 著者提供

馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)

京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。アベノミクスが立ち上がった時期に法人でトレーダーの経験を経て、フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当する、パラレルキャリア。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

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