学術会議問題で判明。菅政権が瀕死のアカデミズムを殺したい本音

 

日本の学術界を巡る戦略課題は何か

学術会議の一件も同じで、本来語られなければならないのは、すでに深刻な危機に直面している日本のアカデミズムをどう立て直すのかという大戦略でなければならない。そういう国家的一大事をさておいて、同会議の人事に手を突っ込んで権力者ぶりを楽しむという、まさに「総合的、俯瞰的」な視点の欠如が問題なのである。

『ニューズウィーク』日本版10月20日号の特集は「日本からノーベル賞受賞者が消える日」で、その巻頭論文は『科学者が消える/ノーベル賞が取れなくなる日本』(東洋経済新報社、19年刊)の著書もある岩本宣明が担当している。それによると「ひとことで言うと、日本の研究現場は瀕死の状態にある。その原因は一にも二にも、資金不足である。日本の政府は借金まみれで、未来への投資である科学技術の研究に回すカネがないのである」。

そのため、研究者は「競争的資金」の獲得競争に時間を奪われ、データの捏造や改竄などの不正行為に手を染める者も出てくる。米『サイエンス』や英『ネイチャー』など国際的に権威ある科学誌で、近年特に日本人の研究者に不正・撤回論文が多いことが指摘されるという国辱的な事態となっている。大学や研究機関は人員削減に苦しみ、若手研究者は慢性的な就職難なので大学院博士過程が空洞化、そのため日本の大学の世界的評価は下がり続けるという悪循環に嵌っている。「このままでは、ノーベル賞はおろか、科学者自体が日本から消えてしまいそうな状況」だと岩本は指摘する。

その致命的な要因は、小泉内閣の下で04年に断行された国立大学の法人化である。それ以降、政府から出される「大学運営費交付金」が年々減額され続けて大学は経営難に追い込まれ、その代わりに「選択と集中」の名目で増額されたのが「科学研究費補助金(科研費)」などの「競争的資金」であり、またその状況に乗じて安倍政権の下で15年に創設されたのが防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」という軍事技術研究助成金である。この後者に対して日本学術会議が17年3月、強い懸念を表明する声明を発したことが、菅首相や自民党の同会議への“敵意”を増大させ、今回のことを招く一因となった。

このように、大学と科学研究の現場を「瀕死の状態」と言われるところにまで追い込んで世界の中での日本の地位を年々下落させておきながら、そこへ軍事技術研究助成金という餌を投げ込むという卑劣極まりないことを行なっているのが安倍≒菅政権である。

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