菅総理「矢継ぎ早の指示」に盲点。官僚たちの反乱が命取りになる訳

arata20200924
 

9月16日に就任するや、さまざまな問題解決に向けスピード感を意識した動きを見せ続ける菅義偉新総理。そんな首相が政権運営の旗印として掲げる「縦割り行政の打破」ですが、その厚い壁に穴を開けることは可能なのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、そもそも縦割り行政の弊害を打破するために構想された内閣人事局を、官房長官時代の菅氏が官僚を意のままに操る「武器」として用いた事実を改めて紹介するとともに、新総理に人がついてこないであろう理由を考察しています。

早々の指示連発で実務派宰相の本領…なのだろうか?

就任早々、菅義偉首相は矢継ぎ早に指示を出した。河野太郎・行革担当相には「縦割り打破で規制改革」、平井卓也・デジタル担当相には「デジタル庁新設」、田村憲久・厚労相には「不妊治療への保険適用」を、といった具合だ。

もちろん、国民受けする持ちネタ、携帯料金大幅値下げへの期待感に再び火をつけることも、さらさら怠りない。

スピーディーな采配、その意気やよしだが、考えてみれば、7年8か月も安倍官邸の番頭として政治全般に目を配ってきたのだ。目先、なにが具体的に必要か、日本で一番知っている立場のはずである。安倍前首相を差し置いてまでとはいわないが、今になって号令をかけている諸政策のなかには、官房長官として、できたことがいくつもあるだろう。

なにしろ、安倍前首相は「3本の矢」だの「女性活躍」だの「1億総活躍社会」だのと抽象的なスローガンを並べ、“やってる感”の演出に憂き身をやつしてきたのだ。その足らざるところを、効果的な具体策で埋め合わせできたはずだ。

官庁の縦割り打破。大いにやらなければならないことで、菅首相の最も得意とする分野だが、これも、長い官房長官在任中に、もっと進められたのではないか。

もちろん、水害対策に、国交省管轄の多目的ダムだけでなく、経産省管轄の水力発電所、農水省管轄の農業用ダムも利用するようにしたのは、菅官房長官の功績であろう。省庁に横ぐしを刺して行政を効率化するという、この十数年来言われ続けてきた改革の実践例の一つだ。これ以外にもあるのかもしれないが、菅首相の口からこぼれ出るのは、もっぱらこの手柄話である。

さて、菅首相発案「縦割り110番」の開設を仰せつかった河野大臣は、「こんなのすぐやれる」と自分のサイトに「行政改革目安箱」をつくり、どうだとばかりに、フットワークの軽さを見せつけた。広く意見を募集したのはいいが、あっという間に4,000件もの声が押し寄せ、読み切れないため一時ストップを余儀なくされた。

たしかにこれも一つのアイデアで、国民を巻き込んで意識を高めるといえば聞こえがいいが、なかにはパフォーマンスと受け取るつむじ曲がりもいておかしくない。

もともと、内閣人事局は、縦割り行政の弊害を打破するために構想されたものである。

2009年5月、麻生政権下の内閣官房行政改革推進室が出した「行政改革~これまでの取組み」という資料に、以下の記述がある。

縦割り行政の弊害を排除し、幹部職員等について適切な人事管理を徹底するため幹部人事の一元管理を導入。これとともに、政府全体を通ずる国家公務員の人事管理について説明責任を負う「内閣人事局」を内閣官房に設置

官邸が、幹部官僚人事を掌握することによって、省庁の垣根をこえた行政を進めやすくするのが目的である。この目的を理解し、省益より国益を重視しているとおぼしき官僚を重用し、会議体をつくるなどしていれば、今よりはるかに改革は進んでいたはずだ。

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