9.コロナ危機というファクター
2016年との大きな違いは、コロナ禍の中での選挙というファクターです。大きな争点になっていますが、基本的な構図としては「WHO・専門家・欧州やアジアでの常識」に従って対策と経済のバランスを取ろうというのが、バイデン陣営で、これに対して「パンデミックはコントロールしない」(マーク・メドウス大統領首席補佐官)というのがトランプの立場です。
確かに後者、つまり「アンチ・ロックダウン」「アンチ・マスク」のグループというのは存在していて、暴力的な活動をする部分も含めてトランプを支持しています。その周囲に大きな有権者の塊があるのは事実です。ですが、その塊は、そもそも保守州の保守層とダブっており、無党派の未決定層に浸透するというのは限られていると考えられます。
一方で、前者つまり常識的な対策を行なおうと立場は、医療従事者は勿論、都市部の広範な有権者、子供を持つ親世代、高齢者をケアする世代などに広がっています。その中には、多くのノンポリ層、つまり未決定層が含まれていると考えられます。
10.宗教保守派の影響
これも2016年とは少し違う動きをしていると思われます。2016年の時点でのトランプは、カジノを経営して多くの女性と関係を持った(と思われている)というイメージから、宗教保守層には嫌われていました。
一方で、2018年の中間選挙の際には、保守派のブレッド・カバナー判事を強引に最高裁判事に「ねじ込んだ」ことで、共和党主流派とトランプ、そしてこの人事を歓迎して敵対する民主党への対抗心を強めた宗教保守派がタッグを組むことができたのです。下院の多数は失ったものの、上院の多数を共和党が死守できたのは、そのためでした。
今回の2020年も、同じように保守派判事を最高裁に「ねじ込む」ことに成功しています。それも2018年の時より、もっと強引なやり方で進めています。ですが、候補のバレット判事にスキャンダルがなかったことから、民主党の抵抗が静かであり、熱い戦いが起きなかったのです。そのために、宗教保守派は、特にトランプとの連帯感を強くは感じなかったばかりか、これで満足して「トランプは使い捨てでいいや」というムードがあるようです。
現在の賭け屋のオッズ、そして政治サイトの「選挙人獲得数シミュレーション」におけるトランプの劣勢は、以上のようなファクターが積み上がったものと考えていいでしょう。
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