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【書評】「年金破綻」というフェイクが財務省にとって好都合な訳

「少子高齢化の改善が絶対的に不可能な日本にあって、年金制度は確実に立ち行かなくなる」と言われ続けて久しいですが、我々は座して破綻を待つしかないのでしょうか。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、「そもそも年金は破綻しない制度」と言い切る高橋洋一氏が上梓した書籍。横行する「年金破綻」という情報を精査するのに役立つ一冊です。

偏屈BOOK案内:高橋洋一『ファクトに基づき、普遍を見出す 世界の正しい捉え方』

ファクトに基づき、普遍を見出す 世界の正しい捉え方
高橋洋一 著/KADOKAWA

2019年の日本人の平均寿命は、女性が87.45歳、男性が81.41歳でいずれも過去最高を更新した。女性が7年連続、男性が8年連続の更新だ。年金受給日にはいつも、すいませんね、長生きしちゃってと思うのだが、もうしばらく生きちゃいそうで申し訳ない。いまだに、日本の年金は破綻していると煽る人がいるが、高橋さんはの答えはキッパリと「ノー」だ。大事なことなので何度でも書く。

そもそも年金は昔も今も、厳格な保険理論に基づいて運営されている。数学科出身の著者は年金数理の専門家である。2004年の小泉政権の年金制度改革にも間接的に関わった。「年金は保険である」という原則に基づいて制度の安定化が図られ、「100年安心プラン」が発表された。このとき導入されたのが「マクロ経済スライド」である。もちろん、わたしにはチンプンカンプンだが。

端的に言うと「保険料収入の範囲内で物価や賃金が上がると、それに連動して給付額は増えるが、現役世代の人口減少や平均余命の延びを加味して給付水準を自動的に調整(抑制)する仕組み」だという。自分が将来的に受け取れる年金の額を知らせる「ねんきん定期便」をつくったのも、役人時代の著者だ。

年金制度をわかりやすくいうと、長生きするリスクに備えて、早逝した人の保険料を長生きした人に渡して補償する保険である。65歳を支給開始年齢とすれば、それ以前に亡くなった人にとっては完全な掛け捨てになる。遺族には遺族年金が入るが、本人には1円も入らない。運良く100歳まで生きたら、35年にわたってお金がもらえる。掛け得の人と掛け損の人がいる。運のようなもの。

このように単純な仕組みだから、人口動態を正しく予測できれば、まず破綻しない。

現役世代の人口が減って保険料収入が少なくなろうが、平均寿命が延びて給付額が増えようが、社会環境に合わせて保険料と給付額を上下させれば、「破綻」しない制度なのだ。

人口減少は予測通り起こっていて、それは社会保障制度での心配は想定の範囲内。にもかかわらず、国民は不安を抱く。

《年金は保険》という正しい認識が一般に広く浸透すれば、消費増税ではなく、給付とのバランスにより保険料で対応すればいいという、至極まっとうな“結論”になる。

そうなると、予算編成と国税の権力を握る“最強官庁”財務省の屋台骨が揺らぐ。財務省は「年金は社会福祉であり、今は原資が不十分な状態である」というフェイクが、広まれば広まるほど好都合なのである。

「社会福祉は税金で賄うものだから消費税しかない」という俗論がまかり通る。経済界も「年金は保険」という認識が世間に浸透すると困る。年金保険料は労使折半だから、保険料アップで年金を賄うことは、企業の負担が増えることだ。それなら広く社会一般に負担を押し付ける消費税の引き上げの方がマシだと、経済界は「保険料の引き上げ」という、本来の解決策に強硬に反対するのだ。

著者は北欧の事例を分析し「年金は福祉ではなく保険である」という事実を見出す。そして、「日本の年金制度が数学や統計学を用いてリスクを評価する数理計算に基づいた『保険』である以上、人口が想定通りに減少しても、破綻することはないのである」と断言する。横行する「年金破綻」というフェイクに騙されてはならない。社会保険料徴収のための歳入庁を創設せよ。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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