菅総理「矢継ぎ早の指示」に盲点。官僚たちの反乱が命取りになる訳

 

ところが、2014年5月30日、実際に安倍政権が設けた内閣人事局は、もっぱら幹部官僚の人事を牛耳ることに力点が置かれた。さっそく、菅官房長官が新たな武器を行使したのは、その翌年のことだ。

当時の総務省自治税務局長、平嶋彰英氏(現・立教大学特任教授)は事務次官候補と目された人材だが、2015年7月、自治大学校の校長に異動を命じられた。

異例の左遷人事。その原因は、菅官房長官を怒らせたことだという。2014年の夏以降、自治税務局長として平嶋氏は菅長官のもとをたびたび訪れ、「ふるさと納税」について意見を具申した。「ふるさと納税」は言うまでもなく、第一次安倍政権下で総務大臣をつとめた菅氏の自賛してやまない政策だ。

返礼品が豪華になる一方で金持ちばかりが得をする制度に疑問を感じた平嶋氏は、自治体に返礼品の自粛を求める案を菅官房長官に進言したが、「水をかけるな」と叱られたらしい。

9月19日のアエラ・ドットには、自治大学校に異動する直前の、高市早苗総務相(当時)との会話が以下のように記されている。

「ふるさと納税で菅さんと何がありましたか?」

「去年、菅さんのところに行って怒られて。あの時の件です」

「用事を見つけて行ったらどうですか。会っているとそのうち気がほぐれるものだから」

菅長官の異動方針を知った高市大臣が平嶋氏を案じ、菅長官に会いに行ったらどうかと勧めている場面のようだ。平嶋氏はよほど気骨のある人物とみえ、高市大臣の言うとおりにしなかった。その結果が、左遷である。霞が関にこの件が知れ渡り、高級官僚たちを震え上がらせたのは想像に難くない。

アエラの記者に語ったのであろう、平嶋氏の菅人事に対する見方はこうだ。

「とにかく『軍門に下らない官僚』という例外は許しません。徹底しないとなめられると思っているのでしょう。それでは人は付いてこないと思います」(アエラ・ドット

こうして、菅長官に直言した者は去り、覚えめでたき官僚が重要ポストに多く就くことになった。新内閣に留任した和泉洋人総理補佐官、北村滋国家安全保障局長はその代表格であろう。

第二次安倍政権発足時に菅官房長官の秘書官をつとめ今では警察庁次長に出世している中村格氏も、菅人事の恩恵にあずかった一人だ。レイプ疑惑で元TBSワシントン支局長、山口敬之氏を逮捕する寸前に逮捕状執行をとりやめさせた一件は、警察の信用を貶めた。

山口氏は安倍首相のヨイショ本を書き、菅長官がTBS退職後の就職の面倒までみた人物。この一件には北村氏も関与している疑いがある。

加計学園の獣医学部新設計画では、和泉洋人首相補佐官が動いた。前文部科学事務次官、前川喜平氏を2016年9月から10月にかけ何度か官邸へ呼び出し、「総理は自分の口から言えないので」と、獣医学部新設を早く認可するよう促した。

前川氏は、獣医学部新設について「安倍首相のご意向」と書かれた文科省の文書を本物と証言して官邸の怒りを買った。「前文科次官、出会い系バーに出入り」という三流週刊誌なみの記事を読売新聞に書かれたが、これも北村氏や中村氏ら菅長官の息のかかった警察官僚が関与していたと見られている。

官僚天国を終わらせ、政治主導にするという課題に、民主党政権は稚拙なやり方で取り組んだために失敗した。安倍政権では官僚の人事を握り信賞必罰を徹底することで、形だけはある程度実現したが、ホンモノの政治主導といえるかどうかは評価が分かれるところだ。

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